(社福)マザアス
一人ひとりに配慮してボランティアが食事を届ける
掲載日:2017年12月20日
2015年5月号連載

高齢者在宅サービスセンター「マザアス多摩川苑」

センター長 清水 一芳さん

 

あらまし

  • 施設の機能を活かして365日、10年間休むことなく地域住民にお弁当を届けている社会福祉法人マザアス 特別養護老人ホーム「マザアス日野」の取組みを紹介します。 食形態、食べやすさ、好き嫌いまで配慮したお弁当をボランティアが日野市全域に届けています。

 

毎朝、特別養護老人ホームマザアス日野の調理室では、施設利用者の食事と地域住民のお弁当をつくるのに大忙しです。栄養士、調理師は一人ひとりに合わせて、お粥、ミキサー食、食べられないもの、好き嫌いまで配慮しています。食材は季節を感じられるものを使うようにしています。10時半になると、お弁当をボランティアの配達員の車に積み込みます。お弁当の容器は大きくてかさばるのですが、保温効果があり温かいまま食べられるので利用者にとても喜ばれています。ボランティアは自分の役割をテキパキこなし、お弁当を積み終わると走り出していきます。

 

 

お粥、ミキサー食、好き嫌いまで配慮したお弁当保温できる容器で温かい

まま食べられます

 

365日、10年間続ける

マザアス日野が地域住民への配食サービスに取組み始めたのは平成16年でした。当時、日野市の食事サービスは立川市の社会福祉法人に委託していましたが、食事数が増えたことから、民間のお弁当業者に委託先を変更しました。ところが、受託したお弁当業者は採算が合わないという理由で、1年で撤収してしまいました。

その後、日野市が配食サービス事業者を募り、マザアス日野が受託することになりました。現在、日野市では6つの事業者で配食サービスをしています。採算を重視せず、地域貢献のため、住民にマザアス日野を知ってもらうことが事業を始めた大きな理由でした。事業を開始した当初は、自転車で施設の近隣に20食を届けていました。

365日、10年間継続している理由について、利用者やボランティアの調整をしている高齢者在宅サービスセンターマザアス多摩川苑センター長の清水一芳さんは「必要とされているから続けている。台風や大雨の時でもお弁当を待ってくれている人がいるからやめることはできない」と話します。

 

チームワーク良くお弁当を用意する調理室

 

1人ひとりに合わせた配慮

現在は、1日40~60食、平成26年度は1万9千344食のお弁当を届けました。12月31日は通常のお弁当とは別に「おせち」のお弁当も配達しています。届けるお宅は、65歳以上で独居や家族が仕事で日中は1人で過ごしている方です。

お弁当の申込は、本人、家族、ケアマネジャーなどから日野市社協に行います。日野市社協が申込者の状況をアセスメントし、必要な食数を判断し、マザアス日野に連絡がきます。そして、連絡を受けた清水さんがご本人のお宅に訪問し、さらに細かいアセスメントを行います。例えば、お弁当は玄関までか、家の中のテーブルに置くのか、配達員の性別の配慮、お弁当と引き換えに渡すチケットの管理ができない方への対応等、利用者一人ひとりに合わせた配慮をしています。

 

お弁当のチケット。ボランティアが作成しています。

 

施設がボランティアをバックアップ

現在19名のボランティアでお弁当の配達を行っています。うち3名が交替で配達のコーディネートをしています。事業をスタートした際、ボランティア募集のチラシを近隣にポスティングして回りました。主婦や仕事を定年退職された方などが中心に活動しています。一人あたり毎日12食前後を車に積み、約1時間半かけて日野市内をまわります。長年、配達を続けている元岡公子さんは「『あなたがくるのを待っていた』と言われたのが嬉しかった。いろいろな人と話せるし、自分が楽しめるから続けている」と話します。

配達時に不在の場合は、コーディネーターに連絡し、清水さんが報告を受けます。そして、ケアマネジャーや地域包括支援センター、社協と連携して必ず所在確認するようにしています。また、配達先で利用者が倒れているのを発見し、救急搬送したことや、亡くなっていた方を発見したこともありました。

さらに、ボランティアによるお弁当の配達は別の効果も生み出しています。お弁当を届けている利用者の家族が長年引きこもっていました。ボランティアがお弁当を配達する中で少しずつ関係が築けるようになり、今ではお弁当を届ける側になっています。このように、マザアス日野が持つ機能を活かしてボランティアをバックアップしています。

 

 

配達先をコーディネートする鈴木さん。面倒見が良く、皆に慕われています。

 

お弁当を心待ちにしている有山さん(左)と配達員の元岡さん(右)

 

365日、10年間継続してきたことで、マザアス日野はお弁当を心待ちにしている利用者、家族、ボランティアなどにとって、なくてはならない存在になっています。利用者にとっては栄養バランスのとれた食事を1日1食でも摂ることで健康状態を維持でき、ボランティアとかかわることで社会とのつながりもできます。家族にとってもボランティアが安否確認することで安心感を持てます。そして、ボランティアする側もやりがいを持って生き生き活動できます。ボランティアは「誰かのために何かをしたい」という想いで活動し、お弁当を届けると「美味しい」と喜ばれる気持ちが継続する力となっています。事業開始からかかわっているコーディネーターを中心にボランティア同士のきずなも深まり、懇親会や小旅行も行っています。

 

法人概要

  • (社福)マザアス
    利用者の「生活の質を高めるケアの実践」を使命とし、1994年に法人設立。東久留米市、日野市、新宿区に特別養護老人ホーム、高齢者在宅サービスセンター、グループホーム等を運営。

 

 

 

取材先
名称
(社福)マザアス
概要
(社福)マザアス
http://www.moth.or.jp/
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