NPO法人ももの会 代表 大井 妙子さん
誰もが”地域人“としてかがやきながら
掲載日:2017年11月29日
2016年7月号 連載

NPO法人ももの会 代表 大井 妙子さん

 

あらまし

  • NPO法人ももの会(以下、ももの会)は、西荻窪で高齢者在宅サービスセンターを運営しながら、制度外で多世代の居場所かがやき亭を開設しました。今号では、住民の参画を得ながら「地域で支え合う場」にかかわるももの会代表の大井妙子さんにお話をうかがいました。

 

ももの会は、平成12年の介護保険開始を期に、前年に地域住民を中心とした団体を立ち上げ、その後NPO法人の認証を受けました。学校の余裕教室を活用したデイサービス事業の運営として、杉並区立桃井第三小学校の元理科室を改修した場所に高齢者在宅サービスセンター「桃三ふれあいの家」を杉並区から受託し、開設しました。地域の方と一緒に福祉に携わり、町の拠点がつくれるなんて!と沢山の可能性を感じました。

 

桃三ふれあいの家には、年間延べ2千人のボランティアが出入りします。習字や俳句を教えてくれる方、食事にかかわる方、利用者と囲碁や麻雀に興じる方など、それぞれが社会に発揮できる力を活かして過ごしています。昔あった商店の話や地域行事など、同年代だからこそ共感できる話も多々あります。そして、自分より年上のボランティアに教わったり、同世代の方との付き合いから、お互いに社会とのかかわりが更に広がっていきます。

 

市民としての共感を大切に

90歳のボランティアも年齢で断ることはありません。90歳になっても地域とのつながり方は多様です。ご本人が「ボランティアをしたい」と望むようであれば、その気持ちを応援します。天気が悪い日には、足元が心配なので職員が迎えに行くこともあります。ご本人の判断で「明日からはボランティアではなくて利用者になるわ」という方もいます。立場は変わっても、ふれあいの家でかがやいていることには変わりありません。

 

利用者もボランティアも職員もお互いに歩み寄ると重なる部分があります。それは、「市民としての共感」なのではないかと思います。それぞれが個で存在するのではなく、何もしなくてもそこにいていただくだけで同じ市民として時間や思いを共有することができます。桃三ふれあいの家は、高齢者在宅サービスセンターではありますが、地域の中で一緒に生活していく場所だと考えています。

 

かがやき亭での麻雀の会雀の会

 

地域の中での人とのふれあい

桃三ふれあいの家は、小学校内併設という特徴もあり、年間を通して小学生と交流の機会があります。大人が介入するよりも、子どもたちは自然に交流を深めていきます。

開設当初、年間15回の交流計画があった6年生との初回交流時の出来事です。私が自己紹介をした際にある男の子が「僕はお年寄りが嫌いだ」と発言しショックを受けました。そこで、15回の交流が終わった時に、みんなが見つけた「お年寄りのパワー」を伝えて欲しいと宿題を出しました。尊敬や“”敬うという言葉ではなく、あえて「パワー」という言葉を使いました。

 

卒業式前に、6年生が見つけたパワーを発表してもらいました。「優しかった」「なんでも知っていた」「よく話を聞いてくれた」などと共に、「歩くのが大変そうなのに、いつも休まないで来ていた」ことを発見した子どももいました。そして、「私がこの仕事や高齢者を大切にしたい気持ち伝わったかな?」と聞くと「わかった」と答えてくれました。また、7人の6年生が桃三ふれあいの家には歌がないからと、「きらきら」という歌を作詞作曲してプレゼントしてくれました。16年経った現在でも後輩に引き継がれ、毎年度初めの対面式で全校生徒が歌ってくれます。

 

学校からは、桃三ふれあいの家での発表準備中の子ども達の様子として、「大きな字にして見やすくしよう」、「大きな声ではっきり話そう」、「見やすいように高く掲示しよう」など、相手を意識した話し合いが行われていたと聞いています。また、地域からも「マンションのエレベーターで扉を押さえていてくれた」「ゴミ出しを手伝ってくれた」「挨拶をしてくれるようになった」などの声が学校に届くようになったと報告いただいています。地域とのかかわりのきっかけになっているようであれば嬉しいです。

 

3月には卒業を祝って、利用者さんがつくった八角箱を卒業生に贈ります

 

地域への信頼が自然と重なっていく

地域のさまざまな課題も見えてくる中で、福祉制度利用以前の居場所が少ないと感じていました。そこで、平成23年に地域のいろいろな年代の方の居場所づくりをめざして、「西荻・まちふれあい かがやき亭」を制度外で開設しました。桃三ふれいあいの家とかがやき亭の2つの拠点に関わる中で利用者やボランティアそして職員、どのような立場であっても一市民である「地域人」という意味では、境目があまりないと感じています。

 

かがやき亭は、地域の人に活用してもらっています。文化的な催し、被災地支援のチャリティコンサート開催など、市民として課題に共感できた際に具体的な行動に移せる場にもなっています。また、民生児童委員から子どもの居場所の必要性の提案があるなど、住民が必要としていることや地域課題などの、点と点が地域でつながっていきます。

 

子どもの居場所については、寺子屋食堂をイメージしており、平成28年7月から本格的に動き出します。先日は、地域の方のご厚意で庭の夏みかんをお裾分けいただき、マーマレードジャムをつくりました。材料の調達からジャムが完成するまでの作業を共にする中で、何かが重なっていくような、地域への信頼を自然な形でつくりたいと思っています。

 

次の世代につないでいく

現在は個々の家庭が分断され公園でも町内でも交流が少ないです。子どもが地域社会の愛情を感じられず、子どもと地域の信頼関係ができていないまま、この世代が社会をつくる立場になった時を想像した際に寒いと感じました。自身が幼いころを振り返ると、祭りや農作業などの共同作業を通して地域や地域の人の愛情を感じていたように思います。通学路では毎朝掃除をしている大人、帰り道に焼き芋やおはぎをもたせてくれる大人と会話を交わし、地域の人に育てられた実感があります。

 

現在、小学校だけでなく、中学校、都立高校でも福祉のことや命のことを話す機会があります。高校で桃井第三小学校卒業生と再会し、当時の交流をもとに話を聞いてもらうと、背景を理解した上で話が深まり「地域人の芽」を感じます。お互いが同じ地域人として意識し合え、いきいきとかがやいていられる、それが一番です。住民の参画・協働をすすめて行くことがNPOでもあります。間口を360度広げ、人と人とを繋ぎながら地域に根ざした福祉のまちづくりを行っていくことは面白いです。

 

法人概要

  • NPO法人ももの会

  • 平成11年(1999年)住み慣れた地域に安心して暮らしつづけるために、地域住民が集まり設立。平成12年(2000年)1月NPO法人の認証を受ける。杉並区デイサービス事業の運営を受託し4月に「桃三ふれあいの家」開設。平成18年(2006年)4月自主運営となる。平成23年(2011年)7月「西荻・まちふれあい かがやき亭」を開設。
    「地域で支えあう場」として、さまざまなボランティアの参加を得ている他、保育園・幼稚園との交流の他、中学生の職場体験、介護等体験、企業研修での福祉体験を受入れている。
取材先
名称
NPO法人ももの会 代表 大井 妙子さん
概要
NPO法人ももの会
https://sugimomo.jimdo.com/
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