ダンサー兼振付師 アオキ裕キさん
ありのままの身体や表現は美しく不思議
掲載日:2017年11月29日
2016年10月号 くらし今ひと

 

あらまし

  • 路上生活を経験した”おじさん“たちと踊るダンサー兼振付師のアオキ裕キさんにお話を伺いました。

 

私はストリートダンスが好きで、マイケル・ジャクソンに憧れて高校卒業後に兵庫県から上京しました。有名テーマパークのダンサーや、タレントのバックダンサーを経て、平成13年に本場にてダンスを学ぶ為にニューヨークへ渡ったとき、「9・11」のテロがありました。

人々が悲しみに暮れる中、今まで自分自身が人の力になれていないことを強く実感しました。「もっと世の中にエネルギーを伝えたい!」という思いとともに、「自分のダンスは何なのか」、自分の内面をもっと見つめたいと思うようになりました。

 

新宿駅前の衝撃の景色

平成17年のある日の新宿駅前—。ストリートミュージシャンの横で平然とおしりを半分出したまま寝ている路上生活のおじさんがいて、その姿には目もくれずに人が集まり音楽を聴いている、その景色に衝撃を受けました。

そして「このおじさんたちが人前に立って踊ったら、どんなものが生まれるのだろう」と興味を持ったことが新人Hソケリッサ!(以下、ソケリッサ)のはじまりです。

それから半年間、私は路上生活をしている方をスカウトして回り、断られ続けている中、知人にビッグイシューを紹介してもらい協力を得て、冊子の販売員が集まるサロンなどに出向き、「踊るから、見に来てほしい」と30人以上に声をかけました。

私は、「あなたたちの自由な姿を見たい」と伝えたくて、今までやってきたような形式にとらわれたダンスではなく、あるがままに自由に踊りました。その結果、来てくれた6人全員が「やる」と言ってくれたのです。

 

ありのままの豊かな人間の姿

ソケリッサの稽古は金曜と日曜の週2回、18時から21時です。安く借りられる廃校が稽古場です。場所代と稽古後に食べるおにぎり代はビッグイシューが協力してくれています。

現在のメンバーは私の他に5名の方がいます。平均年齢は約60歳。生活保護を受けながらアパートで暮らしている方もいますし、路上生活を続けている方もいます。

毎回稽古に来る方もいれば、ビッグイシューが売れなかった日は気落ちして踊る気分になれないという方もいます。私が惹かれたのは、おじさんたちの持つ感覚であり、生きているそのままの姿。

暗闇の怖さ、朝日の眩しさ、お腹がすいた…どうしようといった、生命体としての根本的な感覚に意識が向いている身体。

その身体感覚を動きに活かせるよう、メンバー個々に合わせ”言葉“を駆使して振付けをしています。例えば、「月の上を歩いて」、「太陽を飲んで」、「爪の先に虫が止まって…」などの言葉を渡し、その言葉から自分でイメージをふくらませ形を生み出していきます。

その動きには「生きる」経験や記憶が自然と表に現れたものとなり、それは私が創造した動きよりもはるかに形式にとらわれない豊かなものです。

 

おじさんたちの身体は芸術

平成19年に自主公演をはじめてから、福祉関連のイベント、ダンスイベント、美術館での公演、ミュージシャンの全国ツアーへの同行、福祉とアートをつなぐ各国団体との情報交換会など、場所や枠組みを越えた活動機会も増え、徐々にソケリッサで見えるおじさんたちの身体性が芸術として認められてきています。

お客さんから拍手をもらった時、おじさんたちはとても輝いています。

普段感じにくい社会とのつながりを感じる瞬間であるかも知れません。今後もいろいろな場所に行き、いろいろな人と出会い、そこから何が生まれるのか楽しみです。

 

取材先
名称
ダンサー兼振付師 アオキ裕キさん
概要
新人Hソケリッサ!
(リンク先:http://sokerissa.net/)
アオキさんと路上生活経験者の方で結成され、「生きる肉体表現」ともいわれるパフォーマンスが人気を呼んでいる。「ソケリッサ!」という言葉は「それ行け!」や「前に進む」という意味を持つ造語。Hには「Homeless」、「Human」、「Hope」の意味を込めています。
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