世田谷 介護普及活動 有志の会
特養とボランティアセンターが地域でつながり介護の魅力啓発に取組む
掲載日:2017年12月21日
2017年9月 連載

(社福)南山会「喜多見ホーム」施設長 野村博之さん(中央)
(社福)大三島育徳会
在宅サービス部長、統括本部検査室長、人材対策室長 佐藤朋巳さん(左より2番目)
「博水の郷」施設サービス部介護課副介護長 山本伸秀さん(左)
(社福)世田谷ボランティア協会「世田谷ボランティアセンター」
ボランティア・市民活動推進部部長 植田祐二さん(右より2番目)
ボランティア・市民活動推進部 鈴木佑輔さん(右)

 

 

あらまし

  • 福祉人材にかかわるさまざまな取組みが行われる中、福祉施設とボランティアセンターが地域でつながり、魅力の啓発に取組む姿があります。(1)企画、(2)進路サポート、(3)訪問、(4)受入れなど、複数の切り口から介護の魅力啓発に取組む、世田谷区内の特別養護老人ホーム施設長の有志と、世田谷ボランティアセンターの連携した実践をお伝えします。

 

特養施設長の有志で取組む

世田谷区内にある19か所の特養には、施設長会という横の連携があります。平成28年夏、ボランティアセンターに声をかけ、施設長会に参加してもらうことから取組みがはじまりました。世田谷ボランティアセンターの鈴木佑輔さんは、「施設長の有志の皆さんに特養で働こうと思ったきっかけや、仕事での喜びについて質問した」と言います。すると施設長からは、「人が喜んでいる姿を見たり叶えたりしたときの喜び」という言葉が返ってきました。「それを聞いたとき、一緒にできそうだと感じた」と鈴木さんは言います。そして、「学校に出向くだけでなく、地域の人に日常的に施設に出入りしてもらい、高齢者を大切にしたい、高齢者施設を支えたいという気持ちにさせる取組みも必要ではないか」と提案しました。施設長からは、「今すぐ人材の確保につながらなくても是非考えていきたい」と賛同が得られました。施設長会として取組むことも考えましたが、まずは柔軟な有志の取組みとして「世田谷 介護普及活動 有志の会」はスタートしました。

 

地域の人に何がお願いできるか

ボランティアセンターには、地域の相談事や課題が持ち込まれます。その中には、やりたいことはあるが活動場所がない人や、あまり人と関わらずに社会に貢献できることを探している方もいます。鈴木さんは、施設長と関わり施設に出入りする中で、「施設で空いているスペースや、職員が行っている植木の管理などボランティアにお願いできそうな作業が分かってきた」と言います。

 

新たなアプローチで関心を寄せる人を増やすための企画を考える、地域の人による実行委員会をつくるため、鈴木さんは28年10月に「特養各施設からの依頼に一緒に取組んでくれる方を募集します!」とHPとSNSで呼びかけました。ターゲットは、学生を含む20~30代の若者です。その結果、サラリーマン、30代女性、ボランティアサークルに所属する大学生などが集まりました。そこで練られた企画が「ちょっとてつだって!~vol.1施設の車いすを洗うの手伝って!~」です。施設が共通して必要としている作業を企画にしました。29年3月と4月に9施設において日曜日を含む4日程で実施したところ、延べ21名が参加しました。中には母のSNSで知ったという高校生の参加もありました。

 

(社福)大三島育徳会「博水の郷」の山本伸秀さんは、「職員も一緒に作業した。『こんなところが汚れるんですか?』などの質問から、日頃の車いすの使い方を説明したり、頻繁に洗いたいがなかなか時間が確保できないなどの職員の現状も伝え、こうして作業していただけることが本当にありがたいと感謝を伝えた」と話します。参加者からは「たくさん洗ってきれいになるとすっきりする!」という感想があるなど、結果が形として見える作業は達成感を得られた様子でした。野村さんは、「作業の中で職員との会話もあり、新たな発見があり、新しい知識が増える。このような企画は新鮮だった」と言います。

 

次世代に介護の魅力を伝える

世田谷 介護普及活動 有志の会の取組みは、このような「介護普及・啓発活動のための企画」以外にも、福祉の魅力ややりがい、必要性などを高校生に伝え、福祉を進学・進路の一つと考えてもらう「進学や仕事に就くサポート」や、小・中学校を訪問して行う「車いす体験授業等」、そして、奉仕活動やボランティア体験者など「ボランティア等の受入れ」を行っています。

 

学校への働きかけは、世田谷ボランティアセンターが作成した名簿を基に、施設長が学校に電話をかけました。今後、介護サービスのニーズ増大が見込まれる中、次世代の介護人材の育成や定着を重要な課題と考え、「進学や仕事に就くサポート」では、進学者の進路支援として福祉専門学校の紹介や、介護福祉士等修学資金貸付事業の利用の紹介などを都立高校へ働きかけました。熱心な先生とのご縁もあり、28年度は3人の生徒が福祉系専門学校へ進学が決まりました。

 

また、小・中学校を訪問して実施する「車いす体験授業」では、車椅子の種類や操作方法の説明や、車椅子介助体験(段差上げ・下ろし)などを行います。当日、有志の職員として参加した山本さんは、「だんだん顔を上げて話を聞いてくれた子や、質問してくれた子がいたのが嬉しかった」と言います。そして、「正直、以前までは話しても伝わらないかも…という気持ちがあったが、このような活動を通して伝わる実感が得られると、自信をもって介護の魅力を伝えられる」と言います。

 

 

私立世田谷学園中学校での車いす体験事業。職員有志7名が参加した(29年6月)

 

私立世田谷学園中学校での車いす体験事業。職員有志7名が参加した(29年6月)

 

受け入れる際の心配りも大切に

活動の中では、現場に人を丁寧に受け入れられる体制を整えることも重視しています。野村さんは、「喜多見ホームでは、手づくりの名札を用意するなど、ちょっとした心配りを大切にしている。実習・体験先に受け入れてもらえている実感は、安心して活動や体験できることにもつながる」と話します。「安心して人と人の触れ合いを体験してもらい、“感謝、感動、楽しさ”で気持ちが満たされる経験をしてもらい、明日もきたいと思ってもらえれば」と言います。

世田谷ボランティアセンターの植田祐二さんは、「人生は予期しないことが突然起こる。介護普及・啓発の活動を通して、福祉の正しい情報が学べるのは、これからの生活にも必ず役に立つ」と言います。山本さんも、「まずは正しい情報を知ってもらうと、魅力も伝えやすい」と言います。

世田谷 介護普及活動 有志の会では、今後、「若い人」、「親に介護が必要になる世代」、「配偶者に介護が必要になる世代」など、年齢層別のターゲットに合わせて戦略をたて啓発をすすめていきたいと考えています。「介護の仕事の魅力のアピールが課題となっているが、ぜひ他の区市町村でも同様の取組みが広がって欲しい」と野村さんは力を込めて言います。

 

  • 都立高校夏休み奉仕活動参加者感想より一部抜粋
  • (受け入れ先:喜多見ホーム)
  • ・職員の皆さんがお仕事をとても好きなんだろうなと感じ、この仕事に興味を持った。一番嬉しかったのは、何人ものかたに「今日は一日ありがとう」「ご苦労様、楽しかった」と声をかけてもらえたこと。
  • ・真面目な感じだと思っていたが、職員の方が皆明るく元気で居心地がよかった。将来の道(選択肢)が増えた。
  • ・一緒に暮らしている祖母と祖父に時々きつい言葉や態度で当たってしまうことがあるが、この体験を通して祖父母をもっと大切にしたいと思った。
  • ・一人ひとりに色んな人生があっていいと考えると自分に無駄にしている時間などないと感じた。将来の夢を話した時、「素敵ね。頑張ってね」と高齢者の方が言ってくださったのが嬉しかった。

 

取材先
名称
世田谷 介護普及活動 有志の会
概要
世田谷 介護普及活動 有志の会

(社福)南山会「喜多見ホーム」
https://nanzankai.tokyo/
(社福)大三島育徳会
http://www.oomishima.jp/
(社福)フレンズ奉仕団「フレンズホーム」
http://www.n-friends.or.jp/
(社福)古木会「成城アルテンハイム」
http://furuikikai.com/facility/seijo_altenheim/
(社福)敬心福祉会「千歳敬心苑」
http://www.keisinen.or.jp/chitose/
(社福)友愛十字会「砧ホーム」
http://www.yuai.or.jp/22/index.html
(社福)康和会「久我山園」
http://kugayama-en.org/
(社福)緑風会「エリザベート成城」
https://elisabeth.jp/
(社福)世田谷ボランティア協会「世田谷ボランティアセンター」
http://www.otagaisama.or.jp/
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