おてらおやつクラブ
お寺へのお供え物を地域のひとり親家庭に「おすそわけ」する
掲載日:2017年11月29日
2016年4月号 みーつけた

 

 

きっかけは母子家庭の餓死事件

お寺には日々沢山のお菓子や食品がお供えされます。一般社団法人お寺の未来が中心となって行っている「おてらおやつクラブ」では、全国の賛同寺院が連携し、支援団体の協力のもと、地域のひとり親家庭にこれらのお供え物を「おすそわけ」しています。

 

支援のきっかけは、平成25年に大阪で母子家庭が餓死状態で発見されたことでした。奈良県の安養寺で住職を勤め、現在おてらおやつクラブ代表である松島靖朗さんが、事件に大きなショックを受け、大阪のNPO法人と協力して、お供え物をひとり親家庭に送る活動をはじめたのです。活動はインターネット等を通じて広まり、平成28年3月末現在、参加寺院は322か所、支援団体は78団体と、全国に支援の輪が広がっています。東京の光明寺内に設けられた事務局では、寺院と支援団体、ひとり親家庭のマッチングを行うとともに、月に1度、支援を必要とする家庭への発送作業が行われています。

 

地域の子どもやお母さんも協力して箱詰めします。

仏前にお供えし、お経をあげてから送ります。

 

背伸びをしないから続けられる

当初はお菓子や果物が中心でしたが、最近は活動を知った地域の方からお米やタオル等、おやつ以外の寄附も集まります。お寺の未来代表理事で、おてらおやつクラブ事務局の井出悦郎さんは、「この活動に取組むことが、檀家をはじめ地域への貧困問題の普及啓発となり、ひとり親家庭の孤立をふせぐことにもつながる」と話します。

 

おやつ等の物資は、多くが支援団体を通して、訪問による手渡しや発送、炊き出し等の形でひとり親家庭に届けられます。「いつもは居場所に顔を出さないお母さんが、お菓子を配るときだけは来てくれる」等、おやつには支援団体が家庭と関わりを持つための「ツール」としての意味もあります。

 

井出さんは、「背伸びをしないこと」が活動のポイントだと言います。お寺として地域に何か貢献したくても、規模が小さかったり、日々の勤めも果たさなくてはならないため、自分のお寺だけでは活動をはじめにくいのです。おてらおやつクラブでは、おやつを送る頻度や量がそれぞれのお寺に一任されており、そのお寺の負担にならない範囲で地域のひとり親家庭を支援することができるのです。

 

ひとり親と社会のかけはしに

「食事もままならないのにおやつなんて」と言う声もありますが、必要最低限のものだけで生活していると、その次の一歩を踏み出す意欲がなかなかわいてきません。また、物資を送るだけの支援だけでは、制度や人とのつながりが生まれず、ひとり親家庭が陥りがちな孤立の解消は難しくなります。おやつを支援団体を通して送ることで、ひとり親家庭に生きる楽しみができ、支援機関とのつながりもできて、もう一歩を踏み出すきっかけができます。

 

井出さんは、「昔、お寺は地域の人の相談にのったり、身寄りのない子どもを養育したり、人の生死に寄り添う、地域福祉のプラットフォームだった。お寺が持つ社会的資源を活用して困っている人を支援することは、お寺の本来のつとめでもある。これからもお寺が地域福祉のかけはしとなって、さまざまな支援の手がひとり親家庭に届くよう、末永く活動を続けていきたい」と力強く語りました。

取材先
名称
おてらおやつクラブ
概要
おてらおやつクラブ
http://otera-oyatsu.club

お寺へのお供え物を、支援団体と協力して経済的に困難な状況にある地域のひとり親家庭に「おすそわけ」する活動。一般社団法人お寺の未来が運営母体となり、地域のお寺とひとり親家庭のマッチングを行っています。
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