多世代交流の里「すなまちよっちゃん家」
開設から7か月 江東区東砂のアットホームな地域福祉拠点
掲載日:2017年12月22日
2017年6月号 TOPICS

「すなまちよっちゃん家」代表の吉野義道さん(左)と

江東区社協の地域福祉コーディネーター井上博さん(右)

 

空き家を地域住民に開放

長年、民生児童委員や保護司として活動してきた吉野さんは、退任後の平成27年11月、藍綬褒章を受章したことをきっかけに、新たな地域貢献活動を検討し始めました。「両親が住んでいた家が10年以上、空き家になっていたので、何か福祉のために利用できないかと考えた。夫婦で話し合い、地域の人が集まれる居場所がいいのではということになった」と経緯を教えてくれました。

 

28年3月、吉野さんから相談を受けた江東区社協地域福祉コーディネーターの井上博さんは、居場所のイメージを具体化してお互いに共有するため、民家を活用した居場所づくりの先進地域の視察を提案。すぐに文京区の「こまじいのうち」を訪問したところ、吉野さんが抱くイメージにぴったりだったので、地域に開かれた居場所にさまざまな人や活動、機能が集まる「多機能型の地域拠点」として位置づけ、すすめていくことを確認しました。

 

また運営は、既存の組織や機関としてではなく、あくまで地域住民による取組みとして行っていくこととしました。吉野さんは東砂7丁目町会長を務めていますが、あえて町会を巻き込まないやり方を選びます。「町会としてやると、町内で均一に提供しなければいけないという意識がどうしても働いてしまう。道路をはさんで町並みも違うし、よっちゃん家は小さいエリアの中で、一人の住民として肩肘張らずにやった方がいいと思った」と理由を説明します。

 

こうして開設に向けた準備が始まりました。まず一緒に活動をしていく仲間として、吉野さんの人脈を活かして現役やOBの民生児童委員に声をかけ、趣旨に賛同してくれた人に運営委員になってもらいました。井上さんはボランティアスタッフを募集し、運営委員会に向けて社会資源調査や検討資料の作成を行いました。7月に開催された第1回運営委員会には、民生児童委員を中心とした運営委員12名のほか、区福祉部長寿応援課と社協が参加。運営方法や活動資金、活動内容等について話し合われました。また「縁側や庭を見ているだけでも幸せ」「この家と地域の持ち味を大切にしたい」といった運営委員の想いを共有することができました。ボランティア向けの見学会と説明会も開催し、どのような居場所にしていきたいか、吉野さんの想いを伝えました。一方、社協ではサロンに対する助成金制度とは別に、支え合いのまちづくりを進める互助活動への助成金制度を新たに創設し、立ち上げ準備金と毎月の運営助成金の交付を決定しました。

 

和風の門と生垣が印象的な入り口

 

地域福祉拠点として少しずつ定着

そして9月26日(月)に、運営委員とボランティアスタッフによるささやかな開所式を経て、オープンしました。月曜日は子育てサロンや子どもの時間、水曜日は一般サロンやイベント開催を基本スケジュールにしながら、健康体操、絵手紙、囲碁将棋、英会話など、多様なプログラムを用意しました。クチコミでゆっくりと広がっていく方がいいと考えて大々的な広報はしませんでしたが、地域住民がお茶を飲みに来たり、近所のデイサービススタッフが利用者と一緒に訪れたり、赤ちゃんを連れた母親が休みに来るなど、少しずつ訪問者が増えています。

 

特に、認知症やうつなどの症状がある方にとって居心地のよい場所になっていると感じており、「最近、引越してきた高齢の夫婦は、奥さんが認知症。初めは話しかけても応答がなかったが、定期的に通ううちにとても表情が豊かになってきた。福島から東京にやってきてうつ状態になっていた女性も医師の助言で通うようになり、『気持ちが良かった』と言ってくれた。福祉会館や集会所はあるが、やはり民家のアットホームな雰囲気がいいのだろうと思う。認知症については、もっと勉強していきたい」と吉野さんは言います。

 

課題を発見し解決していく場に

吉野さんの想いを受け止め、住民主体の活動を側面的に支援してきた井上さんもこれまでの取組みを次のようにふり返ります。「地域福祉コーディネーターとしては、オーナーである吉野さんをはじめ、運営委員やボランティア、関係機関の間に立って、関係性を作ることに尽力した。ボランティアもただ紹介するだけではだめで、その人の個性を把握しながら丁寧につないでいく必要がある。立ち上げの頃は心配で頻繁に通っていたが、すぐに軌道に乗って落ち着いてきたので、今では月に2回立ち寄る程度になった」。さらに、「よっちゃん家は地域の課題を共有できる場にもなっており、コーディネーターが運営委員やボランティアと相談し合える状況がある。最近では、ごみ屋敷状態にあった住民に対し、当面必要な物資を集めて対応するなど、住民が課題を見つけ、解決に向けて動き出す例も出てきた」と居場所の効果を実感しています。

 

吉野さんにも子どもの貧困など、気になる課題があります。「夏休みになると、近所のショッピングモールで一日中過ごしている子どもを見かける。そういった子どもたちの居場所を提供できないか。検討中だった子ども食堂も形にしていきたい」。初めて迎える夏休みをどうするか、これから仲間と一緒に考えていきます。

 

取材先
名称
多世代交流の里「すなまちよっちゃん家」
概要
多世代交流の里「すなまちよっちゃん家」
http://genki365.net/gnkk22/mypage/index.php?gid=G0000229
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