宮城県仙台市/平成25年3月現在
全国からの応援職員の受入れ
全国からの応援職員の受入れは現在も続いていますが、春圃苑では、4月18 日に宮城県気仙沼保健福祉事務所に介護職員と看護職員の派遣要請をしていました。25年2月8日現在で全国231の施設から実人数で369人、延べ人数で2,621人を受け入れています。特に群馬県はいち早く宮城県に入り、第一陣の介護職16人が3月26 日に春圃苑に到着しました。
群馬県職員が応援職員グループに2人ついており、朝と夕方にミーティングし、その中で、物資に足りないものがあれば、群馬県庁と連絡を取り合い、群馬県庁から送られるようになっていました。群馬県、東京都、神奈川県からの介護職員の派遣がありましたが、それらは宮城県気仙沼保健福祉事務所の手配で派遣調整が行われました。阿部さんは「要援護者の支援をどう考えるかによって、必要な職員数が決まる。私は、介護認定を受けている方で、春圃苑に避難して来た人は全員受け入れることが震災時の施設の地域における使命だと思っていた。そして、その上で介護の質を落とさないためには専門職の応援がどうしても必要だった。職員にもそのように話し、積極的に受け入れる方針をとった」と話します。実際に、当初は職員の疲労がたまって、急性胃腸炎などを発症する職員が増え、1日に5人の職員が休む事態も出ていました。
現在も、デイサービスセンターの利用者は急増しているのに対し、職員の応募がほとんどない状況が続いていることから、福岡県筑後地区老人福祉施設協議会から2週間単位でデイサービスセンターに応援職員が入っています。また、専門職だけでなく、郷土芸能や和菓子職人、美容師など様々なボランティアが支援に入りました。
なお、本吉地区サポートセンターには、現在も、災害福祉広域支援ネットワークサンダーバードからの職員の応援が続いています。
コーディネート能力が大きな課題
応援職員の受入れに当たっては受け入れるコーディネート力の課題が浮き彫りになりました。一つは応援職員を受け入れる施設側が受入れ方針を打ち出す必要があるということです。発災直後の3月と、7月とでは状況が変わっており、そうした変化に対応したコーディネートが施設側に求められていました。また、ライフラインが復旧しない中で、応援職員に水くみ、書類作成などの介護業務とは直接は関係ない業務をお願いすることが多くなりましたが、震災から日が経つにつれて雑用が多いことが不満の種になるといったこともあり、そうした調整も求められました。また、応援職員と春圃苑職員との見解の不一致から応援職員が戸惑うということもありました。
職員の確保が大きな課題に
春圃苑では、81 人の職員のうち正職員が4割ですが、震災翌日から3月31 日までに11人の職員が退職しました。自宅が流された方、震災により家族の事情が変化した方などでしたが、全員が非正規職員でした。平成23 年度に退職した職員は19 人で、震災から合計30人の職員が退職しました。それだけまとまった数で職員が退職するのはかつて経験したことがありません。特に非正規職員の退職が多いこと、有事の際の職員体制のことも考え、今は正職員比率を上げる検討を行っています。
菅原さんは「震災以降、経験3年未満の職員は全員、退職してしまった。これは、施設側で職員に対して十分に目配りができなかったためだと考えている」と話します。
定員超過の利用者の受入れと支援の質の確保
要援護者を受け入れることで、今も定員超過の状態が続いています。県からは定員超過について再三指摘され、他施設に移したらどうかという提案がありました。こうした指導を受け、4人は他施設に移りましたが、そのうちの3人は戻ってきました。その中の1人は、退居時とは全く状態が変わり、車椅子に乗り、無表情で戻って来られ、3カ月後に亡くなってしまいました。春圃苑としては、環境変化のダメージが大きかったためと判断し、その後は、定員超過でもできるだけ他施設へは移さない方針としました。「認知症が環境の変化に弱いことは分かりきったこと。他の施設に移すことは大きなリスクが伴う。ただ、定員オーバーによって介護の環境は悪くなることも考えられるので、そこには十分に配慮する必要があると考えている」と阿部さんは話します。
しかし、実際にはどのような介護を行っていくか悩ましい場面も多くあります。旧食堂のフロアにベッドを並べ、そこで経管栄養の利用者18 人が過ごしていたところ、医療チームから「感染症が蔓延する危険がある」と指摘されました。全国の病院にベッドを確保したから直ぐに入院できる、と勧められましたが、この状況で家族からも地域からも離れることは、春圃苑に戻れる見通しがない中では決断は困難です。
また、春圃苑では1人、肺炎で震災関連死と認定された死亡者が出ました。菅原さんはこの死亡事例への反省として「ケアの質は基本が大切。体調を崩さないための配慮や、基本的なケアが日頃からきちんとできていなければ、災害のような非常時にはなおさら見過ごしてしまう。特に、ライフラインが止まることで業務量が増えるほか、余震があると精神的なケアが必要になり、職員負担も増える。そこが大きな課題だ」と話します。
現在でも、利用者、職員ともに精神的苦痛の緩和については方法が見いだせていない状況となっており、来年度、心理面に関する研修を行う予定です。山梨県からの心のケアチームが利用者・職員の支援に当たりましたが、精神面のケアについては、今後も課題になると考えられます。
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