(社福)ゆりかご会、(社福)東京都社会福祉協議会
他分野での経験も活かされる福祉職場づくり
掲載日:2018年1月29日
2017年7月号 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 福祉を専門的に学んだことのない方が福祉職場に就業する機会が増えています。 本会が28年度に実施した調査(※)においては、7割の施設で応募者数が減っている中、施設長からの回答で「他の業界からの転職が増えている」は26.6%、「福祉以外の学校からの新卒者の応募が増えている」は8.7%でした。また、福祉の仕事に対する「具体的なイメージがない人が増えている」(22.5%)ことも指摘されています。今号では、新たに福祉に関心をもち専門職をめざした職員の背景と、多様な人材が成長し活躍していける福祉職場づくりについて考えます。
  • (※)質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査

 

「聞き馴染みのない専門用語や略語が分からない」「知識不足により利用者の生活状況の把握が遅れる」「何が分からないかが分からず、何を聞けばいいかが分からない」・・・。これまでに福祉を専門的に学んだことのない職員が業務を行っていく上で、困ることとしてこのような声があります。また、「ある程度は分かっているだろうと思われるが、学んでないので分からない」「福祉といっても、どのような知識を学んでいけばいいのか分からない」「上司が自分に求める成長が自分には見えない」など、これから身につけていくべき知識や成長のイメージが分からないという声もあります。

 

多くの福祉事業所では福祉系以外の専攻で学んできた新卒者や、他分野からの転職者も積極的に採用しています。東京都福祉人材センター研修室では、平成29年度より独自の取組みとして「はじめて社会福祉を学ぶ福祉職員のためのスタートアップ研修」(3日間)を新たに開始しました。東京都内の社会福祉施設・事業所(都外施設を含む)の職員で、これまでに社会福祉の基礎を学んだことのない方を対象にした研修です。6月に開催された第一回目の研修では、高齢者施設や障害者施設、保育所、社協などさまざまな福祉分野の事業所で働く職員が、3日間の講義やグループディスカッションを通して学びを深めました。

 

研修受講者からは、事例検討を通して「一つの事例に対してさまざまな意見や考えが出てきて興味深かった」「話し合うことで見方が変わったり共感してもらったり良い刺激があった」「皆で話し合って解決していく事がためになった」という感想や、援助技術について「立ち位置や角度によって相手に与える印象が変わる」「人によって心地よい距離感が違うことに気づいた」「ノーマライゼーションの捉え方が勉強になった」「悪いことをよいことに言い替えるワークがためになった」などの感想がありました。そして、グループワークなどを通じて「さまざまな職種の方が、共通して〝ありがとう〟や〝笑顔〟をもらえることにやりがいを感じていた」という福祉職場の魅力が共有できた点などが印象的なこととして挙げられていました。

 

「はじめて社会福祉を学ぶ福祉職員のためのスタートアップ研修」(29年度新規)

 一日目:現代社会における社会福祉の位置と役割

 二日目:社会福祉の援助技術

 三日目:社会福祉の歴史と理念・思想

 

これまでの専攻分野に関わらず、自分らしく活躍できる

平成28年度に本会が実施した調査では、初任者が現在の仕事を選んだ具体的な経緯と、最終学歴における専攻分野について尋ねました。そこでは、福祉(社会学系)や家政、医療・看護・薬学、心理などの専攻以外にも、「教育」「文・人文・外国語」「経済・経営」「法学」「理工」「美術・デザイン」「農学」など幅広い分野で学んできた職員が、初任者として勤務している実態がありました。

 

中学生での職場体験や、これまでのボランティア体験、身近に福祉に関わる方がいた経験などが関心を持つきっかけになった方が多くいます。一方で、前職での経験を通して関心をもったという回答もありました。具体的には、「集合住宅のユニットバスリフォームで地域のケアマネやデイサービスの職員と話す事があり、介護の世界に入ってみようと思った(30代・高齢者在宅SC)」「美容師として働いている時、障がい者や高齢者など、たくさんのお客さまと接する中で、福祉の仕事をして社会に貢献したいと感じた(40代・障害)」「前職で飲食店勤務の経験があり、お客様の高齢化が進んだ時に高齢者に対する関心を持った(30代・特養)」などです。

 

また、「業務の簡素化、システム化により技能や知識、経験があまり必要とされなくなり、仕事のやりがいが薄れた時、人でないと出来ない福祉の職場で自分の持っている技能等を生かせ、長年やりがいを持ち続けられると考えた(40代・障害)」「一般企業で働いていた時は自分のために働いているという意識が強かったが、この仕事は他人のために働け、結果として社会貢献できていると思える(30代・障害)」「この先どのような仕事が長く続けても必要とされるかを考えた時に、福祉職のニーズの高さが気になった(20代・特養)」「前職では将来に不安があり、『資格が欲しい』『人と接する仕事がしてみたい』『将来性がある』等のことで、前職を退職する時に福祉の仕事が自分のニーズに合っていた(20代・特養)」など、前職では得られなかった「やりがい」や「人とのかかわり」、「ニーズの高い仕事」に魅かれて仕事を選んだという回答もありました。

 

採用前に福祉を専門的に学んだことがない職員の育成について、施設長向けに尋ねた設問では、費用負担や勤務調整を行いながら、研修や資格取得などを支援している状況がありました。また職場においては、OJTをはじめとする育成プログラムを取り入れていたり、研修内容や項目を個別に設定したり、採用後の教育期間を長めに設定する等の対応も行われていました。

 

組織の一員として成長を見届ける

昭島市にある(社福)ゆりかご会特別養護老人ホーム「もくせいの苑」では、介護職員は3日間の個別の研修を経てから現場に配属されます。「これまでに何を経験してきたかは面接でもじっくり聞く」と施設長の和泉克郎さんは話します。そして、「『組織』を知っているかは大きい要素。福祉の業界は養成の過程で組織について学ぶ機会がないが、異業種からの転職者などは、福祉の専門的な知識はなくても、組織を知っていることが多い。『木を見て森を見ず』という状態にならないように民間と福祉業界での組織の違いや、法人・施設がめざしているもの、施設の事業計画および活動目標を丁寧に伝える。担っていただく業務についても、組織の中の一員として役割を認識してもらう。そのことが、今後働いて行く上でも職員自身の立ち位置や、考え方の依り拠になると考えている」と言います。

 

「組織」を意識する方針は、他の職員に対しても同様です。もくせいの苑では、「中・長期計画」と「事業計画」以外に「マネジメントレビュー」を作成しています。施設内には「品質管理」「危機管理」「業務管理」の3つの側面から13の委員会を設置していますが、その中の一つで、施設長を委員長とし、主任職など10名の職員で構成される「マネジメントレビュー委員会」が取りまとめをしています。各フロアや職種ごとの担当業務のレビューや、当年度の施設利用者の入退所の状況、職員の研修受講状況、各委員会の取組みなど組織全体の課題や今後の目標を、年2回の職員全体会議(3月・9月)で報告します。「施設全体の状況についてわからない人には説明し、わかるようになってもらわないといけない」と和泉さんは言います。

 

また、介護業務など基本的な技術について、「これまでは年2回の自己チェックの実施で終わっていたが、29年度よりできていない部分をどうしたらできるようにしていけるのかを上司と話し計画的に成長していく体制に変更した」と説明します。和泉さんは、さまざまな背景をもった職員がキャリアビジョンを持って成長していくためには「施設の理念と目標を共有したり研修体系の策定も必要だが、個別の育成計画の視点も必要」と言います。そして、「施設の中だけでは足りない部分もあるが、その人の成長のためならどんな方法でもいい。大切なのは、誰がその成長を見届けるのかということ。成長しているのか、何が足りないのか、それがあって初めて一人ひとりの個別育成計画が活かされる」と言います。

 

さらに、昭島市では、市内5施設の特養が横の連携も図っています。施設長会から派生し、介護職員や生活相談員の研修など同職種間の交流研修も行っています。和泉さんは、「次世代リーダーの育成のために、主任クラスの勉強会も開催している。経営力、統率力、指導力、部下育成力、そして人間性。市内の横のつながりも活かし職員を大切にしながら、少数精鋭で頑張っていきたい」と話します。

 

(社福)ゆりかご会 特別養護老人ホームもくせいの苑 施設長 和泉克郎さん

 

これまでの経験で培ってきた得意分野で自信を持ち、新たな専門性を身につけていける。多職種が活躍する福祉職場だからこそ、多様な人材が活躍していける職場づくりが期待されます。

取材先
名称
(社福)ゆりかご会、(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)ゆりかご会 特別養護老人ホーム「もくせいの苑」
http://www.mokuseinosono.jp/
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