(社福)東京都社会福祉協議会
暴力・虐待を防ぐために地域住民ができること―施設と地域の連携による取組み
掲載日:2017年12月22日
2015年4月号社会福祉NOW

 

 

 

あらまし

  • 東社協第3期3か年計画(平成25年~平成27年度新規重点事業計画)では「暴力・虐待を生まない社会づくり推進事業」に取組んでいます。平成26年度は地域住民等が暴力・虐待を防ぐためのヒントをまとめた小冊子「こんなことに気づいてあげて~暴力・虐待を防ぐためにあなたにできること~」を作成しました。今号では、暴力・虐待を未然に防ぐために地域住民ができることをテーマに考えます。

 

暴力・虐待の相談件数は右肩あがり

児童虐待防止法、DV防止法、高齢者虐待防止法に続き、障害者虐待防止法が施行され、法整備は徐々にすすんでいます。しかし、児童虐待、DVの相談件数は右肩あがりで増加し、児童虐待による死亡事例も高い水準で推移し続けています。

 

東社協では第3期3か年計画において、「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会(以下、本委員会)」を設置しました。平成25年に実施した暴力・虐待を未然に防ぐアプローチに関する調査では、児童・女性福祉施設の利用者の半数以上が「入所前に暴力・虐待を受けた経験がある」と回答しています。また、施設に入所する前に暴力・虐待を受けたことがある約500名の実情を調べました。「どうして早く見つけてあげられなかった」を調べると、「暴力・虐待を相談できる人・機関を知らなかった」が4割、「自分が受けていることが、暴力・虐待だと認識していなかった」が34%でした

 

施設の専門性と住民の力をつなぐ

東社協では、児童・女性にかかわる施設部会が集まり、児童・女性福祉連絡会を構成しています。前述した本委員会の取組みを報告するため、平成27年3月5日に連絡会は、シンポジウム「暴力・虐待を未然に防ぐためにできること~福祉施設の専門性を地域で活かす~」を開催しました。福祉施設職員だけでなく、民生児童委員やボランティアなど約100名が参加しました。

 

基調講演を行った本委員会委員長である石渡和実さん(東社協理事・東洋英和女学院大学教授)は、「川崎市で中学生が殺害され、少年3名が殺人容疑で逮捕される事件が起きた。厳しい状況にいる人からのSOSを地域で受けとめ、未然に防げなかったのが悔やまれる。福祉施設の専門性と地域住民の力をつなぐ取組みが求められる。そこには、区市町村社協の地域福祉コーディネーターの力が期待される」と課題提起しました。

 

福祉施設の実践

シンポジウムでは、虐待を未然に防ぐ福祉施設による実践報告を行いました。報告を行った一つの母子生活支援施設新宿区立かしわヴィレッジでは、DV等で入所した親子が退所しても遊びに来たくなる施設を目指しています。その想いから、退所した子どもや地域の子どもたちが学びにくる「かしわ塾」を週2回開いています。大学生ボランティア等が勉強を教え、年間延べ1,500人が訪れています。施設長の渋谷行成さんは「ともに学び、苦労を経験することで『人間関係も捨てたもんじゃない。人って悪くないな』と感じてもらうことを目標にしている」と話します。

 

また、「食」を通した場づくりも展開しています。退所者でひきこもりだったA君を外に連れ出すために、近くのラーメン屋で一番安かったチャーハンを皆で食べました。そこから、「チャーハンの会」と呼ばれるようになりました。週1回、10名くらいの思春期の子どもたちが参加します。渋谷さんは「そこは、学校(社会)か「引きこもっている部屋」の二者択一ではない中間の場所で、人とのつながりに慣れていく場所」と話しました。この他にも福祉施設では、暴力・虐待を未然に防ぐ取組みを実践しています。本委員会ではそれらの取組みをヒアリングし、27年度に実践事例集として発刊する予定です。

 

      

シンポジウムの様子

 

こんなことに気づいてあげて

平成26年度、本委員会は、小冊子「こんなことに気づいてあげて~暴力・虐待を防ぐためにあなたにできること」を作成しました。これは、地域住民に「暴力・虐待は身近で起きていること」と実感してもらい、住民自身ができることを地域で考えるための小冊子です。平成25年度に実施した調査から得られた事例を加工し、マンガで紹介しています。例えば、母親が小学生の子どもから「同じクラスの子がほっぺたにケガをしていた。お母さんにぶたれたのかもしれない。助けてあげて」と相談されます。お母さんは「どこかに相談したほうがよいのかしら」「よその家のことだから…。学校がなんとかしてくれるかも…」と気持ちが揺れ動きます。そして、勇気を出して行動を起こしたパターンと、何もしなくて悲しい結果になってしまったパターンの2つを提示しています。そこからできることを考える構成です。

 

小冊子「こんなことに気づいてあげて」

 

地域住民にできること

暴力・虐待の場面を発見したとき、私たちは何ができるでしょうか。平成25年度に実施した調査では、9割を超える福祉施設が「地域住民にもできることがある」と回答しています。自分と関係性がある人であれば、「困ったことがあったらいつでも相談してね」などと話かけられるかもしれません。突然声をかけるのが難しい場合は、隣近所の人と挨拶くらいはできるかもしれません。挨拶から顔なじみになり、そこからできることが見つかるかもしれません。

 

そして、暴力・虐待を発見したら「空振り」をおそれないで通告することが大切です。通告のハードルが高ければ、役所などに情報を知らせるだけでも良いのです。通告すると、様々な機関が事実確認を行い、必要に応じて立ち入り調査や一時保護することもあります。もちろん、事実確認を行った結果、何もなかった「空振り」のケースもあります。また、DVなどの相談をされた場合は、否定したり疑ったりしないでありのままを受けとめてください。なお、通告した人の情報は、相談先の関係者以外に知られないことになっています。匿名でも構いません。

 

通告への迷い

先に紹介したシンポジウムの質疑応答では、通告する悩みについて話されました。民生児童委員から「近所にひとり親の家族がいる。お母さんが出かけると2~3日帰ってこなくなり、小学生の子どもが赤ちゃんの世話をしていた。悩みながら通告した。通告した後も本当にこれで良かったのか、自分の通告で家族がバラバラになってしまうのではないかと悩んだ」と、揺れ動いた気持ちを話しました。

 

かしわヴィレッジ施設長の渋谷さんは質問に対し、「通告した後に家族がバラバラになるケースはそれほど多くはない。通告することで子どもだけでなく、親も救うことにつながる。揺れ動く気持ちは共感するが、勇気を出して通告してほしい」と通告を後押ししました。

 

小冊子は地域で考えるツール

小冊子は読んでもらうだけでなく、地域や施設で活用してもらうツールとして作成しています。地域の子育てサークルや勉強会、施設内で活用いただき、「自分の地域で起きたらどんなことができるか」などと、暴力・虐待について考えるきっかけづくりになることを目指しています。

 

平成27年度、本委員会においても小冊子を活用し、福祉施設と社協・民生児童委員が協働しながら地域でモデル勉強会を開催する予定です。そして、暴力・虐待を地域で考え、住民の力を引き出せるしくみづくりを検討していきます。

 

暴力・虐待はマスコミ報道の中の事件ではなく、わたしたちの生活のすぐ近くに起きていることです。あなたの隣近所、保育園や幼稚園、学校、街を歩く中でも出会うことがあるかもしれません。勇気を出して行うあなたの一歩で暴力・虐待を防ぐことができるかもしれません。

 

暴力・虐待を防ぐためにあなたができること(例)
■近隣に関心をもち、挨拶や声かけなどのできることから始めて、孤独を感じさせない
■ある程度の関係ができれば、相談できる機関を伝える
■地域で「暴力・虐待を許さない意識」を高める
■気軽に立ち寄れる場所を地域に作っていく
■気になるときに、「どう思う」と身近な人と話してみる
■暴力・虐待を見かけたら、勇気をもって通告する
■通告のハードルが高ければ、役所などに情報を知らせるだけでも良い

 

小冊子は4月上旬に関係機関に送付するとともに、東社協図書係にて頒布します。あわせて東社協ホームページにも掲載します。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/

小冊子「こんなことに気づいてあげて」(東社協「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」作成)
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/documents/kizuiteagete.pdf
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