(社福)渋谷区社会福祉協議会
13名の地域福祉コーディネーターを配置し、「福祉なんでも相談」「分室相談」「巡回相談」「LINE相談」と包括的相談支援の間口を広げるとともに、既存の相談機関の垣根を越えた連携、多世代にわたる地域づくりをめざす―渋谷区社協における重層的支援体制整備事業の取組み
掲載日:2024年3月28日

 

2 地域担当制や分野を越えた活動にも取り組んだ『第2期地域福祉活動計画』

平成29年に改正された社会福祉法では、区市町村が取り組むべきことに「包括的支援体制の構築」が位置づけられました。その実現に向けては、渋谷区社協でも、より積極的に事業間が連携して地域課題への対応力を高めることが必要でした。

 

そこで、平成30年度から令和4年度までを計画期間とする『第2期地域福祉活動計画』では、職員が地域にアウトリーチし地域住民とともに地域課題への対応に取り組むこととし、地域の方々の力を活かした地域づくりの実現をめざしました。その際、渋谷区社協のもつ強みとして、他の社協と比べても、こどもテーブル事業や子育て支援センター等を通じた子どもと家庭支援での経験があること、さらには障害者の総合相談の経験をふまえた保健分野との連携の可能性があることが考えられました。

 

※第2期地域福祉活動計画当時の拠点。現在は渋谷区役所庁舎で「地域福祉コーディネーター」「障がい者基幹相談支援センター」「要介護認定調査事業」を新規に実施し、「しぶやボランティアセンター」も移転となっている。また「せせらぎ地域包括支援センター」「渋谷区障害者就労支援センター」が別法人に移管され、「せせらぎ居宅介護支援ステーション」「ホームヘルパーステーション」は他の主体が増えたことから廃止となっている。

 

 

渋谷区は15~34歳までの比較的若い世代の転入も多く人口が増加傾向にあります。しかしながら、令和12年には生産年齢人口が次第に減少へと転じ、その後、高齢化の進展が急速に訪れていくことが予測されています。そうした地域性にある中、社協が『第2期地域福祉活動計画』を策定するちょうど同時期の平成28年10月に、渋谷区は平成29年度からの10年間を期間とする『長期基本計画』を策定しました。その基本計画には、「渋谷区基本構想」として渋谷区の未来像を語るフレーズに「ちがいをちからに変える街。渋谷」が掲げられました。その構想は社協の『第2期地域福祉活動計画』の策定にあたっても強く意識され、制度や分野別の枠組みを越え地域住民の活動がつながり、そして、自治会や民生児童委員のような地域の力と大学、企業、NPO の新しい力が連携し、多様性を新しい地域活動に活かしていくことがめざされました。

 

このようにして策定された平成30年度からの『第2期地域福祉活動計画』では、最初の2年間は計画に基づく取組みを少しずつ始めて行きましたが、そこで直面したのが「コロナ禍」でした。当時、地域のイベントに積極的にアウトリーチしていく活動はいったんストップせざるをえず、コロナ禍に増大した地域課題への対応が急務となりました。こうした経験をふまえ、渋谷区社協では、現在、新たに始まった重層的支援体制整備事業もふまえて改めて『第3期地域福祉活動計画』の策定に取り組んでいます。

 

当時の第2期の計画には 16の重点事項実施項目が掲げられており、その中で取り組んだことは以下のようなものでした。

(1)「地域担当制」によるコミュニティソーシャルワークの実践

民生児童委員協議会の7地区をまずは区内全体を3エリアに分けて「地区担当制」によるチームが地域に出て行くことを徹底し、各サロンや地域の会合に訪問する取組みを始めました。社協の「地域福祉部門」「子育て支援部門」「障害者福祉部門」「高齢者福祉部門」の係長級の職員により5名程度のチームをエリアごとに作り、権利擁護事業の職員は高齢者福祉部門に入りました。3つのエリアにより始めて計画期間を通じて、7地区ごとの「地域担当制」へと拡充していくことを目標としていました。

 

コロナ禍でサロンや行事も地域では休止し、チーム体制を維持できたのは2年間でしたが、いくつかの気づきもありました。一つは、分野ごとの各事業も兼務している職員のため、把握した地域の困りごとを解決に向けた取組みへとすすめる体制が当時は用意できていなかったことです。もう一つは、チームの中には区からの委託事業を担っている職員もいるため、委託事業の範囲を超えるような地域との関わりについてどのように考えるかについて整理が必要だったことです。

 

当時は道半ばに途絶えた取組みですが、令和4年度からは新たに地域福祉コーディネーターが社協に配置されています。渋谷区社協の強みを発揮できる可能性のあるこの経験が今後に活かされていくことが期待されます。

 

(2)ボランティア等の育成・支援の充実

『第2期地域福祉活動計画』では、ボランティア活動について社会が多様化する中での円滑なボランティアコーディネート、既存のボランティアの高齢化に対応した新たな地域人材の育成、また、多様化するボランティアニーズに対応していくための福祉事業者、ボランティア団体、大学、NPO法人、企業等との連携の強化がめざされました。

 

しぶやボランティアセンターにおける新たな取組みでは、QRコードを活用したボランティア登録のしくみづくりをすすめ、敷居を低くすることで参加しやすい工夫をしました。団体同士の連携では、災害などのテーマや課題に応じて企業やNPOの多様な主体とのつながりを作っていくことが必要です。区内には大学も複数あり、ボランティア活動に関心のある学生もいます。地域団体や学生たちがイベントをきっかけに地域とつながり、関心を持つ取組みもすすめました。今後、地域福祉コーディネーターの活動と連携を深め、ボランティアセンターの可能性が広がることが期待されます。

 

(3)「こどもテーブル事業」の拡充

平成28年、地域と一体となって子どもの健全育成事業を推進する団体等を支援するため、『渋谷区社会福祉協議会子ども基金』が創設されました。同基金を活用して、地域住民等が主体となって運営している「子ども食堂」と「居場所づくり・学習支援」に対して『こどもテーブル活動助成』を行うとともに、後方支援として、活動場所の紹介、活動の周知、団体のつながりを支援しているのが社協の「こどもテーブル事業」です。同事業では、ボランティアの紹介も行っているので、地域の人と若い学生がつながるきっかけにもなっています。また、同事業を通じて社協から学校や保育園に周知することで、ニーズのある子どもたちが団体につながりやすくなると考えられます。

 

平成30年2月には区内の「こどもテーブル」は32団体でしたが、令和5年12月現在、「子ども食堂団体」で65団体、「居場所づくり・学習支援団体」で49団体にまで拡がりました。そして、令和4年度からは新たに団体間の「横のつながりを作る会」を開催しています。団体間がつながる中、各団体からも関心がもたれているのは、子育て世代から高齢者までつながることのできる「多世代型こどもテーブル」です。第2期地域福祉活動計画でめざされた分野を超えたつながりがここでも芽生え始めています。この会には新たに社協に配置されている「地域福祉コーディネーター」も参加しています。多世代の活動への発展が地域福祉コーディネーターとの連携によりすすむことが期待されます。

 

(4)子どもから高齢者まで幅広い世代が集える「景丘の家」

「景丘の家」は、平成 10 年に故人の遺志により「恵まれない、あるいは勉強する場所がない子どもたち」のためにと、新しく建て替えるための費用を含めた遺贈が行われたものです。平成31年3月に開設し、地下1階から3階までの広い施設を「こどもテーブル団体」だけでも1 団体が利用しています。

 

同施設を通じて「子どもから高齢者まであらゆる世代が交流できる」ことが、第2期地域福祉活動計画でもめざされました。今後、多世代・多機能型の拠点の一つとして期待されます。

 

取材先
名称
(社福)渋谷区社会福祉協議会
概要
(社福)渋谷区社会福祉協議会
https://www.shibuyashakyo.or.jp/
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