認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン
夢中になれるアートや学びを、子どもたちの「生きる力」に
掲載日:2022年5月25日
2022年5月号 明日の福祉を切り拓く

認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事

松本 惠里さん

 

あらまし

  • 松本惠里さんは、病気や障害などのために長期入院せざるを得ない子どもたちに、音楽や美術などの参加型のアートを定期的に届ける活動をしています。さらに重症心身障害児・者の在宅訪問学習支援にも力を入れています。

 

困難を乗り越えて教員免許を取得

私は銀行勤務を経て、子育て中に大学の通信課程で英語の教員免許を取得しました。通信課程在籍時に交通事故で重傷を負い、長期入院を強いられた時は、孤独で放り出されたような気分になり、復学をあきらめかけたこともありました。当時のレポートは手書きで、字を書くことすらままならなかったからです。しかし、大好きな子どもたちに英語を教えたいという気持ちが勝り、続けることを決心しました。

 

中学校の教育実習では、事故の後遺症で私の右腕が上がらないことに気づいた子どもたちが何かとかばってくれました。私が子どもたちに何かを教えたというより、子どもたちから人を支えるとはどういうことかを教わったように思います。

 

院内学級での経験が活動のヒントに

念願の教員となり、最初に配属されたのが病気や障害のために長期入院せざるを得ない子どもたちのための院内学級でした。そこで初めて、成長期にある子どもたちが狭い病室で一人で病気と闘っていることを目の当たりにして衝撃を受けました。同時に、なぜ幼い子どもたちがこんな思いをしなければならないのか……という怒りも湧いてきました。

 

院内学級では勉強のほかにも音楽鑑賞会や遠足などいろいろな活動があります。子どもたちと接していると、何かをつくっている時や歌っている時の表情が普段とまったく違うことに気が付きました。気持ちが解放されて、入院していることを忘れているのだろうなと感じました。ものづくりや音楽を中心に置いて、子どもたちと私たちとで挟み込むことで、場の空気が共有されていきます。そうすると子どもたちはとても生き生きとして自分らしくなっていき、お互いの心も通い始めます。

 

このような経験を重ねるうちに、子どもが主体となって、夢中でアートを楽しむような時間をたくさん提供したいと思ったのが、活動を始めたきっかけです。

 

生涯にわたる自信や生きる力に

子どもたちは病室で多くの時間を過ごしますが、プレイルームではアートを媒介として、ボランティアのアーティストと一緒にものづくりをしたり、ほかの子の手伝いをしたりと、他者との関わりや友達との交流が生まれます。病気になって自信を失っている子どもも多いので、自分が活躍できる場所や、人との関わりの中で支え合えるような空気が自然とできているのが良いと思っています。

 

ある病院では、子ども、親、医療従事者、アーティストが一緒になって、ウォールアートの共同制作をしています。病棟の壁にシンボルツリーを貼って、そこに果物のメッセージカードを貼り付けていきます。がんなどで移植が必要な場合、感染症対策のため親との面会もできず、子どもたちは長期間、一人きりで過ごさなければなりません。その環境でどれだけ頑張ったかを書き、さらに次に入ってくる子どもたちに向けてエールを書くのです。

 

自分の経験を活かして人の役に立てるということを、入院中だけではなく生涯にわたる自信や生きる力にしていってほしいです。また、頑張ることができたという経験が、新しい試練にぶつかった時に立ち向かっていくきっかけになったら良いと思います。

 

在宅のさまざまな課題にも取り組む

在宅の障害児・者にアートや学習機会を届ける活動にも取り組んでいます。特に重症心身障害の場合は、見た目の重度さのために本人の「分かる力」が過小評価されがちですが、豊かな内面を持っていますし、環境が整えばできることは多くあります。

 

また、学齢児などは退院後に週6時間の訪問学級がありますが、振替がないため、体調不良でお休みしてしまうとそれきりです。さらに、肢体不自由の子どもへの指導は技術が必要で、特に卒後の学習の機会がほぼないことも課題です。

 

在宅訪問学習支援の「学びサポート」は、学習時間の不足を補い、子どもたちの「分かる力」を信じてさらに引き出していくための活動です。現在は9名の支援員が、既存の教材を活用したり、一人ひとりの状態にあった教材を開発しています。ここでも、すべての子どもが夢中になれる仕掛けを工夫しています。

 

子どもたちに寄り添った活動を

コロナ下では思うように病院で活動できないため、YouTubeチャンネルを開設して動画を配信しています。アーティストが工夫して、できるだけ参加型のコンテンツにしています。2021年6月からはライブ配信も始めて、5~6か所ですが双方向のやり取りができるようになりました。

 

これまでの活動の中で大切にしてきたことは、三方良し、ウィンウィンの関係です。ボランティアも受け入れる側も楽しく、気持ちよく活動できれば持続可能になっていくと思います。

 

人知れず頑張っている子どもたちに思いを寄せて、これからも活動を続けていきたいです。

 

 

病院内での活動の様子

 

 

 

プロフィール

  • Eri Matsumoto
    松本 惠里さん
    認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事
    外資系銀行を経て、2005年から特別支援学校の院内学級に英語教員として勤務。2012年、現場で得た気づきから、長期入院している子どもたちにアートを届ける活動を始め、同年末に法人化。その活動は現在、全国45の病院や施設に広がっている。著書に『夢中になれる小児病棟』(英治出版)。

 

取材先
名称
認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン
概要
認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン
https://smilinghpj.org/
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