宮城県老人福祉施設協議会
災害時に機能する協定の整備が求められる
掲載日:2017年12月12日
ブックレット番号:2 事例番号:19
宮城県仙台市/平成25年3月現在

 

仙台市で宮城県老人福祉施設協議会(以下、宮城県老施協)の施設長会議の最中に東日本大震災は発生しました。各施設では、施設長がいない状況で突如、対応を迫られる場面に直面しました。宮城県老施協では、直後から各施設と連絡をとろうとしましたが、連絡手段が寸断されてしまっており、被災状況の確認すら出来ませんでした。

 

発災直後、連絡が取れなかった

発災直後、施設長が施設に戻ろうにも車は動けない状況にあるなど、交通手段は何もありませんでした。仙台から様々な施設の被災状況の確認をとろうとしましたが、電話も使えず、連絡がとれませんでした。

 

一方で、各施設の方からも利用者の早急な避難のため、施設長に指示を仰ごうと連絡をとりましたが、連絡がつかない状況にありました。何日間も、施設長と施設の間で全く連絡がとれない日が続きました。そのような中、それぞれの施設では利用者のその日その日の生活に対応する毎日を過ごしました。

 

宮城県老施協では、各施設に出向いたり、沿岸地域近くの理事に集まってもらうなどして、まずは情報収集から始めました。そうした中で、各施設が利用者の対応や職員の確保などに困難を感じていることが分かり、広域での要援護者の受入れ調整屋や全国からの応援職員派遣の調整へと移っていきました。

 

過去の災害を振り返っても、必ず通信手段が課題になっています。災害時優先電話も停電時にはうまく機能しませんでした。また、今回はメールも十分には機能しませんでした。宮城県老施協の会長であり、社会福祉法人常盤福祉会理事長統括の黒田清さんは「衛星回線を使う電話の設置が必要だ。全ての施設への設置には困難だが、せめて自治体と基幹になる事業者には設ける必要がある。どういう状況で何が必要なのかといった情報も入らないと発災害時の動きに遅れが生じてしまう」と災害時の通信手段の確保を訴えます。

 

機能する協定づくりが求められている

東日本大震災前、宮城県老施協と仙台市老施協の間では協定がありました。地区ごとに基幹になる施設(以下、基幹施設)を置き、例えばある施設に何かあった場合には基幹施設に連絡をとり、基幹施設同士で「こういう施設でこのようなことで困っているから何とかしてほしい」「支援物資をお願いしたい」というという依頼や調整の連絡を行い、対応するものです。しかし、東日本大震災では全く機能しませんでした。一番の原因は、協定を結んだだけで終わっており、それにもとづく訓練を行っていなかったことにあります。

 

そのため、協定があること自体、ほとんどの施設に認識されていなかったのです。現在、その課題に基づいた見直しを始めており、今後は、協定にもとづく訓練を行い、発災害時に具体的に動けるようにしていく予定です。

 

また、受入れについては、遠方の地域から受入れの提案があっても、実際には高齢者を連れて避難することが困難なこともあります。そのため、宮城県老施協監事であり、特別養護老人ホーム一心苑の施設長である中塩伸也さんは「近くの施設同士で対応できる仕組みを作る必要がある」と指摘します。

 

このような反省から、宮城県老施協では、県内を4つのブロックに分け、その中で、人材や物資などを流通できる仕組みを作る検討が始まりました。さらに、宮城県全体や県外といった広域的な部分でも、協定を結んでいく検討が行われ、山形県の老施協との協定づくりが進めています。日本海側で災害が起こった場合には太平洋側が対応し、一方で、太平洋側で災害が起こった場合には日本海側が対応するイメージです。

 

定員以上の受入れへの対応

また、施設入所者だけでなく、地域で生活する高齢者の方々についても生活レベルが低下したり、介護者の負担が増えるなどで施設入所のニーズが高まりました。介護報酬上、定員以上の受入れとなるので減算覚悟での受入れを行いましたが、後から行政から定員異常の受入れを認める連絡がありました。黒田さんは「災害時のような場合は、人命第一に考えて動き出すべき」と地域における福祉施設の役割を強調します。

 

2008年の岩手・宮城内陸地震の際は、実際に受入れを行う前に「利用者がいま施設に向かっており、施設として受け入れる方針です」「定員オーバーですが、受け入れたいと思います」という情報を宮城県に伝え、回答を得る形で受入れを行いました。県から許可がでれば、施設は受け入れやすくなります。今回も受入れに関しては県の柔軟な対応があり、多くの施設での受入れが実現しました。

 

東京で災害が起きたときのための備え

「発災直後は生き延びる方策、入所者や地域から避難してきた方への安全確保が重要だった」。こう話すのは宮城県老施協副会長であり、特別養護老人ホーム恵潮苑施設長の熊谷さん。水や電気がストップした中で、入所者や地域の方々への食事の提供ひとつを取ってもどのように行うか頭を悩ませたと言います。関係機関のネットワーク作りも重要な備えですが、発災直後は、まず、生き延びる方策を考えなければなりません。被災後5日間、入居者と職員、そして、地域の方々が生き延びるだけの電力や水、食料の確保の備蓄が必要となります。また、それらを蓄えるスペースが必要です。

 

次に必要となるのが関係機関のネットワークですが、ネットワークをどう活かし、相互支援につなげていくことが重要です。「東京で災害が起きると被害が広範囲になることも想定される。それを念頭においたネットワーク作りが必要ではないか」と宮城県老施協副会長であり、特別養護老人ホーム寿楽苑の吉城さんは話します。

取材先
名称
宮城県老人福祉施設協議会
概要
宮城県老人福祉施設協議会
http://m-roushikyo.org/
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