能登半島地震の避難者の方から実際にお話を伺う講座を開催した府中市社協。どのような思いで企画したのか、また、地域の方にどんな効果があったのかを府中市社会福祉協議会の田中さん・中川さん・島田さんにお話を伺いました。
市役所からの連絡が避難者とかかわるきっかけに
府中市社協と能登半島地震の避難者とのかかわりは、府中市役所から「市内の都営住宅に能登半島地震からの避難者が入居されるようだ」との話を聞いたところから始まりました。同時に「避難者の孤立化防止事業」(※1)が能登半島地震の避難者も対象となっていることを知り、事業を活用しながら能登半島地震の避難者支援を実施することを令和6年度事業計画に組み込もうと決めました。府中市社協には地域福祉コーディネーターが19名おり、地区ごとに配置されています。避難者が入居する都営住宅は一か所に集中していたため、該当地区を担当している地域福祉コーディネーターを中心に支援を開始しました。
まずは、社協が実施している「困りごと相談会」のチラシを対象の都営住宅の全戸に配布しました。この活動により、緊急貸付事業やフードパントリーで相談を受けていた2世帯から「近所への買い物などに行くのに移動が不便だ」とのお話があり、電動自転車の貸し出しを始めることになりました。現在も、この2世帯に3台の自転車を貸しています。
「災害を経験された方から学ぶ勉強会」を開催
府中市社協では、府中ボランティアセンター(以下、「ボラセン」)で災害ボランティアに関する講座を通年で開催しています。そのなかのひとつである「災害を経験された方から学ぶ勉強会」では、昨年度まで水害をテーマにしていましたが、講座を担当している島田さんは今年度の企画を検討するにあたり、能登半島地震を受けて地震への関心が高まっているのではないかと考えました。そこで、東京ボランティア・市民活動センターに相談したところ「市内に避難している方にお話をお伺いすることもいいのではないか」と助言を受けました。被災から間もないことに迷いはありましたが、すでに社協とつながりのあった方に打診。本人からは「少し考えてみます」とお返事をもらいましたが、「自分にそんな話ができるのか」と悩まれていた様子を感じました。その後、ご本人が同じ府中市で避難生活を送られている方や災害ボランティアを経験されている方などと知り合うなかで、自分にもできることがあればという思いから「引き受けます」とお返事をいただくことができました。最初はご自身の経験を5~10分程度お話いただく予定でしたが、打合せを重ねていくなかで、パワポの講演資料を作成いただいたり、被災後に撮影した写真や動画を準備していただきました。
講座当日は、自治会や職場で防災を担当している方、石川県出身で能登の状況が気になっていた方など市民21名の参加がありました。今回お話をお願いした被災者の方からは「日ごろから水などを備蓄していたこと、他の家族が帰省中でひとりで自宅にいたため、その備蓄用品が足りたこと、お正月で車のガソリンも満タンにしてあったことなど『運』がよかった。またいつも厳格だった父が被災後の状況に打ちひしがれた様子で、そんな姿の父を初めて見たということも印象的だった。ほかにも、被災状況や仕事のことなど、深く悲しんでいると気持ちが塞いでしまうので、お隣にお住まいだった方と笑いを大切に前を向いて過ごしていた」と実際の様子を具体的にお話いただきました。
その後、参加者から多くの質疑応答もあり「当事者の方にお話していただくことで、普通に暮らしている生活のなかで、ある日、突然災害が起きるということを実際に感じ『自分ごと』という意識が高まったのではないか」と島田さんは話します。参加者アンケートでも「家に足りないものを準備しようと思った」など具体的に減災につながるアクションを考えている方が多かったそうです。また、参加者のなかに府中のコミュニティラジオ関係者がおり、後日ラジオ出演しご自身の体験をお話していただきました。
今後の支援にむけて
能登からの避難者の現在の状況はさまざまです。すでに能登に戻ったという方もいれば、都内の子どもを頼って東京に来たけれど、都営住宅の供与期限が1年(12月まで)なので今後の住まいをどうしようか悩んでいる方、子どもの学校のことを考えて、このまま東京で生活を続けていこうと考えている方もいらっしゃいます。そのため「行政の大きな枠組みでの支援とはちがう、地域づくりを主たる事業としている社協だからこそできるきめ細かい支援を展開していきたい」と田中さんは言います。しかし、「例えば地域のサロンの情報をお知らせするだけでは、避難者の方は参加しにくいと思います。避難者の方だけが参加できるサロンも開催したいが、年代や家族構成等が異なるなかで、何をテーマに企画するかが難しいところです」と悩みも教えてくれました。あわせて都営住宅の供与期限が12月末までと決められているが、それまでに暮らしを立て直すのは難しい方もいらっしゃるのでは、と制度に対する課題も感じています。
府中市の防災を考える
府中市には市内11の文化センター圏域に「わがまち支えあい協議会」があり、そこに参加してくださっている地域の担い手の方をはじめ、障害当事者、自治会、民生委員、行政等が参加する「防災まち歩き」を市と社協の共催で実施しています。府中市の地形は崖(「はけ」と呼ぶ)があり、崖上と崖下で防災に関する意識が異なるそうです。府中市社協も、本部がある事務所以外に市内に4事業所あるので、崖上・崖下関係なくBCP(事業継続計画)を再確認し、発災時の対応や連携方法を職員全体で共有していくことが必要だと考えています。また、地域住民に対しても災害に関する講座や訓練の周知に尽力していきたい、と強くお話ししていただきました。
講座でお話してくださった被災者の方からは、当初「何の肩書きもない私に話ができるのでしょうか」という不安の声もあったそうです。しかし、同じ“地域住民”という立場の方のお話であることが、地域のみなさんの印象に残る大きな要因であったように感じます。被災者に寄り添いながら支援を続けていくこととあわせて、自身の地域を振り返りながら減災に関するアクションを起こしていく必要も感じました。
- ※1 避難者の孤立化防止事業とは
- 平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、東京都内に避難している高齢者・障害者・子どもなどの孤立を防ぐために、区市町村社協等が実施団体として戸別訪問やサロンなどの交流事業を実施する事業で、東京都の補助事業となっています。
- 令和6年1月1日の能登半島地震の発災を受け、能登半島地震での都内避難者支援も対象となりました。令和6年度は都内で10社協が実施しています。
(取材日:令和6年10月7日)