(社福)東京都社会福祉協議会「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」
知的障害のある方への家族等からの暴力・虐待と不適切なかかわり
掲載日:2018年1月23日
2016年5月 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 東社協「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」では、平成28年1月に東社協知的発達障害部会の協力を得て、会員施設・事業所に「知的発達障害児者への暴力・虐待を地域で未然に防ぐための調査」を実施しました。このたび、調査結果の速報版がまとまりましたので、今号では専門職と地域住民が協働して何ができるのかを考えます。なお、紹介する事例は全て加工しています。

 

「気づく」ためには…

事例1 虐待を受けている認識がなかった「さらさん」

中度の知的障害をもつ40代のさらさん(仮名)は、両親が亡くなってから姉夫婦と3人暮らし。さらさんが何かに失敗すると、姉の夫から殴られたり蹴られたり、罰を受けるということが日常的に行われていた。それに対してさらさんは「怒られても仕方がない…」と思っていた。その後、グループホームへの入居が決まり、グループホームに入ってからさらさんの話をスタッフが聞き、初めてそういった虐待があったことがわかった。そのことを改めて尋ねると「つらかった」と感じていた。さらさんは、今でも不安になることが多く、グループホームでは、「大丈夫ですよ」と安心して過ごせるようにさらさんに関わっている。

 

調査では、45・7%のケースで本人に「暴力・虐待を受けた」という認識がありませんでした。一方で、さらさんのように「嫌な気持ちになった」という気持ちは、話を聴くことで表出されてきていました。そして、151のケースが顕在化したきっかけは、「福祉サービスを利用する際に関係者が気づいた」(36・4%)、「関係者から連絡があった」(33・1%)となっています(図1)。たとえ明確な訴えがなくても関係者がそのことに気づくことが重要になっています。

 

例えば、言葉の出ない重度の方でも「入所してきた方の目の前でさりげなく手を挙げてみると、それをよける反応をする方がいる」ということが指摘されています。言葉に出なくても、「嫌だ」という気持ちは当然に持っているということをふまえ、その気持ちを形にできるかが専門職に問われているといえます。他にも、本人の年金をあたり前のように家族が生活費に充てていた経済的な虐待、また、実の父親から性的虐待を受けていたことを本人は『父親からの愛情』と思う一方で、自己肯定感が低くなり、抑うつ傾向がみられたケースもありました。

 

家族への積極的な支援が必要なケース

事例2 かかわり方がわからず「あゆみさん」を叩いてしまう

重度の知的障害のある30代のあゆみさん(仮名)は作業所に通っている。ある日、母親から「あゆみを叩いてしまう…」という相談が作業所スタッフにあった。あゆみさんは思い通りにならないときに自分の体を叩いたり、物を壊してしまう。母親は、あゆみさんへの愛情もあり障害も理解しているつもりなのに、「どうすればよいかわからなくなると、叩いてしまう」と悩んでいた。

 

調査では、「早急に専門機関による介入が必要なケース」が40・4%、「早急な介入は必要ないが、家族への積極的な支援が必要なケース」が21・2%、「継続的な見守りやかかわりが必要なケース」が34・4%でした(図2)。つまり、「専門機関が緊急に介入すべきケース」と「家族への支援が改めて必要なケース」が半々でした。

さらに、151ケースのうち、利用者本人の64・9%、利用者世帯の47・0%が「地域から孤立していた」となっています(図3)。障害のある子の子育てを孤立させることなく、正しいかかわり方への理解を広げることが求められています。

 

他にも「発達障害は治るもの」と信じ、「なんとか治してやりたい」と強く叩いてしまうというケースもありました。このケースでも、本人の問題行動を引け目に感じ、家族は相談できる知り合いができなかったという背景がありました。

 

 

 

地域住民に何ができるだろうか

事例3 「えみさん」の行動上の障害で近隣との関係に悩む

集合住宅で暮らす20代のえみさん(仮名)には軽度の知的障害がある。通所サービスの利用中にえみさんがトラブルを起こし、母親は「迷惑をおかけしてすみません」と謝り、えみさんを強く叱りながら連れて帰った。日常的にも、えみさんが大声を出したことで集合住宅の他の住民から苦情があり、近隣に迷惑をかけないよう強い口調で叱ったり、きつく制止していた。

 

151ケースのうち、65・6%に「行動上の障害」がみられました。そして、66・9%の施設・事業所が暴力・虐待、不適切なかかわりを未然に防ぐには「地域住民の障害の理解をもっと深める必要がある」と回答しています。具体的には、「障害のある人の暮らしをもっと地域で知ってもらいたい」「あいさつでもよいので、孤立させない」「家族の表情がいつもと違ったら、声をかけてみる」「『迷惑はおたがいさま』となれる関係づくり」などが挙げられていました。

 

この「おたがいさま」ということはどう理解すればよいのでしょうか。例えば、知的障害のある方が狭いエレベーターに乗って緊張しているところに、人がさらに乗ってきたことで緊張が高まり、思わず大声を出し、それをきつく叱る家族。「迷惑をかけてはいけない」という気持ちをつくってしまっているのは私たちの側かもしれません。それを少しでも和らげるために、地域でできることを改めて考えていくことが必要となってきます。

 

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3か年にわたる「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」の委員長を務めてきた石渡和実さん(東洋英和女学院大学大学院教授)は、「この検討を通して、改めて『地域づくり』の重要性を再認識させられた。そして、『地域にはこんなにも力がある。大きな可能性がある』ということも実感した。地域での学習会を重ねて、民生児童委員や施設の方々など関係者はもちろんのこと、PTA活動などから市民のパワーや気づきの鋭さに大きな期待を抱いた。この『地域の芽』を育て、見守りや支え合いが確実に行える地域を築くために、住民が力を合わせて歩みをすすめなくては、と改めて考えている」と話します。

 

はじめの一歩は、貴重な151ケースからみえてくることを伝えていくことかもしれません。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」
概要
(社福)東京都社会福祉協議会「暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会」
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/3kanen/H25-27/1-1.html
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