元児童養護施設職員 武石 和成さん
児童福祉の便利屋さんになりたい
掲載日:2017年11月29日
2016年8月 692号 くらし今ひと

武石 和成さん

あらまし

  • 福祉サービスの隙間を埋めるためにカフェをはじめた元児童養護施設職員の武石和成さんにお話をうかがいました。

 

オープンして1年の「cafe シモキタトナリ」。ここは体にやさしい食材を使ったご飯や飲み物を楽しむことができます。近くの小学校に通う子どもたちや保護者、地域に住むひとり暮らしの方や高齢者の方、前職からの知り合いやインターネット等でここを知ってくれた福祉関係者や当事者の方などさまざまな方に来ていただいています。

 

自立への、目に見えない準備

私は以前、6年ほど都内の児童養護施設で働いていました。子どもたちと向き合う中で、感じたことが2つありました。

 

1つめは、施設退所後の子どもたちについて。18歳になり施設から自立した子どもたちが無職になる、あるいは住まいがなくなるなど、社会的に孤立した状況に陥ることが度々ありました。そこで、既存の福祉サービスをすすめても、子どもが首を縦に振らないことが多くありました。彼らにとって、行ったことのない窓口の、知らない大人に助けを求めることは、とてもハードルが高いことだったのです。

 

そのうちの大体の子どもたちは、結局自分の力で自立をしていきました。私はただ話を聞き、提案をしただけ。「何の役に立ったのだろう」と考えることもありましたが、後になって、「話ができた」ことが子どもたちにとって大きかったのかもしれないと思い至りました。それで、いつでも話ができる場所をつくろうとカフェを思いつきました。

 

職員の想いを活かしたい

2つめは、職員について。児童養護施設で働く職員には、子どもたちの心のケアや自立のための支援など多くの役割が求められています。私が働いていた頃は、担当する子どもの数も多く、子どもたち一人ひとりの話をじっくりと聞いてあげることがなかなかできずにいました。職員はがんばっているものの、マンパワーが足りない状況。そこで、多忙な施設職員が子どもたちにしてあげたいことを、私が「児童福祉の便利屋」になって実現していきたいと考え、カフェの延長として職場体験、商売体験、学習サポート、勉強会などをお店で行っています。

 

人の役に立つ経験が自信に

私は子どもたちに、挑戦する、失敗してまた挑戦する、といった経験をたくさんしてほしいと思っています。また、子どもたちと協働することを大切にしています。店内の飾りつけ、パンづくり、ご飯づくり、ウェブサイト用の写真や動画の撮影、地域のイベント出店などを手伝ってもらうことがあります。

 

子どもたちの様子を見ていると「知らない誰かの役に立てた」事実は成長の大きな糧になるのだな、と感じます。

 

近所の高齢者の方がコーヒーを飲みに来たとき、たまたまカフェに来ていた元被支援者の子がいつの間にか高齢者の方の話し相手になっていたことがありました。支援者・被支援者の境目はないのだと気づかされます。

 

「就職できた」は支援のゴールではありません。その後の、失敗して挑戦しての繰り返しを見守り続けることができるよう、細く長く拠点を維持していくことが目標です。

 

ここでは支援と自立の中間にあたるスモールステップを提供しています。NPOでも社会福祉法人でもないからこそ、既存の福祉サービスの隙間を埋める可能性を持っていると思います。

 

子どもたちの頭の中に、選択肢の一つとしてこの場所があってくれたらと思っています。本人がここを居場所だと思えば、居場所にすればよいのです。

今後も子どもや若者たちと一緒にいろいろなことに挑戦しながら、何がどうなっていくのか確かめたいと思っているところです。

取材先
名称
元児童養護施設職員 武石 和成さん
概要
cafe「シモキタトナリ」
http://shoehorn.jp/
東京都世田谷区代田2丁目20-5

世田谷代田駅南口出口から徒歩約0分
月~木 11:00~15:00、18:00~21:00
土日 11:00~15:00
金・祝 定休日
第1・3日曜日…offシモキタトナリ(子どもは無料で食べられるごはんの会)
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