音楽ボランティア 瓦林紀子 さん
歌が人生とつながって、より深くこころに響く
掲載日:2017年11月29日
2017年3月号 くらし今ひと

 

あらまし

  • 好きな音楽でピアノ伴奏者として高齢者施設で音楽ボランティアをしている瓦林紀子さんにお話をうかがいました。

 

ある時男性の方から「ことりのうた」のリクエストがありました。男性からは珍しいなと思っていましたら、歌いながらハラハラと涙をこぼされました。実はその方の以前のお仕事は「小鳥屋さん」でした。自分が病気になったため、お店を締めることになったと後からうかがいました。

 

利用者の方はさまざまな思いを抱えて施設に来ていると思うので、私たちだけが盛り上がらず「冷静」「落ち着き」「公平」を心がけて活動しています。毎回学んでいます。

 

音楽ボランティアを始めたきっかけは、近所で開設される介護老人保健施設(老健)の施設長である友人から、「今度うちにグランドピアノが入るので弾いて」と誘われたことです。グランドピアノがあるならいいわねと軽い気持ちから始めましたが、月1回、気づけば17年間続いています。

 

私の好奇心

今は女声4人、男声テノール1人、バイオリン1人、ピアノ伴奏の私で活動しています。

 

最初は「頼まれてやっている」という気持ちがありましたが、続けているうちに活動を通じて自分たちも元気になり、自分たち自身にとっても楽しみになっていました。構えすぎず、自分たちが行くことを喜んでもらえ、歌うことで皆さんが声を出して健康になって、また来月ねとお約束できれば良いと、「よい加減」でやってきたからこそ続けてこれたのだと思います。

 

今、私は5か所で音楽ボランティアの活動をしています。なぜかと言うと、自分も高齢になってきて、老健や特養などを知っておきたいという私の好奇心からです。どんな所だろう、どこが違うのだろう、入っている人たちはどんな人たちがいるのかしら?という好奇心からで知見が広がります。また、それぞれで知り得たことはプログラムを考える上でも活用することもできます。

 

人生の思い出とつながる

今、施設を利用する高齢者は、80〜90代が多いです。私とほぼ同世代です。利用者と同じ時代に、当時ラジオから流れていた同じ流行歌などを聞いて育っています。プログラムを考える時も自分の心境と経験と照らし合わせ、それを歌ったら喜んでくれるかもと考えて選んでいます。

 

歌ったあとのみなさんの顔は満足そうで、「久しぶりに歌えた」「懐かしい」「この曲が好きだった」とみなさん嬉しそうにされます。

 

私の母は「早春賦」が好きでした。早春賦を歌うと今でも母を思い出します。幼いころは難しく、歌詞の意味が分かりませんでしたが、今では「この歌とこの歌詞が、好きだったのだ」と分かります。私の体験と歌がつながりあって、母との出来事も思い出されます。

 

利用者の方もそれは同じで、歌と人生が結びついた時、より深くその曲を歌い、感じることができ、より利用者の方の「こころ」に響くのだと思います。

 

いつかつながる可能性

私は幼いころ音楽学校で基礎を学びました。結婚後、夫の転勤で各地へ行っても、音楽というろうそくの火を細く、長くつづけることにして、消すことはありませんでした。若いころは、バッハ・ショパンなどのクラシックだけに目を向けておりましたが、今は唱歌・童謡・抒情歌など、ジャンルを問わず、私のレパートリーは増え続けています。このような世界が開けるとはかつては、想像もしておりませんでした。

 

若い方には自分の好きなことや関心があることを大事に、続けていってほしいと思います。いつか役に立ったり自分にとって生き方を支えてくれるものになるかもしれません。小さなことでも何かにつながる可能性を秘めているのです。

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音楽ボランティア 瓦林紀子 さん
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