専門職6団体による相談支援専門職チーム
効果的にニーズを掘り起こし、支援につなぐ専門職の連携
掲載日:2017年11月23日
ブックレット番号:2 事例番号:26
福島県郡山市/平成25年3月現在

 

福島県では、県内で最も大きな避難所となったビッグパレットふくしまの被災者を各団体がバラバラに支援するのではなく、福島県介護支援専門員協会が中心となって被災者のニーズ調査に乗り出し、県内の専門職や支援団体につなぐ取組みをすすめました。それをきっかけに、東日本大震災から2か月後の5月19 日に県の委託事業として「福島県仮説住宅等被災高齢者等生活支援のための相談支援専門職チーム派遣事業」が動き出しました。県内の専門職6団体(①福島県介護支援専門員協会、②福島県社会福祉士会、③福島県医療ソーシャルワーカー協会、④福島県精神保健福祉士会、⑤福島県理学療法士会、⑥福島県作業療法士会)で構成されるチームは、県内の6方部(県北、県中、県南、会津・南会津、相双の一部、いわき)のそれぞれで専門性を活かした被災者の継続的な支援に取組んでいます。窓口は福島県介護支援専門員協会が担っています。

 

「ビッグパレットふくしま」での支援をきっかけに

 

震災の翌月の4月になって、郡山市のビッグパレットふくしまに認知症の要援護者も含めて何千人という被災者が集まっているということが報道されました。既にビッグパレットの中では理学療法士会が動いていました。役場の職員や社協の職員も頑張っており他県からの災害派遣チームも入っていましたが、各団体がバラバラに動いているために効果的な支援に結びついていないことが課題となっていました。

福島県介護支援専門員協会会長の千葉喜弘さんが実際に見に行ってみると、支援に入ってきたチームの誰かが「3階の階段のところに支援が必要なおじいちゃんがいますから、何とかしてあげてください」と申し送りをしていました。支援に入るチームはそれぞれに午前、午後と入って、そういう申し送りをするだけで帰ってしまい、実際の支援に結びついていない状況も見られました。

千葉さんはそういう実態を知り、まずはビッグパレット内のどこにどういう人がいるか、支援が必要な人はどこにいるかというマップづくりをしようと考えました。そこで、社会福祉士会、介護支援専門員協会、医療ソーシャルワーカー協会の代表が4月4日に集まって話し合いを行いました。

そこで出てきた意見が、「各団体がそれぞれに動くのは効率が悪いからやめる」ということと、「避難所でどういうニーズがあるかを把握してから優先順位をつけ、うまくいくルールができたら他の避難所にも使っていく」ということでした。それを受けて、「相談支援専門職チーム」(以下、チーム)という名前をつけて動きだすことになりました。

チームに入る人同士の情報共有は、メーリングリストにより行いました。このメーリングリストに登録しておくとすべての報告書が読めるので、「ここではこんな支援をやっているから、うちもまねしてやってみよう」などお互いに学び合うことができます。当初は各団体がそれぞれ10 万円ずつの活動資金を出し合ってスタートし、活動する会員も全員がボランティアで活動を始めました。

千葉さんは避難所における支援のあり方について相馬市での取組みを例に説明します。「避難所は元気な人が真っ先に来て、よい場所から確保していくので、高齢者や介護の必要な人などが後から来ると、トイレの近くや寒い場所しか空いていないことが多くなる。

例えば、相馬市の福祉センターに設置された避難所は相馬市社協さんが運営していたこともあって、震災直後から入ってくる人全員を個別にチェックして、近所から避難してきた人同士が近くに入れるよう配慮をしていた。しかも、避難者も協力的で、おむつ交換は避難者同士で対応し、社協職員はおむつ交換を支援しなくても済むこともあった。一方で、ビッグパレットでは、目の前で高校生ボランティアがトイレ掃除をしていても誰も手伝わないし、具合が悪そうな人がいても誰も声をかけない状況になっていた。こうした状況からソーシャルワーク機能を持っている人がコーディネーターをしなければならないと感じた」と話します。

専門職チームの腕章をつけた会員が2人か3人ずつ組んで、施設内を回りました。腕章を見せたりしながら、「こういうことで回っているのですが、お体の調子はどうですか」と声をかけると「大丈夫だから。何も心配ない。もうすぐ帰るんだから」などと言われることもありました。そこで、「もうすぐ帰る」と言うのは何かおかしいと気づくことができます。家族もいないようで少し様子を見ていたら、周りにいた人から「夜中に起きだして変なんです」という話が出てきました。さらに詳細な面接をしてみると、明らかに認知症が疑わるケースがありました。立ち話とか、支援物資の配給を手伝いながら、列に並んでいる人に「大変ですね。どこから来ましたか」などと声をかけながらニーズを探っていきました。

他県から支援に入る専門職は、地域の事情を知らないため、避難者が抱えている問題を解決するまでの支援は困難が伴います。そのため、他県からの応援による支援チームの中には、地域事情を知っている人間を必ずリーダーを入れる必要がある、と千葉さんは話します。

 

ボランティアから委託事業へ

 

5月になると、厚生労働省から介護支援専門員や福祉専門職が集まって相談支援をする場合、「地域支え合い体制づくり事業」の補助金を使えることとなり、県から補助金の使用について提案がありました。そのため、5月19 日からは、福島県の6団体(介護支援専門員協会、社会福祉士会、医療ソーシャルワーカー協会、精神保健福祉士会、理学療法士会、作業療法士会)が参加した「福島県仮設住宅等被災高齢者等生活支援のための相談支援専門職チーム派遣事業」として活動を展開することになりました。

5月末には、この専門職チーム派遣事業を始めるにあたり、6団体を集めた説明会が郡山で開かれました。なぜこの6団体が結集できたかというと、介護支援専門員現任者研修の講師として理学療法士等とつながりがあったこと、千葉さんが前医療ソーシャルワーカー協会会長や社会福祉士会の理事をしていたこと、また、医療ソーシャルワーカー協会の会員に精神保健福祉士会の会員もいたりと、専門職が互いの団体の会員等として重複していたことが挙げられます。さらに、普段から研修のために講師を互いに依頼する関係もあり、被災前から専門職団体同士で話が通りやすい関係があったためです。

6団体の会員は全員で4,000名を超えており、福島県を6つの地域(県北、県中、会津、県南、相双、いわき)に分け、各地域に団体の窓口をつくりました。年に何回かの全体会議のほかに、それぞれの地域で解決できることはどんどん解決していこうと動きだしました。

県の委託事業になってから、新しいルールができました。一つは「BPF(ビッグパレットふくしま)方式」と名づけたもので、相談支援専門職チームが「要介護認定を受けた方がよい」と判断したら、ご本人の同意を得て申請をチームが代行してつないだり、その場で仮認定調査を実施します。その調査用紙は市町村にではなく福島県介護保険室にファックスで送って、県から仮一次判定結果が返ってきます。まだ、医療機関も認定審査会も動いていなくて基礎データは何もない状態なので、その仮一次判定結果を認定とみなして暫定プランを作成し、サービスの利用が始まるというしくみです。実際に千葉さんが関わった事例では、午前中に支援する必要がある人を見つけて、県の介護保険室からは午後1時半頃に仮一次判定結果が返ってきて、午後3時には地域の介護支援専門員を呼び出して「明日からデイサービスを頼むね」と依頼し、その日のうちに手配できた例もありました。そういう形でサービスの利用に結びついた人は数百名います。専門職チームはそれぞれの専門性を活かしながら、ニーズの掘り起こしから次のステップへのつなぎを担いました。

支援チームは「支えてくれる人を支える」をテーマにして活動していました。支えてくれる人というのは役場や社協の職員です。ビッグパレットで泊まり込んで被災者の支援にあたっていた役場の保健師や社協職員が自分たちの食事も後回しにして活動しているのを見て、そういう人たちを支えなければと考えたわけです。

相談支援専門職チームの登録者数は平成23 年5月から25 年2月現在で592人になっています。コアメンバー、社協の職員、市町村職員が集まって調整会議を県内各地で147回開きました。実際の支援ではリハビリチームの健康教室から生活相談まで623回、支援者3,500人、対象者9,000人を超える活動が今も続いています。

仮設住宅・借り上げ住宅も含めて地元の支援者が1軒ずつ廻ってお声かけをする。それが支援ニーズの掘り起こしにつながった例もありました。そういうことを普段からやっておくと、いざというときの支援体制づくりにつながります。

 

福島県介護支援専門員協会

会長 千葉喜弘さん

 

 

取材先
名称
専門職6団体による相談支援専門職チーム
概要
(一財)福島県介護支援専門員協会
http://www.fcma.jp/
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