(社福)国分寺市社会福祉協議会、(社団)てらまっち、新宿区、埼玉県、(株)フラワー企画
生活困窮者自立支援法制度がスタート―地域の社会資源を活かした多様な取組み
掲載日:2017年12月12日
2015年6月号 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 平成27年4月から生活困窮者自立支援法が施行されました。この制度では全国で福祉事務所を置く自治体ごとに必須事業と任意事業の組合せにより、多様な取組みを展開しています。
  • 今号では法施行後の現場の取組みを通して、主に自立に向けた「出口」支援から新制度の今後の方向性を検討します。
  • また、認定就労訓練事業に関連する先例として、平成22~26年に実施された埼玉県アスポート事業と就労体験受入れ事例を紹介します。

 

生活困窮者自立支援法では全国で福祉事務所を置く自治体が実施主体となり、生活困窮者がワンストップで相談できる窓口が設置されました。まず、「入口」として住まい・健康・仕事・家族など多様な課題を抱える一人ひとりにあった支援プランをたて、寄り添いながらサポートを行います。

 

また、就労支援など困窮状態から抜け出して自立した生活が送れるよう「出口」としての支援も含まれます。各種事業は必須事業と任意事業があります(図)。実施主体も行政の直営型や民間委託型など様々で、自治体ごとに地域の社会資源を活用した取組みが今、始まっています。

 

 

 

家庭訪問をセットにした学習支援から世帯支援につなげる―国分寺市社協

国分寺市社協は平成26年1月から27年3月の1年3ヶ月間、自立相談支援事業と学習支援事業のモデル事業を「自立生活サポートセンターこくぶんじ」として実施し、今年度も継続して行っています。学習支援事業では相談窓口や家庭訪問を国分寺市社協が、無料学習塾は同じ市内にあるNPO法人一粒の麦が連携して行っています。学習支援の対象者は、経済的な理由で学習塾に通えない小・中学生で、どちらも週1回開催しています。この支援を利用する際は原則、家庭訪問を行います。そこで、相談者の同意のもとケース記録票を作成し、世帯の生活や経済状況を把握します。

 

これは社協が実施する生活福祉資金等の貸付事業やモデル事業を通して、学習支援希望の家庭の多くは世帯としての支援も必要としていたからです。学習支援の相談は、生活保護課のケースワーカーの紹介と親からの問合せが中心です。国分寺市社協地域支援係の副田拓人さんは、「民間学習塾に通うことのできない子どもが、親に『学習塾に通いたい』と訴えたことで、親が相談にきたケースもある。この子どもは無料学習で学び、高校進学を果たした。また、家庭訪問で疾病を抱える親へのサポートも必要だとわかった。学習支援から世帯支援にもつなげる取組みもしていく」と話します。

 

国分寺市社協では、自立相談支援だけでなく、学習支援からも要支援世帯にアウトリーチする糸口があると考えています。今後の事業展開には、学習支援ボランティアや会場など受け皿の拡充も必要となり、地域資源の活用が重要です。副田さんは「モデル事業でかかわった行政やNPO、学校等との連携は徐々に深まっている。しかし、地域住民の事業への理解はまだ浸透していない。この事業は、地域の課題を地域で取組むしくみが必要なので、地域の方々の協力を今後も求めていきたい」と話します。

 

多様な課題に対応するために支援メニューを幅広くそろえる―新宿区

新宿区では必須事業と任意事業を幅広く実施しています。既存の事業を活用しながらこれらのメニューを揃えて、都心における生活困窮者の多様な課題への支援を目指しています。以前から区ではホームレス等への自立支援を行う拠点相談所「とまりぎ」、ハローワークと協定を結び、生活保護受給者等に対して雇用と福祉を一体的に支援する「新宿就職サポートナビ」等の事業を行ってきました。

 

しかし、生活困窮者自立支援法のモデル事業で相談を受けた際、既存事業の相談窓口へのつなぎ方が利用者にも関係者にも分かりにくいという課題がみえてきました。今年度からは生活困窮者自立支援法の枠組みのなかに既存事業を関係づけることで、相談者を継続的に支援するための体制の充実を目指しています。また、自立相談支援事業を実施する「生活支援相談窓口」は生活保護の相談窓口と同じ庁舎内に設けて、一人ひとりの状況にあわせた支援を「生活保護制度」と「生活困窮者自立支援制度」の両輪で行える環境づくりもしています。新宿区は都心ならではの様々な課題への対応が必要です。

 

例えば、新宿駅は全国から仕事を求めて多くの人が集まり、繁華街にあるネットカフェで生活を余儀なくされる人もいます。こうしたケースでは一時生活支援が必要になります。

また、区内の経済的に困窮する高齢者やひとり親世帯への支援なども必要です。そのため、自立相談支援事業だけでなく、任意事業も含めた幅広い支援メニューを用意して、世帯全体への働きかけも重視しています。

 

福祉部生活支援担当課長の関原陽子さんは、「今回の制度では、複合的な課題を抱える相談者に対してどれだけの支援が提供でき、その情報をどの順番で提供するか等、実施側の力量が求められている。そのためにも様々な企業や民間団体が集う新宿区の強みを活用して、新たに連携を広げていこうと動いている。また、そうした区内の社会資源へのつなぎ方に関して、常に情報に敏感になって事業に取組んでいきたい」と話します。

 

地域で育んだ場を生かした学習支援―社団法人てらまっち(文京区)

文京区の学習支援を受託した社団法人てらまっちは、社協の小地域福祉活動と共に、地域住民によるボランティア団体からはじまりました。3年前、理事長の石井楢児さんがボランティアで子どもたちに学習支援を行いたいと発信したところ、様々な事情で学習が遅れている子どもに勉強を教えてほしいとのニーズが地域から出ました。そこで文京区社協の地域福祉コーディネーターがあいだに入り、民生・児童委員や住民など地域の関係者が集まり、団体を立ち上げました。会場は住宅の一部を開放した地域の居場所「こまじいのうち」を活用し、小4から中3を対象に毎週土曜日に開催しました。

 

子どもたちは地域の「居場所」で自信をつけ、高校へと進学しています。「文京区は教育熱心というイメージがあるが、経済困難で通塾できなかったり、様々な支援が必要な子どもが区内に点在している」と石井さんは話します。なかなか地域で見えてこない課題を抱える子どもたちを学習支援につなげる方法を検討した結果、てらまっちは社団法人として生活困窮者自立支援法の学習支援を受託し、子どもたちにつながる道を1つ広げました。子どもへのアプローチは引き続き模索していますが、現在は週3回、2地区で展開しており、さらに一か所増やす予定です。加えて、地域特性として大学が多く、ボランティアに熱心な住民にも恵まれ、支援側の体制は充実しています。今後も地域に支えられて作ってきた空間を大切にしながら、新制度での事業を行っていきます。

 

就労支援の受け皿づくりは地域づくりにつながる―埼玉県アスポート事業

生活困窮者自立支援法の就労訓練事業(中間的就労)は、自立に向けた出口支援の一つに位置づけられています。中間的就労は、企業等での一般的な就労と福祉作業所等での福祉的就労の間に位置づけられます。すぐに働くことが難しい人に対して、企業や社会福祉法人など多様な事業所から就労の機会を提供してもらい、支援スタッフが本人の状態にあわせた伴走型の支援を行います。

 

埼玉県の生活保護受給者チャレンジ支援事業(アスポート事業)は、平成22年から26年の5年間、生活保護受給者に対して教育・就労・住宅の3本柱で支援を行いました。支援ではNPO法人ワーカーズコープが受託し、県内50歳未満の離職者2千800人のうち、25年度は831人、26年度は730人が就職に結びつきました。

 

県内74か所の就労体験先を開拓

アスポート事業では、仕事に必要な基礎知識や資格の取得など技能に関するセミナー受講と最長1ヶ月間の就労体験などの支援メニューを用意しています。就労体験では、受入れ可能な企業や事業所の協力が不可欠です。アスポート就労支援事業者の牛草賢二さんは「ワーカーズコープのもつネットワークや地域のつながりから受入れ先を探した。協力が得られるかどうか不安な面もあったが、人材が不足している分野では受入れに前向きなところも多く、理解を示してくれる事業者が地域にいると知った。最初は『働けるのに働かない人を受入れるのはちょっと…』と懸念していた事業所も、実際に本人たちを受入れるなかで見方が変わり、雇用につながったケースもある」と話します。

 

また、ワーカーズコープ埼玉自立支援事業所の新井ゆう子さんは「本人の支援には、担当の職業訓練支援員に加え、セミナー受講者同士や就労体験先の職場の人たちなど複数の関係者がかかわった。複数の視点で本人の強みを見つけることができ、本人も周りとつながる場を得て、自信を取り戻していく」と、支援員と相談者という一対一の関係をこえた広がりの重要性を指摘します。

 

アスポート事業の実績が上がるにつれて、協力事業所も徐々に数を増やし、物流、清掃、販売業、製造業、農業、高齢や障害分野の介護福祉など県内74か所の企業や社会福祉法人の事業所が就労体験先としてつながりました。

 

『財産』として生活困窮者自立支援法に生かす

埼玉県福祉部社会福祉課生活困窮者支援担当の龍前航一郎さんは、「県全体で就労支援に取組んだことにより、支援のネットワークや支援方法について、福祉事務所のケースワーカー、職業訓練支援員や受け入れ先の事業所など、それぞれに5年分の蓄積ができた」と話します。生活困窮者自立支援法の就労支援は、福祉事務所設置自治体ごとに行うので、地域で利用できる社会資源に違いがでています。しかし、就労体験先だった企業が現在、就労訓練事業の認定申請について意欲をみせているなど、県全域で取組んだ事業が『財産』として新制度でも活用されることになるでしょう。

 

就労体験受入れ事例ー株式会社フラワー企画

越谷市にあるフラワー企画は冠婚葬祭やイベントでの花の提供を行っている企業です。現在、アスポート事業の就労体験で受入れた3名がアルバイトとして雇用されています。「当初、支援員の方が熱心に話をしてくれて、会社としてぜひ地域に貢献したいと思った。また、こちらとしても人員面でニーズがあったので受入れ先になった」と部長の土田真志さんは話します。就労体験で受入れた人のなかには、長期のひきこもりで生活のリズムが乱れてしまっている人、コミュニケーションが苦手な人など様々な人がいます。

 

そのため、一人ひとりの様子にあわせて、仕事の順番や場所をかえて作業をしてもらうなどの工夫を行いました。一つの作業に集中して止められなくなってしまう人には、花以外の作業を静かな部屋でしてもらうことで、落ち着きを取り戻してもらいます。自分から話すことが難しい人には花を同じ本数で束にまとめる作業を頼み、仕事が終わったら声をかけてもらうようにすることで、少しずつ話す機会を増やしました。職員同士も毎朝のミーティングで、本人への接し方で気をつける点などを共有し、業務に携わります。「作業の伝え方や接し方を試行錯誤して考えることが、各スタッフの成長にもつながっている。職業体験に参加する本人たちも、最初は自信を失くしており、マイナスからのスタートだが、徐々に自信をもち、花の力も借りながら表情も生き生きとしてくる」と土田さんは話します。

 

フラワー企画ではこうした就労支援に関わることは会社にとっても5年後、10年後にプラスになると考え、今後も就労支援の受入れを続けていく予定です。

 

フラワー企画のスタッフの皆さん(後列右から1人目が土田さん)

 

フラワー企画の作業場所の様子

 

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生活困窮自立支援法の施行から2か月が経過しました。各自治体の取組みはまだ始まったばかりです。入口としての相談窓口は設置されましたが、任意事業とどうつなげるのか、地域のなかで困難を抱える人たちへのアウトリーチはどうするのかなど、今後の取組みが注目されます。この制度では行政、民間団体、社会福祉法人、そして地域住民といった「地域の資源」を活かした地域づくりが求められます。

取材先
名称
(社福)国分寺市社会福祉協議会、(社団)てらまっち、新宿区、埼玉県、(株)フラワー企画
概要
(社福)国分寺市社会福祉協議会
http://www.ko-shakyo.or.jp/

新宿区
http://www.city.shinjuku.lg.jp/

(社団)てらまっち
https://www.d-fumi.com/member/article/159/event

埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/

(株)フラワー企画
http://www.flowerkikaku.jp/
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