烏山プレーパーク、豊島区立中高生センター ジャンプ長崎、神奈川県立田奈高校 ぴっかりカフェ
地域の若者を支援する「居場所」づくり
掲載日:2018年1月23日
2016年3月 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 東社協では、平成27年度に「居場所の活用に向けた若年層のニーズに関する調査」を実施しました。子どもや若者が安心してすごせる居場所の活用について、支援を行っている団体にヒアリング調査を行い、身近な地域における若者への支援のあり方を検討しています。今号では、調査を通じて見えてきた若者のニーズと、地域による若者一人ひとりに寄り添った支援のあり方について考えます。

 

近年、地域の子ども、若者が安心してすごせるような「居場所」づくりをしようという取組みが広がっています。食事の提供や学習支援、自由にすごす場所等を設けて、家庭や学校だけでは満たせない、子どもたちのニーズに対応しています。

 

特に、家庭の事情や経済的な困窮等で課題を抱えた子どもたちは、物質的な資源の不足以外に、人的、社会的な資源の不足に直面します。信頼できる大人に出会い、安心してすごせる「居場所」は、子どもたちの生きづらさに寄り添う支援のあり方として、注目が集まっています。

 

自然な支援の入り口として、公園を活用する― 烏山プレーパーク

NPO法人プレーパークせたがやが運営する烏山プレーパークでは、毎週金曜日の18時から「中高生のための夕食会」を行っています。思春期の子どもたちとプレーワーカーや地域の住民ボランティアからなる世話人が、調理、後片づけなどを一緒に行い、ゆっくり食事をしながら語ったり遊んだりできるひと時を過ごしています。

 

今、思春期の子どもたちが安心して自分の気持ちを話せたり、やってみたいことに挑戦できる場は少なくなってきています。そこでプレーパークでは、遊びを中心にさまざまな活動を通して子どもたちが自分を表現できる場をつくっています。

 

日が暮れる頃、もぐら公園内にあるかまどの周りに子どもたちが集まります。夕食の完成を待つ間、焚火の火で体を温めながら、子どもたちが今日あったことをプレーワーカーにうれしそうに話していました。主な利用者は小さいころから烏山プレーパークで遊び育った子どもたちです。みんな誰かと話したり、食後に広い公園で思いきり遊ぶことが大好きです。

 

烏山プレーパークプレーワーカーの小川芽さんは「プレーワーカーは、どんな時も子どもの味方で、子どもの側に立てる大人」と話します。子どもたちにとってプレーワーカーのように自分の存在や気持ちを受け止めてくれる人がいることや、自由な遊びができるプレーパークは、安心して自分を表現できる場所です。プレーパークは子どもたちの大事な遊び場であるのと同時に、最も自然な支援の入り口として地域に根づいています。

 

 

 

多くの選択肢がある環境を整え、自立を支援する― 豊島区立中高生センター ジャンプ長崎

ジャンプ長崎が大切にしているのは、「子どもたちにたくさんの選択肢を用意すること」です。中高生の自主的な活動を支援する居場所として、豊島区が平成24年から運営しています。施設には学習室、クッキングスタジオ、トレーニングコーナー、音楽スタジオ等、中高生世代の子どものやりたいことがかなうような設備が整っています。

 

すべての子どもたちが楽しくすごせるよう、職員は設備や支援者の充実、居心地のよい環境づくりにつとめており、それがネグレクトや虐待、不登校等の課題を抱えた子どもでも来所しやすい雰囲気につながっています。職員以外に、弁護士やプロの音楽家、塾の講師等がボランティアとして子どもたちに関わっています。学習支援や音楽指導等、直接的な支援を行うとともに、「尊敬できる大人」のモデルにもなっています。プロの音楽家による指導がきっかけで音楽家をめざす子どももおり、子どもたちの将来の可能性を広げる関わりが生まれています。

 

所長を務める村山正浩さんは、「虐待や貧困等の課題を抱えていると、子どもたちは自分で何かを選ぶことが困難な状況に置かれてしまう。ジャンプ長崎が、学習、調理、音楽、

運動等、さまざまな選択肢を用意しているのは、そんな子どもたちに自分で選ぶ経験をしてもらうため」と話します。季節のイベント等を、職員の方から提案することはほとんどありません。子どもたち自身が「やりたい」と声をあげること、自分たちで企画して運営することを重視しています。ジャンプ長崎を利用できるのは18歳までです。その後は、自分の居場所は自分でつくらなければなりません。将来、自分のことは自分で決めることができるように、職員は適度な距離をもちつつ、子どもたちに寄り添っています。

 

 

高校の図書館でNPOがカフェを開く― 神奈川県立田奈高校 ぴっかりカフェ

「ミルクティーくださーい!」

神奈川県立田奈高校の図書館では、週1回、昼休みと放課後に無料で飲み物とお菓子が提供される「ぴっかりカフェ」が開店します。多い日には100名以上の生徒が来店し、飲み物とお菓子を手におしゃべりを楽しんだり、本を読んだり、ギターを弾いたり、思い思いに時間を過ごしています。

 

田奈高校には、家庭に課題を抱えていたり、生活保護を受けていたり、引きこもりの経験がある等、困難を抱えた生徒が少なくありません。ぴっかりカフェは、誰もが出入りできる自由な空間で、家庭や進路に関する相談に乗ったり、生徒の様子に気になるところがあれば担任と連絡を取る等、包括的な支援の窓口として、平成26年からNPO法人パノラマによって運営されています。

 

生徒の中には、就職先が未決定のまま卒業したり、就職してもすぐ退職してしまう等、安定した生活の基盤を得られず、貧困の連鎖に陥ってしまう子どももいます。パノラマでは、生徒と企業のマッチングを行い、在学中のアルバイトからはじめ、卒業後に正規雇用をめざす「バイターン」等、就職の支援も実施しています。卒業前のリスクの低い状態にはたらきかけることで、卒業後に困窮するのを防止しようという取組みです。

 

パノラマの代表理事 石井正宏さんは、「最初は相談室で生徒の来室を待つような関わり方をしていたが、本当に支援が必要な生徒は相談室には来ない。ぴっかりカフェでは、自然な会話から話しやすい雰囲気が生まれ、雑談の延長として家庭の問題、就職先等の相談ができる。私たち支援者やボランティアは、親でも教師でもない『第三の大人』として、生徒にかかわり、その世界を広げてあげることができる」と話します。図書館の司書で、支援者の一人でもある松田ユリ子さんは、「生徒の中には、今まで家庭や学校で大人から大切にされた経験がない子どももいる。ぴっかりカフェに来てくれるボランティアや教師、私たち支援者との関わり、飲み物やお菓子の寄附等を通じて、自分たちのことを考えてくれる大人がたくさんいることを、生徒たちに感じてほしい。信頼できる大人との出会いが、支援につながる第一歩だと考えている」と話します。

 

平成27年4月から生活困窮者自立支援法が施行され、さまざまな支援機関・団体が低所得世帯の若者への支援を実施しています。東社協では、平成25~27年度にかけて取組んできた第3期3か年計画の「低所得世帯の若年層の自立支援プロジェクト」において、若者の自立に向けた福祉分野と教育分野の連携、住民も含めた地域における支援体制のあり方について検討してきました。

 

困難を抱えた若者が本人の努力だけで課題を解決することは難しく、さまざまな機関や制度の活用が必要となります。その土台となるのは、周囲の大人や社会への信頼感です。単に若者が集まれる場所を作って、食事の提供、学習指導等を行えば「居場所」が成り立つわけではありません。若者たちの日常にとけこめるような、過ごしやすい雰囲気づくり、適切な距離を置いた支援者の関わり方等、ていねいな対応が求められています。また、居場所ですべての課題を解決することはできません。居場所につながる人、機関、地域の理解と協力があってはじめて、若者の支援の場として機能するのです。

 

 

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若者一人ひとりの成長の過程に寄り添い、その日常の中で行われる自然なかたちの支援が、地域に求められています。

取材先
名称
烏山プレーパーク、豊島区立中高生センター ジャンプ長崎、神奈川県立田奈高校 ぴっかりカフェ
概要
NPO法人プレーパークせたがや「烏山プレーパーク」
http://playpark.jp/

豊島区立中高生センター ジャンプ長崎
https://www.city.toshima.lg.jp/257/kosodate/kosodate/hokago/jump/025456.html

神奈川県立田奈高校 ぴっかりカフェ
https://www.pen-kanagawa.ed.jp/tana-h/career/cafe.html
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