(社福)愛成会 アートディレクター・常務理事 小林 瑞恵さん
心をうつ芸術作品を世界に発信している小林瑞恵さん
掲載日:2015年6月26日

小林 瑞恵さん

 

あらまし

  • 社会福祉法人愛成会のアート・ディレクター小林瑞恵さんは、国内外に障害の有無を超えた芸術作品「アール・ブリュット」(Art Brut)の発信や展覧会の企画・運営を行っています。

 

障害の有無を超えた芸術の発信

「アール・ブリュット」という言葉を聞いたことはありますか?特別な芸術教育を受けていない人たちが独自の発想や方法で制作した作品のことを指す美術の概念で、「アート(Art)」は「芸術」、「ブリュット(Brut)」は「磨かれていない」「(加工されていない)生のままの」という言葉を表すフランス語です。作家として活躍されている方には障害のある方も多く含まれています。

私は、アール・ブリュット作品の展覧会の企画や講演などを通してその魅力を伝える仕事を行っています。例えば、海外の美術館が日本のアール・ブリュット作品の展覧会を企画する際に国内の作品や展示についての情報を提供したり、出展した作家の作品が不当な扱いをされないよう作家の権利保護に努めるなど、遠く海外で展示される作品を作者が安心して送り出せるよう海外美術館や各作家との連絡調整等を行っています。国内では、東京都中野区を中心に全国で開催されるアール・ブリュット展のディレクション業務をはじめ、全国各地の情報をもとに作家を訪問し、創作の背景や作品についての情報をまとめる調査発掘などの業務も行っています。

 

障害がある人の自由さが魅力

幼い頃、私は叔父が運営していた知的障害のある人の施設に年に数回遊びに行き、障害のある人の魅力に心を奪われました。高校生の時には、「こういう風にするのがふつう。こういう風にしていないとふつうではない」と「ふつう」でなければならないことを窮屈に感じていました。その点、障害のある人は、こうでなければならないという枠がなく、さまざまな枠を軽々と越えてしまう自由さがあり、一緒にいると自分のままでいられることの安心感や、受容感があります。

それは、アール・ブリュットの魅力とも重なっています。障害のある人の作品は、発想に枠がなく、私たちの想像を超えていきます。人の目を意識しているのではなく、自分の中から湧き上がってくるものを表現しているからこそ、見る人の心を打つのだと思います。

 

社会福祉をバックボーンに芸術作品の発信

高校生の時、美術大学に行くか、福祉系の大学に行くか迷いました。そんな時、担任の先生から「人間力がないとよい発想も想像も生まれない。福祉を学ぶことは人間について学び、心を養うことに繋がるのではないか」と言われ、社会福祉に進路を決めました。欧米では、すでにアールブリュットは広く認知され研究もすすみ、一つの芸術分野として確立しています。ですので、関わっている人で美術が専門ではない人はほとんどいません。でも、私は、福祉を学んできてよかったと思っています。もちろん、苦労することもありますが、福祉を学んできたからこそ、より作家を理解し、それを発信することができるからです。

 

アール・ブリュットが障害者理解の輪を広げる

約10年前まで、日本ではアール・ブリュットという言葉はほとんど知られておらず、「障害者アート」などと翻訳されることもありました。ですが、作品を見た人が心を打たれ、その輪が広がっていき、日本でも少しずつ一つの芸術分野として認められつつあります。また、作品を生み出した作家への尊敬の気持ちは障害の有無を超えるとともに、障害があるからこそ創られた作品として障害への理解につながっています。年々、アール・ブリュットを通じて障害のある人に対する理解が広がっている手ごたえが仕事の喜びです。

私には、「東京にアール・ブリュットの美術館をつくりたい」という夢があります。もっともっとアール・ブリュットが人々の身近なものになり、アール・ブリュットという芸術分野を通じて、障害のある人への理解啓発につながっていくることを願っています。地域の人の創作やワークショップの場所、カフェなどがある複合的なアール・ブリュットの美術館を作りたい。そう考えています。

 

 

  • *アール・ブリュット
  • 正規の美術教育を受けていない人が自発的に生み出した、既存の芸術のモードに影響を受けていない絵画や造形のこと。「生の芸術」という意味のフランス語。artは芸術、brutはワインなどが生(き)のままであるようすで、画家のジャン・デュビュッフェが1945年に考案したカテゴリー。
取材先
名称
(社福)愛成会 アートディレクター・常務理事 小林 瑞恵さん
概要
(社福)愛成会
http://www.aisei.or.jp/pangaea/
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