酒井慶子さん
音楽と朗読の表現活動を行うユニット「こんぺいとう」で朗読を担当。
個人でも絵本の読み聞かせや子育て支援活動を行う。
あらまし
- 武蔵野市の子育て支援施設や障害者デイセンターで、絵本の読み聞かせなどの活動を行っている酒井慶子さんに、読み聞かせとの出会いや想いについてお話を伺いました。
絵画教室の先生との出会いに魅了されて
出身は富山県です。進学のため上京し、短大で幼稚園教諭と小学校の教員免許を取りました。幼稚園教諭として3年ほど働いた後、結婚を機に辞めました。夫は転勤の多い仕事で、各地を転々とする生活が15年ほど続いたのですが、2回暮らした仙台で現在の活動のきっかけになる出会いがありました。
仙台にいたころ、子どもを連れて絵画教室に出かけました。そこは絵画教室でもあり不思議な空間で、絵を書いたり粘土で遊んだり自由に楽しんだ後、先生が最後に絵本の読み聞かせをしてくれていました。子どもと一緒に料理をしたり、道ばたで拾った木や草、石などを使って絵を書いたり、どんな植物なのかを観察したりと、絵や自然、料理など身近なものから子どもの自主性や感性を育てていくというプログラムが当時の私にはとても新鮮でした。また、一人ひとりの子どもの考えをすべて認め、受け入れる先生の方針にカルチャーショックを受けたのを覚えています。先生とその教室のファンになった私は子どもを連れて通い続け、そこでママ友もでき、とても充実した忘れられない時間になりました。
その後、埼玉に転勤になり、3年後にまた仙台に戻りました。絵画教室の名前や形態は変わっていましたが、先生やママ友との交流も再開し、そのつながりで当時、仙台市が子育て支援として運営していた親子向けのワークショップのお手伝いをすることになりました。毎月、親子で楽しそうに過ごす様子を見て、ワークショップの内容をもっと知ってほしいという想いから、参加者のママたちとワークショップの内容を一冊にまとめた冊子の編集に携わったりしたことも。そうしてワークショップの準備や絵本の読み聞かせをするようになり3年が過ぎたころ、東京へ転勤が決まり、武蔵野市へ引っ越しました。
読み聞かせや託児、子育てグループの監修も
東京へ転勤になった1992年に、0才からの子育て広場「0123吉祥寺」が武蔵野市に開設されました。そこで、幼稚園教諭の資格と仙台で経験したことを活かしたいと思い、託児のアルバイトをすることにしました。近くのコニュニティーセンターでは、読み聞かせのボランティアも始めました。ママたちから「ここ以外でもっと子どもと遊べる機会がほしい」という要望が出たので、親子で遊べる新たなワークショップの発足に関わったりもしました。孫育てもしつつ、託児アルバイト、ワークショップのアドバイザー、個人での読み聞かせの会の開催と、この10年ほどは一番忙しかった時期でした。
「こんぺいとう」の活動をし始めたのも同時期です。「こんぺいとう」は、音楽と朗読を組み合わせて表現活動を行うボランティアグループで、私は絵本を読んでいます。武蔵野市やその他近隣の保育園や幼稚園などに行き、絵本の世界観に合った音楽と一緒に朗読をしています。
赤ちゃんが多い場所では手遊びを多く取り入れたり、幼児中心ならクイズを取り入れて絵本を楽しんでもらう工夫をしたりと、対象年齢に応じてプログラムを変えています。子育てで忙しいママにも楽しんでもらえるよう、ママにも絵本を読んでいます。参加した方からは「大人になって読み聞かせをしてもらうと、子どもの時に感じたことと今感じることが違っていて楽しい」と言っていただいたことがあります。忙しいママたちが少しでも楽しんでもらえていることがうれしいですし、やりがいを感じています。
「0123吉祥寺」のスタッフの紹介で、障害者デイセンターでは個人で絵本を読んでいます。それまでは子どもを対象にしていたので、寝たきりの方や車いすの方などいろいろな境遇の方の前で絵本を読んで「伝わっているかな」と心配になる時もありましたが、ある時「とても楽しそうでしたよ」、「今度は猫の絵本がいいと言っていました」とスタッフを通じて参加者の声が聞けたことがあり、本当に嬉しかったです。
新たな視点が見つかるのが読み聞かせの魅力
子ども関連の施設では、とにかく子どもたちが元気いっぱいでいつもエネルギーをもらっています。施設のスタッフの方も「酒井さん、待っていたよ!」と温かく迎えてくださり、感謝しています。
仙台での人との出会いから子育て支援施設でいろいろとお手伝いをしているうちに、いつからか絵本を読むことがライフワークになり、約30年が経ちました。絵本を自分で読むのではなく、読んでもらうことで違った視点を持つことができ、物語の見方が変わり、その物語をさらに好きになる。これが読み聞かせの魅力だと思います。だからこそ、読み聞かせの活動を長く続けてこられました。何より、自分が好きな本を自分が楽しみながら読んで、喜んでもらえることは幸せなことです。よく「酒井さんはポジティブですね」と言われるのですが、他人を楽しませるためには自分がまず「へえ~!ほお~!ふうん!」と楽しむことが大切だということを、今までの活動を通じて学びました。
これからも私を待ってくださる方がいる、絵本を読んで喜んでくださる方がいる限り、少しでも長く活動を続けていきたいと思っています。