(社福)多摩済生医療団
就労訓練の場を地域の障害のある方に提供―社会福祉法人多摩済生医療団の取組み
掲載日:2017年11月30日
2016年3月号 連載

(社福)多摩済生医療団 特別養護老人ホーム「多摩済生園」

施設長 中村 与人さん

 

あらまし

  • 小平市にある多摩済生医療団 多摩済生園は、社会福祉法人が持つ機能を地域に開いた取組みを長年続けています。 就労・生活支援センターと連携した就労訓練の場の提供や、施設の一室を地域住民に提供することで、新たな取組みを後押ししています。

 

就労訓練の場を提供

社会福祉法人多摩済生医療団は、近隣にある社会福祉法人未来が運営する小平市障害者就労・生活支援センター「ほっと」(以下、「ほっと」)と連携し、年間を通じて、特養やデイサービスセンターで障害者の就労訓練の場を提供しています。

 

朝8時45分、月曜日から金曜日までの毎日、4~6名程度の障害のある方が、特養 多摩済生園の職員玄関でタイムカードを押します。4階にある専用の休憩室で着替えて準備し、ミーティングの後、9時から清掃作業を開始します。この清掃作業は、「ほっと」に登録している知的障害や精神障害がある方が担っています。週に1回の方もいれば、3回の方もおり、日によって顔ぶれも人数も変わります。あらかじめ決めてあるエリアをマニュアルに沿ったスケジュールで順番に清掃し、17時までに一通りの仕事が終えられるよう、「ほっと」の職員の支援のもとすすめています。

 

清掃中の就労訓練の様子

 

近隣に「ほっと」が引っ越してきた

「ほっと」では、企業就労を希望する方や働く力を伸ばしたい方のために、より実践的な就労訓練を実際の職場で行う計画を小平市と協議のうえ、すすめていました。一方で、多摩済生園では、以前から別の知的障害者施設の就労実習の受入れをしてきました。

 

平成20年3月、「ほっと」が多摩済生園の近くに移転してきたことをきっかけに話し合いが持たれ、取組みがスタートしました。平成21年4月からは、市独自の「障がい者企業内通所授産事業」として「ほっと」に委託され、この事業の受入れ先として多摩済生園が協力しています。

*企業内通所授産事業一般就労への移行促進を目的に、施設内の通所授産や作業所で作業するのではなく、実際の企業で行う事業

 

Win‐Winの関係

取組みを始める際は、施設職員が担っている仕事の中から、就労訓練で行えそうな業務を切り出しました。調理や介助等の案もありましたが、取組んでもらいやすいことから清掃業務をお願いすることになりました。清掃する場所は、廊下等が中心で、利用者のプライバシーに関わらない共有部分に限定しています。多摩済生園は、定められた範囲の清掃を「ほっと」に業務委託し、人数に応じて作業工賃相当額を支払っています。

 

「ほっと」は、それぞれの方の障害特性等をふまえて、作業内容に適した人選、スケジュール調整を行い、毎日の清掃作業を決められた時間内で終了できるように支援しています。また、清掃作業を行う方を支援するため、「ほっと」の職員が必ず一人同行しています。多摩済生園施設長の中村与人さんは、「職員が同行して就労支援をしてくれることで安心感と負担軽減になっている」と話します。また、作業する人数が多い日にも、作業した方の人数分の工賃を支払っています。そして、この取組みだけではできない清掃は、専任の職員を雇用して補い、多摩済生園が負担しています。清掃作業を「ほっと」にお願いすることで、介護職員が利用者への支援に集中できるようになり、Win‐Winの関係が築けています

 

就労訓練から直接雇用へ

就労訓練の場として、できるだけ実際の就労に近い形で受入れをしようと、職員と同じ通用口から出入りし、タイムカードも用意しています。また、障害のある方が働きやすいように、清掃する場所を図面に色分けして可視化したり、冷蔵庫もある専用の休憩場所を用意し、仕事に集中できるよう配慮しています。

 

最初の頃は、清掃作業がうまくすすまず、床が水浸しになってしまう等のトラブルもあり、職員からこの取組みについて疑問の声もありました。しかし、双方の事業所で連携して継続するなかで、定着した取組みになっていきました。取組みはじめて7年以上経ち、訓練終了後に、他の企業等で一般就労した方もいます。また、多摩済生園で直接雇用につながった方は5名以上にのぼり、現在は3名が職員として働いています。

 

高齢者雇用の非常勤職員が障害者雇用の方をサポートしながら、クリーニング業務を担当するなど、障害のある方の状況にあわせ、その業務やサポート体制も工夫しています。

 

施設が住民活動の場を提供

多摩済生園では住民活動の場を提供する取組みも行っています。施設の一室で地域の高齢者が趣味や創作活動を行う「ふれあい交流会」を、平成4年に小平市社協からの委託で開始しました。開始から数年で社協からの委託が終了しましたが、法人独自事業として継続して運営しています。中村さんは「活動が定着していて、住民にとってなくてはならない活動になっていた」とふり返ります。

 

現在は社協との連携事業として開催し、毎月第3金曜日の午後に小物づくりや健康体操、レクリエーション、会食会等を楽しんでいます。対象者は、60歳以上の市民で、ひとりで通うことができ、介護を必要としない方です。毎回約25名が参加しています。運営は民生児童委員等の17名のスタッフが主体的に楽しみながら活動しています。各開催日の後に集まり、次月に行う催し物の準備もしています。「手づくり小物」を行う際には、スタッフ自身が実際につくってみて、やりやすさや難しさを体感しています。多摩済生園は、会場を提供するとともに生活相談員が参加人数等の連絡調整を担い、資料印刷や、会食会での食事の提供をしています。

 

施設長や生活相談員も参加し、スタッフと一緒に活動を盛り上げています。また、小平市社協の保健師も同席し、血圧を測る等健康チェックを行ったり、地域包括支援センターの職員が地域イベントを周知することもあります。

 

施設職員と一緒に歌うコーラスの様子

 

法人概要

  • (社福)多摩済生医療団
    昭和11年に医療保護施設・多摩済生病院として開設。法人理念「心をひとつに 助け合い 共に生きる」に基づき、病院、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター、訪問介護、居宅介護支援事業所等を運営。
取材先
名称
(社福)多摩済生医療団
概要
(社福)多摩済生医療団
http://www.tama-saisei-iryoudan.com/
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