(社福)桜ヶ丘社会事業協会
病院のPSWと福祉事務所の連携で市民を支える
掲載日:2017年11月29日
2015年7月号 連載

(社福)桜ヶ丘社会事業協会 常務理事 谷水 勝宏さん(中央)

桜ヶ丘記念病院 事務長 吉成 淳さん(右)

桜ヶ丘記念病院 医療相談課長 堀江 太郎さん(左)

 

あらまし

  • 社会福祉法人桜ヶ丘社会事業協会が運営する桜ヶ丘記念病院では、市内の福祉事務所へ病院の精神科ソーシャルワーカー(以下、PSW)を派遣し、ケースワーカー(以下、CW)と協働し、相談支援、自立支援を行う取組みが行われています。本号では、実態を把握しづらい医療扶助受給者ならびに長期入院患者等生活保護制度を中心とした地域の市民のために、社会福祉法人として行政と連携している取組みをご紹介します。

 

多摩市にある桜ヶ丘記念病院は、東京市方面事業後援会(現在の東京都民生児童委員連合会)が紀元2600年(昭和15年)の記念事業(*1)として、当時恵まれない環境に置かれていた精神障害者のために設立した精神科の専門病院です。方面委員(現在の民生児童委員)活動の中には「病気の人には無料または軽費で入院できるように世話をする」(*2)というものがあり、病院設立時の方針として、「公費及び軽費の患者を収容保護すること」が掲げられていました。当時は、措置入院や生活保護受給者を積極的に受入れる病院は多くありませんでした。現在も患者の約3割は生活保護受給者であり、生計困難な方に対しては生活保護基準額の125%の範囲を目安に、無料・低額で医療を提供する「無料・低額診療事業」(*3)を実施しています。

 

  • *1 紀元2600年記念 昭和15年が神武天皇の即位から2600年目に当たるとされたことから、政府は「紀元二千六百年祝典準備委員会」を発足させ、記念行事を行った。
  • *2 昭和9年作成「東京市方面委員連盟パンフレットより」
  • *3 無料・低額診療事業 生計困難な方が経済的な理由によって、必要な医療や福祉サービスを受ける機会を制限されることのないよう、「生計困難者のために無料または低額な料金で診療を行う」事業として社会福祉法第2条第3項第9号に定められている。

 

福祉事務所へPSWを派遣する

福祉事務所へ病院のPSWを派遣する取組みは、東京都の福祉改革推進事業の先駆的事業として3か年の時限付で始まりました。平成18年5月に都の保護課より「福祉事務所と関係機関との連携事業」の提案が東社協医療部会(*4)にありました。生活保護受給者の通院・生活指導、長期入院患者の病状把握と退院支援、頻回受診者等への適性判断等についての議論が行われていた時期で、福祉事務所では、CW1人あたりの担当ケースが90130ケースに増加し、訪問調査や指導が難しい状況がありました。特に精神科の医療扶助受給者の実態は把握しづらい状況がありました。都の事業終了後、桜ヶ丘記念病院と多摩市福祉事務所の取組みは、法人と市が契約する独自の取組みとして継続し10年目を迎えます。常務理事の谷水勝宏さんは、「精神科病院という特性もあり、法人として今後も連携する必要性を感じ、継続した取組みに至っている」と言います。

 

*4 東社協 医療部会

「無料・低額診療事業」を実施する病院で構成される部会。都内の無料低額診療事業実施施設(病院・診療所)、無料低額老人保健施設利用事業実施施設で構成されている。

 

お互いの現場を知り相談者のために適切な対応を

福祉事務所では、PSWの派遣日に合せてCWが精神科関係の気になる方の面接日や訪問日を設定していますが、急に来所した方の面接に同席することもあります。「医療的な対応が必要な方なのか専門職の目で見てほしい」との依頼から、精神症状がある方なのかをアセスメントし、医療の視点でのアドバイスを行っています。

 

福祉事務所へ派遣されていた医療相談課、精神保健福祉士(PSW)の宮本麻衣さんは「突然被害妄想を強く訴える方が来所し、混乱しているため事情を伺うと、長期間受診を中断しているとのことであったため、その場でCWと協力して即日病院への受診につなげたことがあった。このような突発的な事例であっても、福祉事務所は必要な支援につなげるために生活及び家族状況の確認等、必要な手続きを取らなければならない。福祉事務所の現場を知ることで、医療機関としてもよりスムーズな連携が取れるようになった」と、実務実態を見られたことで福祉事務所の現場理解につながったと指摘します。また、「派遣日以外にもCWから病院に相談の電話が入る。日頃から関係を密にし、対応について情報共有し、他の関係機関との調整等を行っている」と言います。

 

一方、CWが医療現場を理解する場として、新たに配属になったCWの病院見学の受入れを行っています。実際に病棟等を見てもらうことで、CWからは「精神科病院の認識を改めることが出来た」「措置入院等の手続きについて理解を深めることができ、医療扶助受給者の日常生活の一部をイメージできるようになった」等の感想がありました。専門職がお互いの現場を理解した上で、相談者のために連携を図っています。

 

「PSW」と「健康管理支援員」2つの看板で助言

事業実施にあたっては、市と病院が「多摩市生活保護被保護者支援業務」の委託契約を毎年締結しています。当初は週に1日の派遣でしたが、現在では隔週木曜日に終日の派遣となっています。

 

業務委託契約を締結しているため、PSWは市の臨時職員である「健康管理支援員」として業務にあたります。面接・訪問する方の状況をCWとの事前の打ち合わせで確認します。初めから病院のPSWを名乗ると、精神科の人が訪問してきたと誤解される方もいます。まずは、市の職員として訪問し、お話をうかがう中で、状況によっては普段病院に勤務していることを告げます。精神科の受診を拒否する方や治療を中断中の方へは、治療につながらない背景を確認し、どのように医療につなげたら良いか考えます。病院の様子や対応できることについて具体的な説明が行えることで、受診や再受診につなげられる場合があります。

 

面接中に精神症状が出る方もいますが、本人に必要な助言を行うことで、適切な医療の受診そしてその結果、症状の改善につながる可能性があります。CWに対しては精神症状のある相談者への関わり方を専門家の視点を持ってサポートする役割を担っていますが、「『病院に行かせる』ではなく『受診に導く』というスタンスが重要であると勉強になった」という声も聞かれます。医療的な視点からの病状把握や入院治療要否の見立てが行えることで、適切な処遇方針にもつながっています。

 

患者の生活に目を向ける

事務長の吉成淳さんは、「この取組みが継続していることは素晴らしい」と言います。そして、「病院のPSWは病院で患者さんと会うことが多いが、患者さんの悩みは生活や環境に少なからず影響を受けている。PSWが病院から地域に出て、患者さんの実際の生活や環境に触れることは、患者さんを理解する貴重な機会となっている。また、病院の職員にとっても家族や福祉事務所をはじめとする関連機関との連携は、教わることが多い。法人として負担もあるが、職員の人材育成ととらえている。職員にも魅力ある仕事と感じてもらいたい」と病院としても相乗効果が得られている印象を語ります。

 

また、医療相談課長の堀江太郎さんは、「病院側の課題として、高齢になった長期入院患者の地域移行の問題がある。法人としてもサービス付き高齢者向け住宅を開設し、これにより長期入院していた患者さんが多数退院できた。医療につながった患者さんがまた地域に戻って生活することについても、市役所や地域と連携していきたい」と話します。

 

法人概要

  • (社福)桜ヶ丘社会事業協会
  • 昭和15年現在の民生児童委員の前身である東京市方面委員により「桜ヶ丘保養院」として開業。
  • その後、昭和27年に社会福祉事業法(当時)の規程に基づき、社会福祉法人桜ヶ丘社会事業協会と改められ、以後、社会福祉法人立の精神科病院として現在に至る。
取材先
名称
(社福)桜ヶ丘社会事業協会
概要
(社福)桜ヶ丘社会事業協会
http://www.swfsakura.or.jp/

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