地域支援係長 石塚勝敏さん 主任相談支援員 田部井由美子さん
あらまし
- 近年、社会福祉法の改正をはじめ、社会福祉に関連する法制度は改正されたり、新たに制定されたりするなかで、各区市町村では包括的な支援体制の構築に向けた様々な取組みが展開されています。しかし、法制度や仕組みがいくら充実してきても、その隙間に陥ってしまう方もいます。そうした悩みや不安を抱えている方に対する取組みとして、今回は、ひきこもりや、不登校、生きづらさを感じている方々に関する居場所づくりをすすめている小金井市社協の取組みを紹介します。
きっかけ
平成28年から、小金井市社協のボランティアセンターでは、ひきこもりについての取組みをしていました。当時はひきこもりについて2名の相談員による、月に1回の相談会が開かれていました。そして、生活困窮者自立支援制度が始まり、社協内に福祉総合相談窓口(小金井市自立相談サポートセンター)が設置されるとともに、福祉総合相談窓口には様々な相談が入り、相談の中からひきこもりの課題が発見されることもありました。現在、ひきこもりに関する相談は包括化推進員の職員2名が主に担当しています。電話相談が多いですが、最終的には窓口に来ていただき顔を合わせながら、じっくり話を聞いています。
2つの居場所
ひきこもりで悩む家族が集う「小金井ひきこもり家族会(COCONE)」が、平成30年12月に小金井市内在住の当事者家族により立ちあがり、学習会と家族交流会が隔月で開催されるようになりました。そのなかで、令和2年10月から生活困窮者支援の自立相談サポートセンターが福祉総合相談窓口に切り替わるときに、月1回の相談会を終了し、福祉総合相談窓口でひきこもりに関する相談に常時対応することになりました。そして、ひきこもりがちな家族を抱える親やきょうだい、親族などを対象とした家族が集う居場所を社協でも毎月開催するようになりました。常設の相談を受け始め、「ひきこもりの相談も受けられる」という看板を掲げたことにより相談が増え、ひきこもりの当事者ともつながるようになりました。次第に、当事者の中から「集まる場所があれば」と話が出るようになり、令和3年6月より、当事者が集まる居場所も始まりました。
【家族が集う居場所】
家族が集う居場所は、「ひきこもりで悩む家族が集う場所」という名称で、毎月第2火曜日の午前中に開催しています。60~70代の母親の参加が多くみられます。基本的には参加者主導で、それぞれの近況など、自由に思っていることを話せる雰囲気を大事にしています。「何も企画しないところに良さがある」と話すのは地域支援係長の石塚勝敏さん。シンプルなかたちで参加してみて、悩みを話せる居場所。ここでは話しても大丈夫だと感じられる居場所。そういった「安心感」を大切にしているとのことでした。職員2名も同席していますが、その場を見守るようにしているそうです。
【当事者が集まる居場所】
当事者が集まる居場所は、「居場所プロジェクトin KOGANEI」という名称で、毎月第1火曜日の午後に開催しています。こちらは、ひきこもりがちな方だけに限定せず、不登校を経験した方や生きづらさを感じている方など、当事者であればどなたでも参加できます。市内・市外を問わず、年齢制限もありません。参加者は主に5人前後の日が多いですが、人数に関わらず開催しています。立ち上げ時は声掛けをした方の参加がメインでしたが、現在は権利擁護センター事業や就労支援からつながった方、地域とのつながりを持ち始めてアルバイトをしている方など、居場所があることで多様な方が集える場となっています。「参加条件に制約がないため、色々なタイプの方が参加しているが、意外と参加しやすいように見受けられます」と話すのは、主任相談支援員の田部井由美子さん。家族の居場所と同じように、基本は参加者主導とし、職員2名はフォローする程度。自由にワイワイしているときもあるとのことでしたが、同時に、家族との関係性や距離感など当事者の会から初めて見えてきたこともあります。
~地域とのつながり~
居場所があるから先の支援につなげられる。その一つに、‟農園ボランティア”があります。
地域で農園をもっている民生委員で町会長の方とつながっています。農園での雑草取りなどの農園ボランティアとして1時間程度の活動に参加すると、必ず一品‟おみやげ”がもらえます。居場所の参加者に声掛けをしてみたところ興味を示してくれる方がおり、ボランティアにつながっています。
また、地域の商店街とのつながりのなかで、「長時間でなくても働いてくれる人が欲しい」との声があり、ステーキ屋さんにて少しずつ役割を担いながら、1年半ほど継続して働いている当事者の方もいるとのこと。
こうして色々な人が見守りながら、居場所をきっかけに力を蓄え、自然体で地域に出て、地域とつながり始めている人も出てきています。「細い線を徐々につなげていきながら、社協もつながりを広げていける」と石塚さん。居場所から人が地域につながっていく、そして社協も地域とつながっていく。当事者の居場所の今後についても、「変わらないスタンスで続けていくことが大切」と考えています。
そのほかにも、日頃の相談などで受ける課題を取り上げ、地域の居場所づくりに興味のある方も参加できる「地域の居場所づくり講座」を毎年開催しています。
地域の課題に向き合うコトとは…
個別相談の内容は多岐にわたります。「一人ひとり違っている。一人ひとりの話に寄り添い、つなげられるものがあれば、一人でも多くの方をつなげたい」と、田部井さん。そのためには日々の経験の積み重ねや繰り返しが大切と話します。
社会をより良くするために様々な法や制度ができている。しかし、どうしても制度からこぼれてしまう人が存在する。「なかなか社会に馴染めず、難しい人がいる。そのような方を受け止めて、先につなげていくことに意義がある。」と石塚さん。そのなかで、これらの居場所はあえて変化しないことが大事。たとえ、一度居場所から離れても、ふと「また戻りたい」と思ったときに、変わらずいつでもある居場所。『紹介してもらったけれど、行くのをずっとためらっていた。でも、いざ行ってみたら話ができた。聞いてもらえた。行って良かった』と、少しでも感じてもらえればと良いとのことでした。
ちょうど、取材に伺った日は、「1日金魚を預かってほしい」との依頼があり、社協事務所内に金魚が預けられていました。たとえ、なんともならないことだったとしても、なんとかしていこう。こうした取り組む姿勢や意識の大切さを感じました。
https://koganeishakyo.jp/
小金井ひきこもり家族会(COCONE)
https://note.com/kogahiki