病院内の学校「さいかち学級」副島 賢和さん
傷ついた子どもたちを支える『通訳』になる
掲載日:2017年11月29日
2015年11月号 明日の福祉を切り拓く

病院内の学校「さいかち学級」 副島 賢和さん

 

あらまし

  • 副島賢和さんは、入院している子どもたちが通う病院内の学校「さいかち学級」の担当をしつつ、病気の子どもたちのよりよい生活のため、病院と学校の橋渡しをする活動に取組んでいます。

 

不登校のきっかけの13%は「病気」

もともと私は都内の小学校で教師をしていたのですが、自分の病気がきっかけで、学校に来られない子どもへの支援に関心を持つようになりました。

 

そして児童心理学を学ぶために大学院に通っていた際、不登校になったきっかけの約13%は病気だという調査結果を目にして、衝撃をうけました。友人関係等で不登校になった子どもについては、教師は熱心に学校に戻れるよう支援をします。

 

しかし、病気の子どもについては「できることはない」と、支援をあきらめてしまう教師も少なくありません。病院側も、退院してから学校に戻るための支援をすることはないため、退院後に学校へ通えなくなり、勉強についていけなくなったり、友人関係が上手くいかなかったりして、不登校になってしまう子どもたちがたくさんいたのです。

 

この支援の狭間で苦しんでいる子どもたちを助けたいと、院内学級である「さいかち学級」に異動を希望し、医療と教育の連携に取組みはじめました。

 

医療と教育の「通訳」と「仲人」

しかし、制度や慣習等の壁は厚く、当初は病院と学校、双方から理解を得られませんでした。

 

それでも、「子どもたちのため」ということを繰り返し伝え、何度も対話を重ねることで、だんだん協力の意義を理解してもらうことができ、学校の担任に子どもの病気について医師からの説明を受けてもらったり、医師に学校まで子どもの様子を見に来てもらったりと、小さな連携を積み重ねていくことができました。

 

それは医療でも教育でも、「子どもたちのしあわせ」を一番に考えているからこそ、手を取り合うことができたのだと思います。私の役割は、「通訳」と「仲人」です。医療と教育では、それぞれの分野ではたらく人の考え方が違い、使う言葉も違います。

 

私はお互いが正しく相手を理解しあえるように、お互いにわかりやすい言葉で伝える「通訳」をしつつ、双方の協力できるところを見つけ出して、「仲人」として連携の糸口をつなぎあわせるのです。今、最も課題だと感じているのは、社会の関心の薄さです。

 

当事者にならなければ、院内学級の存在さえ知ることはありません。

 

今後はこのような連携をより広く行えるよう、各地での取組みの共有や、人材育成、市民の意識啓発等にも力を入れ、支援のしくみを構築できたらと考えています。

 

転んでも起き上がれる環境を

病気による痛みは、身体的なものだけではありません。

 

精神的にも、子どもたちは深く傷つきます。この「さいかち学級」に来る子どもたちは、病気や怪我によって自信を失っています。

 

「自分の病気で親に迷惑をかけている」、「自分は生きていていいのだろうか」と思う子どももいます。そんな子どもたちに、この学級では日々の学びを通して「自分だってできるんだ!」と思える瞬間を作り、自信を取り戻してもらうことに、全力を注いでいます。挫折や失敗から、人はたくさんのことを学ぶことができます。

 

しかし、挫折したままでは意味がありません。

 

今の学校には、子どもたちに立ち止まったり、転んだりすることをゆるさない雰囲気があると感じます。

 

病気や勉強等で挫折を経験することがあっても、再び立ち直れるような制度、環境が必要なのです。病気の子どもたちは、みんな精一杯病気とたたかっています。

 

私も子どもたちの笑顔のため、どれだけ転んでも、あきらめないつもりです。さまざまな理由で傷ついた子どもたちが、もう一度自信をとり戻せますように。

 

プロフィール

  • 副島 賢和さん
    昭和大学大学院保健医療学研究科准教授「さいかち学級」担当。学校心理士SV。大阪Tsurumiこどもホスピス教育部門担当。著作に『あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ』(教育ジャーナル選書)等
取材先
名称
病院内の学校「さいかち学級」副島 賢和さん
概要
昭和大学病院 院内学級(さいかち学級)
https://www.showa-u.ac.jp/SUH/guide/facility/saikachi.html
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