(社福)東京都社会福祉協議会
社会福祉法人が地域のニーズに気づく
掲載日:2017年11月30日
2016年6月号 連載

平成28年6月16日発行

「地域のニーズに応える」社会福祉法人による地域公益活動取組み事例集

東京の社会福祉法人による地域公益活動34事例を掲載。

 

あらまし

  • 近年、これまでの社会福祉事業や制度だけでは支援することが難しい「制度の狭間の課題」や「複合的課題」が増加しています。これらの”新たな福祉課題“に対応していくために、大都市東京の特色をふまえた地域づくりが求められています。今号では、東社協において集約した社会福祉法人による地域公益活動34事例より見えてきた、社会福祉法人による「地域のニーズ」への気づきについて考えます。

 

平成27年4月に施行された生活困窮者自立支援法や子ども・子育て支援新制度、また、地域包括ケアシステムの構築等には、いずれも地域資源の開発やネットワーク化など、地域づくりの視点が含まれています。これまでの社会福祉制度だけでは解決することが困難な課題や、新たなニーズに対応していくためには、多様な団体が地域住民と連携して課題に向き合っていくことが求められ、地域特性を活かしたしくみづくりが急務となっています。

 

社会福祉法人が地域にあるニーズの「見える化」に取組む

各社会福祉法人や事業所においては、これまでも地域公益活動を実施してきていますが、これらの取組みは積極的に外部に情報発信されることが少なかったといえます。

その背景としては、「本来事業以外の取組みを制限する行政の指摘や指導」、「利用者のプライバシー保護」、「あえて積極的に言わず取組むことを美徳と捉える慣習」等、複数の要因があげられます。

 

また、長年の法人の活動について、当たり前のことと捉え、あえて意識化せずに取組んでいる場合もあるでしょう。平成27年度に東社協において、社会福祉法人による地域公益活動の取組み事例を募集したところ、複数の法人より事例の紹介がありました。これまでに東社協が集約した34事例には、社会福祉法人が把握したさまざまな「地域のニーズ」がみられました。

 

社会福祉法人が把握した地域のニーズ

社会福祉法人が把握した主な地域のニーズは、次のとおりでした。

 

【高齢者福祉施設が把握したニーズ】

・社協事業「ふれあい交流会」の委託が終了したが、住民にとってなくてはならない場所になっていた。

・町会・自治会長との会話の中で、町会会館や集会所等を会議以外に活用できないかと相談された。

・自治会と共同で団地住民の調査をしたところ、半数が会食型食事サービスを希望していた。

・都営住宅への調査で「皆で集まれる場所が欲しい」との声があった。

・地域から孤立している方の安否確認はできても地域住民同士の関係づくりは難しいと感じていた。

・支援が必要でも助けを求める方法を知らない人が地域に多くいた。

・地域の若者や子どもが、学習意欲がありながらも経済的事情で塾に通えないでいた。

・公立学童保育で申し込みが定員を上回り、利用できない子どもがいた。

 

【障害者福祉施設が把握したニーズ】

・対象者を限定しない「誰もが集える場所」が必要。

・福祉サービスや事業の枠組みからはこぼれ落ちてしまう人やニーズがある。

・障害者福祉サービス等の支援が必要な状態であるにもかかわらず、本人に「困っている」という認識がない方がいる。

・働く意欲がありながら、離職せざるを得ない障害者がいる。

・障害がある方が働く力を伸ばすために、より実践的な就労訓練の場が必要。

・支援者のいない触法障害者には、福祉的支援が必要。

・自立退園した身体障害のある方が地域生活を継続していくために、身体的・精神的なフォローが必要。

 

【児童・女性福祉施設が把握したニーズ】

・再開発で大型マンションが多数建設され、近隣に親族のいない子育て世帯が増加した。

・地域に園庭のない保育園が増えた。

・地域の子育て家庭の育児相談を受けているが、自ら電話をかけて相談することはハードルが高い。

・日中、行き場のない高齢者の姿や、夕方公園に集まる中高生が気になる。

・地域の子育て支援事業を利用していない親子が心配。

・母子生活支援施設退所後の生活に不安を抱える人がいる。生活を楽しむスキルが十分ではない。

 

【その他】

・ケースワーカの抱えるケースが多く、精神科の医療扶助受給者の実態把握が困難。

・ひとり親家庭の子どもには、学習の機会や社会的経験、他者との交流が少ない子がいる。

 

課題解決の視点

気づいた地域のニーズに対して、各社会福祉法人は、理念や基本方針に基づいて「地域から求められる支援を提供したい」、「制度だけでは支援できないニーズに対応したい」、

「誰もが地域社会の中でいきいきと暮らしていけるように」などの想いをもって、創意工夫のもと、住民やその他団体との協力により、地域公益活動を実践していました。

 

例えば、足腰が弱って施設まで来られない人にも「食」を通した住民同士の交流機会を提供するために、職員が地域に出向き自治会と連携して住民の居場所づくりを行う事例がありました。また、高齢分野の法人が高齢者を支えるだけでなく、子育て世代の負担を軽減し子どもたちの将来を安定したものにすることが地域全体の福祉に貢献することになるという発想から、地域のボランティアの協力を得ながら学習支援に取組むなどの事例もありました。

 

34事例の地域公益活動の形態は表のとおりです。

 

表 社会人福祉法人による地域公益活動34事例の施設事例種別ごとの取組み内訳

 

地域づくりにつながっている

社会福祉法人による地域にあるニーズへの気づき、そして課題解決に向けた視点や具体的な取組みにおいては、目の前の把握したニーズに個別に対応することが、結果として地域づくりにつながっている様子が見られました。法人内各部門が連携して解決するだけでなく、社協、行政、地域包括支援センター、民生児童委員、町会・自治会、ボランティアなど地域にある機関・団体との連携により取組んできた結果ともいえます。

 

「既存の社会福祉制度だけでは解決できない制度の狭間の課題や、新たな生活課題への対応」、「地域住民の困りごとが大きな福祉課題になる手前に働きかける取組み」、「施設・事業所利用者やその家族の希望する暮らしを支える支援」などの視点から、地域にあるさまざまな資源や関係者を把握し、専門職主導ではなく自然な近所づきあいや地域住民の支え合い、多様な人がいる暮らしを大切にする姿が事例からも見えてきます。

 

例えば、子育て経験をもち同じ目線でかかわれる住民が相談支援に関わったり、同じ生活者の立場で施設退所後の生活の「ちょっとした手助け」を行っているなどです。

今後、このような社会福祉法人の気づきや取組みの情報発信が、地域における幅広い理解と参加の促進につながることが期待されます。

 

図 めざすべき地域社会の姿

 

 

 

 

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
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