(社福)八王子市社会福祉協議会
農地を活用したゆるやかな社会参加の場 「はちまるファーム」における生きづらさを抱えた方の支援
掲載日:2024年3月26日

八王子市社会福祉協議会 支えあい推進課

左から、CSW 久住雄太郎さん、課長 大島和彦さん、CSW 村上萌さん

 

あらまし

  • コロナ禍で、孤立や生活困窮が進んだことで、区市町村社協が把握する地域の課題が複雑化、複合化しています。ひきこもりや不登校などの相談も増えていますが、社会的に孤立している方々の受け皿が地域には少ないため、相談を受け止めた後のつなぎ先である社会参加の場が不足しています。今回は、さまざまな生きづらさを抱えた方の居場所の事例として、重層的支援体制整備事業(以下、重層事業)の参加支援事業で農地を活用した居場所づくりを実施している八王子市社協の取組み「はちまるファーム」をご紹介します。

 

「はちまるファーム」ができるまで

「はちまるファーム」は、八王子市内の農地の一画で、さまざまな生きづらさを抱えた方が農作業をしながらゆるやかに過ごすことができる居場所であり、重層事業の参加支援事業に位置づけられています。毎週木曜日の午前中に開催しています。八王子市社協では、重層事業が始まる以前の平成30年頃から、農地を活用した居場所活動を模索していました。「はちまるファーム」があるエリアは、もともと地域活動が活発で住民の協力を得られやすく、農地が多い自然豊かな地域です。

 

現在「八王子まるごとサポートセンター(以下、はちまるサポート)」となっている地域福祉推進拠点に配置されていたCSW(コミュニティソーシャルワーカー)と生活支援コーディネーターが、参加の場がない方をつなげたいと考え、地域の農家とつながりづくりをしてきました。コロナ禍で一度取組みが中断しましたが、その後、自らも農家である民生委員からの紹介で、畑の福祉的利用に関心を示した農家の方とつながり、令和2年度末から「はちまるファーム」の立ち上げに向けて動き出しました。まず、八王子市社協の職員が農地に出向いて農作業を学び、農家の方との関係づくりに努めました。

 

ほかにも、農地を地域の居場所としていくには、さまざまなハードルがありました。居場所として作業を実施しているのは週1日ですが、農地は毎日誰かしら作業を行う必要があります。最初は、受け入れ側の農家の方と社協職員を中心に作業する状態が長く続きました。次第に地域ボランティアなどの協力を得て、それぞれの立場の負担を減らしていけるようになりました。誰も行けない日には地主の農家の方が作業をしてくださり、その協力が欠かせません。また、農地にトイレがないという問題もありましたが、近くの社会福祉施設が貸してくれることになりました。今では、施設の利用者もときどき農作業を行っています。試行錯誤の中で始めた令和4年度は、年度途中の10月からの開始で延べ23名の参加でしたが、令和5年度は、12月時点で4年度の3倍近い延べ参加人数(5年度は支援団体からの参加者も含む)となっています。

 

 

重層的支援体制整備事業と「はちまるサポート」で対応する相談内容

八王子市社協のはちまるサポートに寄せられるのは、以前は多くが高齢者からの相談でした。現在は50~60代の方からの相談が増加しており、長期に離職していたり社会的に孤立している状況が伺えます。これは、八王子市が重層事業を始めたことで、「はちまるサポート」の役割が明確になったことによると支えあい推進課CSWの村上さんはいいます。重層事業を受託したことで、ひきこもりや不登校をはじめ、複雑化、複合化した課題を抱えた方の相談先として、関係機関からも「はちまるサポート」が認識されるようになってきました。特に要保護児童対策地域協議会のメンバーに入ったことで、子ども家庭支援センターとの関わりも深まり、養育家庭への支援に取り組みやすくなりました。

 

現在、はちまるファームを利用している方の内訳は、不登校が3割強、ひきこもりが1割、生活困窮が2割で、各支援団体や相談窓口からつながるものが多く見られます。残りは、ひきこもっているわけでも、直ちに生活に困窮する状況になっているわけでもありませんが、人とのつきあいがない状態の方を「孤立・孤独」という分類にしており、一番多い4割弱となっています。自ら窓口に訪れることはなく、周囲がCSWに相談してつながったケースがほとんどです。このような方の参加の場が地域には少ないため、相談を受けた先が詰まってしまうと感じていました。農地を活用した居場所は、もとは就労に近い形を目指していましたが、生きづらさを抱えている方を農作業の担い手とするのは、受け入れ側の農家の方にとって不安が大きいことがわかりました。さらに、社会的なつながりがない人や長く就労していない人の相談を受けることが多くなる中で、必要とされているのはゆるやかな社会参加の場だと感じ、今の「はちまるファーム」の形をつくってきました。

 

「はちまるファーム」とこれからの支援

農地を活用した居場所は、土に触れる作業だけでなく、看板を作ったり、収穫した野菜を調理したり、ほかにもさまざまな工程があるので、自分にあった作業を見つけることができます。最初は、どのような人が参加するのかと不安に思っていた農家の方も、今では、利用者の作業を褒めてくれるようになりました。ボランティアや近隣の施設などとのつながりもでき、地域の中の理解者も増えたと感じています。市内のほかのエリアにも、同じように農地を活用した居場所がつくれるといいのですが、軌道に乗せるまでの職員の負担が大きく、容易く手を広げられないのが悩みだと支えあい推進課長の大島さんはいいます。

 

今は、収穫した野菜は自分たちで調理をして食べるか、地域の子ども食堂などの団体に渡しています。団体に持っていくのは職員なので、当事者に自分たちが育てた野菜が活用されているところが見えにくいのが課題です。支えあい推進課CSWの久住さんは、今後は販売など何かの形で当事者に結果が還元できるといいと考えています。

 

はちまるファームには、各支援団体の方や不登校児の親も参加しており、支援団体同士や親同士の交流の場にもなっています。今後、はちまるファームでの交流をきっかけにしたグループ化の可能性もあります。はちまるファームへの参加がスタートの利用者が多いので、今は無理にその先につなげなくてもいいと考えていますが、今後、福祉事業所に行ってみたい、就職したいという希望があればそこに伴走し、それぞれの利用者にあった形のサポートをしていきたいと思っています。

 

取材先
名称
(社福)八王子市社会福祉協議会
概要
(社福)八王子市社会福祉協議会
https://www.8-shakyo.or.jp/
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