(社福)東京都社会福祉協議会
生活困窮者自立支援法における地域ネットワークの活用 ―都内区市アンケート結果から―
掲載日:2018年1月25日
2017年4月号 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 生活困窮者自立支援法が平成27年4月に施行されてから2年が経過しました。今号では、都内の実施状況と支援対象者の実像をふまえ、「支援の入口」、「支援の出口」、「地域づくり」を充実させるため、社会福祉法人、社協、民生児童委員、ボランティア等の地域のネットワークに何ができるかを考えます。

 

実施状況と支援対象者の特徴

(1)学習支援は9割の区市で実施

まず各事業の実施状況とその体制について、必須事業の「自立相談支援事業」は、56・3%が委託による実施で、社協は13区市社協が受託しています。3つの任意事業は、施行後、区部を中心に実施が増加し、施行から3年目の29年度には、「就労準備支援」は62・5%、「家計相談支援事業」は64・5%、「学習支援事業」は93・8%の区市が実施するという回答でした。

 

(2)多くの相談者が課題を複数抱えている

自立相談支援窓口に来所する新規相談者の特徴について尋ねたところ、(1)どちらかというと手持ち金がほとんどなく、当面の生活に困っている、(2)障害や疾病はある人もない人もいる、(3)社会的に孤立している人が多い、(4)どちらかというとひとり暮らしの人が多い、(5)当該の区市の住民がほとんどだが、都心部は他区市町村の人が多い、(6)若年層より中高年層が多い、(7)複数の課題を抱えている人が多いという傾向がみられました(図)。その具体的なイメージとしては、「手持ちの資金を使い果たしてしまってから、初めて相談に訪れる」、「失業と同時に生活困窮となったが、生活レベルを落とすことが難しい」、「メンタルな課題を抱えており、就職につまずきやすい」、「経済面に限らず、状況を改善するための手続きが自力では困難」、「親が高齢で子どもがひきこもり。親の退職等を契機に生活が困窮」等があげられ、大きく「失業等による経済状況の変化に伴う生活困窮者」と「長期間社会的に孤立し、就職等が困難」の双方がみられました。また、手持ち金がなくなって初めて相談に訪れ、窓口に来所した時点で既に課題が複合化しているケースが少なくありません。

 

 

対象者の発見と課題解決

(1)早期発見につながるアウトリーチが困難

相談者が相談に至る経路は、ほとんどの区市で「直接窓口に来所」で、次いで「福祉事務所(生活保護所管)から」、「庁内の関係部署から」となっており、公的な窓口からの相談が多数を占めています。一方、「民生児童委員から」、「生活福祉資金の相談窓口から」、「ハローワークから」は現状では少ないという回答でした。前述の「中高年層が多い」と合わせて考えると、現時点で窓口につながっている層は生活困窮が深刻化してからつながっており、ひきこもり等の層の掘り起こしは、今後の課題だと考えられます。

 

対象者の早期発見のためのアウトリーチでは、「近隣住民等からの相談による対象家庭への訪問」(26・5%)、「出張相談会の開催」(20・4%)等が比較的多く、「社協の地域福祉コーディネーターが住民から相談を受けてつながった」、「地域包括支援センターが高齢者の世帯を訪問した際、自宅にひきこもりの子息がいると分かり、その後、同行訪問した」等の事例もありました。

 

(2)身近な一般就労先のニーズが高い一方、中間就労の場の不足も深刻

支援の出口について尋ねた設問では、支援をすすめる上で、「身近な一般就労先」がほぼすべての区市で「ニーズが多い」との回答でした。

一方、支援をすすめる上での地域の社会資源の充足状況としては、すべての選択肢について6割以上の区市で不足しており、特に「中間就労の場」は9割の区市で不足しています。さらに、緊急・一時的な支援制度の必要性が挙げられる一方、「生活全般を支えてくれる小規模な職場」等の社会とのかかわりが持てる場が必要であるとの意見が寄せられています。

 

これらの結果から見えてくる支援の課題としては、来所した時点で支援が困難な状態に陥っており、使える制度や紹介できる機関が限られてしまうことが考えられます。また、複合的な課題があるためアセスメントが難しかったり、支援対象者本人の意欲に課題があるなど、支援のステージをつくるための社会資源が不足していることも、出口までの壁となっています。

 

(3)制度内外の支援を活用

他制度を活用した支援では、「生活福祉資金貸付事業」との連携が最も多く、地域包括支援センターや介護保険、障害福祉サービスの利用、ハローワーク、障害者就労支援機関の活用もみられました。「社会福祉法人による一時的な居室や中間的な就労の場」も回答に挙がっています。

 

一方、インフォーマルな支援の活用では、支援の入口では少なかった「民生児童委員活動と連携した支援」について、支援の開始後では4割の区市が挙げています。また、住民による直接的な支援と結びつけることが難しい中、「区市町村社協の地域福祉活動」、「ボランティアセンター」との連携が3割弱の区市でみられます。

 

 

地域ネットワークの強化と社会資源の開発

(1)地域の関係機関や住民の協力に期待

東京における生活困窮者支援につながる「地域づくり」をすすめる上で、次の4つの課題を6〜7割の区市が挙げています。

 

(1)地域からそれぞれの家庭の状況が見えづらい
(2)既存の地縁組織(町会・自治会等)とつながらない層が増えている
(3)生活困窮に至るプロセスや実情が地域住民に「我が事」と理解されにくい
(4)生きづらさを抱える人が社会参加できる場が地域に少ない

 

また、関係機関や地域に期待することは、次のようになっています。

 

(1)区市町村社協:生活福祉資金貸付事業との連携、現物給付のしくみへの協力、地域福祉コーディネーターや社協活動を通じた支援の出口となる地域の資源開発へのつなぎ
(2)社会福祉法人・福祉施設、事業所:身近な中間的な就労、社会参加の場の提供と、施設の専門性を活かした生活スキルの獲得への支援や情報提供の強化
(3)民生児童委員:対象者の発見とつなぎ役、支援開始後の見守りと相談相手や同行支援
(4)NPO等の市民活動:「子どもやひきこもりの人のための居場所づくり」「就労支援」「食糧支援」等、それぞれの地域で不足している具体的な支援への協力
(5)企業や商店等:就労や就労体験への協力

 

また、広域の都道府県社協である東社協に対しては、(1)生活福祉資金貸付事業の実施主体としての生活困窮者自立支援制度との連携、(2)地域づくりをすすめるためのロールモデルの提起、(3)社会福祉法人に期待される役割の発揮のための推進を期待するとの回答を得ました。

 

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国の「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が平成29年2月にまとめた「当面の改革工程」にも生活困窮者自立支援法の施行後3年を目途にした見直しが視野に入っており、2月7日には社会福祉法の改正を含む「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されています。

 

今回の調査結果からは、来所時点で相談者が支援が困難な状況に陥っていることや、自立につながる地域の社会資源の不足等が明らかになりました。今後の施策動向や、大都市東京の特性をふまえつつ、行政機関だけではなく、社会福祉法人、区市町村社協、民生児童委員、ボランティア等を含む、地域のネットワークによる包括的な支援が強く求められています。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp

「生活困窮者自立支援法における地域ネットワークの活用に関する区市アンケート」
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/documents/170602seikatsukonkyuu.pdf
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