銭湯「大星湯(たいせいゆ)」前田哲也さん
三代目「町のお風呂屋さん」が地域のためにできること
掲載日:2017年11月29日
2017年9月号 くらし今ひと

前田さんが手にしているのは、備えつけのAED(全国浴場1号店)

 

あらまし

  • 経営する銭湯にAEDを備えつけ、救命講習会の開催や災害時に貢献できる浴場施設として取組みをすすめている、前田哲也さんにお話を伺いました。

 

救命活動を学べる「講習浴場」

祖父が開業した銭湯「大星湯(たいせいゆ)」に生まれ育ち、今は三代目として経営しています。

 

お風呂と同じく力を入れているのが、銭湯の休業日に開催している救命講習会です。日ごろは「公衆浴場」ですが、この日は「講習浴場」。脱衣所では人形を使った心肺蘇生法の実習、浴場では消火器の使い方や溺れた人を助ける訓練など、銭湯の設備を活かした内容で行っています。平成17年に銭湯で初めてAED(自動体外式除細動器)を導入してからは、その使い方も講習に取入れました。平成10年4月から年4〜5回のペースで実施し、20年目となる平成29年までに、近隣の方など延べ1,800名以上の方が受講されています。

 

AEDを番台に常設

AEDは番台に常時備えつけ、大星湯の入口や建物の四方に看板を出して、遠くからでも分かるようにしています。使用すれば命を取り留められる可能性が高まるAEDは、タオルのように貸出して良いもの。深夜まで営業している銭湯は、もしもの時に役立てるはずです。今、都内に銭湯は560軒ほどありますが、すべてにAEDが設置されるよう、普及活動にも携わっています。

 

AEDの看板は、遠くからでも分かるよう建物の3か所に掲示

 

継続することで理解が広まる

こうした活動を始めたきっかけは、平成7年の阪神・淡路大震災でした。「地域のために何かできることはないか」と考えていたこともあり、応急手当普及員の資格を取って講習会を始めました。

 

AEDは一般の方でも使える医療機器ですが、当初知らない方が多かったです。英字3字に病名がいくつかあったので、AEDも病気かと思っていた方もいました。それでも、継続して講習会を開くことで、理解してくれる人がだんだん増えていると感じています。何度も足を運び、講習会で交付する救命技能認定証を更新し続けている方や、他県の知り合いを連れてくる方もいます。職場体験に来た中学生にもAEDの使用と心肺蘇生法の訓練を受けてもらいました。

 

過去に取り上げられた講習会の記事や職場体験の様子が掲載されている

 

避難者が「頑張ろう」と思える災害時支援をしたい

AED設置や救命講習会は、日常の防災ボランティアの取組みですが、東京での災害時にできることも考え、準備をすすめています。

 

新宿区という土地柄、帰宅困難者にお風呂を貸すのはもちろんのこと、東日本大震災を受けて着目したのは、女性の更衣室や授乳室として使える一時避難所づくりです。こうした人に配慮した避難所は後回しになりがちですが、衛生的で個別ロッカーもある銭湯は、設備が揃っているので最適です。今は災害に備えてオムツやミルクなどを備蓄しています。備蓄は必需品だけでなく、子どもにはお菓子も準備しています。災害時、せっかく助かったのに避難後の生活が悪くて気落ちしてしまってはいけません。避難してきた人たちが「頑張ろう」と思い、活力を取り戻せる支援をしていきたいです。

 

町は変わっても「お風呂屋さん」ができる地域貢献を続ける

町の様子は、昔と比べて随分変わったと感じます。今、大星湯の周りはマンションが増えましたが、以前、向かいはかき氷屋さんで、近くには床屋さんやおでん屋さんなどもありました。銭湯は駅前ではなく、住宅が立ち並ぶ町の裏路地にできます。そういう場所には住民の生活にかかわるお店がたくさんあって、銭湯もその一つとして地域の方が集まる場所でした。

 

町が変わっても、銭湯が地域の中にあることは変わりません。私が生まれる前から来てくれている方もいますし、1歳半になる娘は、こうした人の集まる環境で育ったからか、歩くのがとても早かったです。銭湯の仕事は休みがほとんど取れず、浴場掃除や空き瓶の片づけなど、力仕事で大変です。それでも「『町のお風呂屋さん』にできることは何だろう」という想いを持って、毎日取組んでいます。

 

取材先
名称
銭湯「大星湯(たいせいゆ)」前田哲也さん
住所
新宿区市谷台町18-3
概要
銭湯「大星湯(たいせいゆ)」
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