東京家政学院大学 教授 西口 守さん
福祉人材確保の総合的課題 社会状況の大きな変化をふまえて
掲載日:2017年12月11日
2016年12月号 連載

東京家政学院大学 教授 西口 守さん

 

■あらまし

  • 福祉の人材不足には、さまざまな要因が絡み合っています。本号では、近年の研究業績として「中高生の高齢者介護・福祉分野へのイメージと社会貢献意識との関係性の研究」などがある、東京家政学院大学教授の西口守さんにご寄稿いただき、福祉サービスにおける「深刻な人材不足問題」の背景について考えていきます。

 

福祉人材の深刻な不足問題

福祉の現場では現在、深刻な人材不足に直面しています。では、いったいなぜこのような深刻な人材不足が起こっているのでしょうか。私はその理由は3つあるのではないかと思っています。一つ目は、我が国が人口減少社会になり、この中でまた担い手の数も減少していることです。すなわち人口構造が変化してきていることです。二つ目は、人口の高齢化や社会のニーズの多様化や高度化また社会問題の深刻化に伴って、福祉サービスへの需要も増大しているということです。すなわち、これをあえて言えば、「社会の大きな変化」といえるでしょう。そして三つ目が、福祉の現場への偏った報道などもあり、若年層が福祉を学びとしてまた職業として選択しようとする意志が弱くなっているのではないかという危惧です。

 

これらは、単独でまた相互に作用しながら、福祉サービスの人材不足がますます深刻になっていると考えることができるのではないでしょうか。以下、上述した3つの理由を検討したいと思います。

 

人口減少と人口構造の変化

まずは、図1をご覧いただきたいと思います。これは、2060年までの将来総人口数と年齢区分別人口数を推計したものです。

 

 

これをみて分かるように現在我が国は、人口減少社会であり、今後はその速度が加速され、2050年代には総人口は1億人を割り込み、2060年ごろには総人口が8千600万人程度になると見込まれています。すなわち今後、人口が3割少なくなる訳です。このなかで、働き手の中心である15歳から64歳までの生産年齢人口と、将来の働き手になる0歳から14歳までの年少人口は減少します。また、全体における15歳から64歳の生産年齢人口が占める割合も、2015年では53・9%ですが、2060年推計では44・3%に減少するなど、人口減少と併せて生産年齢人口の割合が減るという構造上の変化も見られます。すなわち、人材不足の要因の一つは、人口減少と人口構造の変化を挙げなければならないということであり、これは福祉だけではない、全産業、とりわけ労働集約型産業ではこれがますます深刻になるのではないかと危惧されます。

 

社会の大きな変化

日本を取り巻く社会の変化は、顕著です。例えば、人口の高齢化は、医療や保健そして福祉サービスの需要を増大させています。また、女性の社会への参加・進出は、保育需要を高めています。さらには、子どもへの虐待はその背景に、現代社会の格差の問題があるという指摘もあります。この結果、福祉サービス事業者の求人は増大し、しかし、それに見合う人手を提供できない状況が続いています。

 

最近の需給バランス

最近の求人求職の状況を見てみましょう。(1)近年の状況 全国社会福祉協議会中央福祉人材センターの「平成27年度福祉分野の求人求職動向 福祉人材センター・バンク職業紹介実績報告」によれば、福祉分野の有効求人倍率は、平成24年度が2・24倍でしたが、平成27年度には3・87倍に上昇しています。つまり、人材不足がますます厳しい状況になっているということを示しています。

 

分野別にみると、特に高齢分野と保育分野で顕著になっていますが、全ての分野で対前年度比が増加しています。高齢者(介護保険施設以外)で7・24倍、高齢者(介護保険施設)で2・87倍、児童(保育所)で2・09倍などです。また、都道府県別有効求人倍率をみると、2倍を超えたのが42都道府県で、5倍を超えたのは15都道府県でした。一方、徳島県では0・62倍であり、人材が充足してことがうかがわれます。

 

このように、全国的な人材不足があることは確かですが、そのなかでも、大都市とその周辺都市が特に深刻な状況を呈していることがわかります。(2)職種別の状況職種別の有効求人倍率にも偏りがありますが、ほぼすべての職種で対前年度比が増加の傾向にありました。もっとも有効求人倍率が高いのは、看護職で21・47倍あり、次がセラピストの6・44倍、介護職の3・97倍、ヘルパーの3・51倍、保育士の2・23倍と続きます。

 

これらをみてわかるように、社会全般で人材不足の状況がありますが、特定の領域、地域また職種に顕著に表れやすくなっていると考えることができるでしょう。

 

多様な働き手の開発

平成30年ごろから、18歳人口は一段と減少します。現在でも、日本私立学校振興・共済事業団の調査をみると、社会福祉系学部の充足率は、全学部と比較すると低い状況であり、介護福祉士養成校に至っては5割充足が難しくなっています。すなわち若年層の福祉離れの加速化が止められない状況にあります。このようなことを考えると、若年層だけに頼った人材育成策では先の見通しが立たないと言わざるを得ないと思います。今後の人材育成のキーワードは「ダイバーシティ(多様性)」であり、多様な担い手を開発する必要があるように思います。例えば、リタイアした高齢者の方々。内閣府の調査でも、これらの方々の社会参加活動への意欲の高さは明らかになっています。

 

それが、なかなか、現実の状況とマッチできていないところに問題があります。だからといって、これらの方々に高度専門的な支援を担っていただくのも難しいと思います。そこで、大切なのが、どこからが専門職が担わなければならないかを峻別することです。その線引きやマスタープランを現場の中心的な職員は策定する必要があるのでしょう。次に見ておきたいのは、第192回臨時国会において入国管理・難民認定法改正案が成立したことです。この法律では、新たに在留資格「介護」を創設し、わが国の高等教育機関を経て国家資格介護福祉士を取得した外国人が介護の現場で働くことができるようになりました。さまざまな課題がありながらも、今後、海外人材がわが国で日本人と一緒に働けることになったわけで、この制度をどのように生かすのか、それとも生かさないのかを決めていくのも、現場の課題の一つでしょう。そしてこれから、私たちが世界の国々、とりわけアジアの国々とどのような関係を切り結んでいくのか、たぶん、世界中が注目していると思います。

 

満足を高めることの大切さ

フレデリック・ハーズバーグという研究者は、仕事には不満足を低くする要因と満足を高めるまったく異なる二つの要因があることを明らかにしました。不満足との関係要因の一つは「給料」です。ですから、これを高くすれば、不満足を少なくすることはできますが、満足、すなわち、輝いて積極的に仕事をする要因にはならないということです。詳細は図2をご覧ください。

 

 

一方、満足との関係要因の一つには「達成」や「仕事そのもの」が挙げられています。つまり、仕事そのものが楽しければ、達成感も高められ、満足感も得られる。すなわち、積極的に生き生きと仕事をすることができるということです。不満足を下げる要因と満足を高める要因を把握し、対応しながら、一人ひとりの職員が生き生きと働ける環境づくりこそ、人材不足の現代に問われているように思えてなりません。

 

プロフィール

  • 西口 守さん(東京家政学院大学 教授)
  • 1956年生まれ。日本社会事業大学大学院 社会福祉学研究科修士課程修了
    都内養護老人ホーム、特別養護老人ホーム相談員(指導員)を経て上智社会福祉専門学校選任教員、国際医療福祉大学講師、東京家政学院大学准教授、東京家政学院大学教授(現在に至る)専門領域:高齢者福祉・ソーシャルワーク
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