NPO法人「BONDプロジェクト」代表 橘ジュンさん
どんなときでも関わり続ける
掲載日:2017年11月29日
2014年8月号 明日の福祉を切り拓く

 

あらまし

  • 橘ジュンさんは10代20代の生きづらさを抱える女性に支援を行うNPOの代表です。繁華街に出向いて若い女性たちに声をかけたり、電話や面談の相談をうけながら、居場所を失った女性たちの自立支援や様々な機関につなげて支援をする活動を行っています。

 

街角の若者への取材で見えてきたこと

私は2005年からフリーペーパー「VOICES MAGAZINE」を発行しています。発行当時は自費出版で、派手な格好で自己主張している、いわゆるアウトローな若者の生の声をありのまま社会へ伝えようと、新宿や渋谷センター街などで取材をしていました。

 

若者たちに声をかけると、最初は警戒されます。しかし、取材の趣旨を理解してもらえると、見た目のインパクトとは裏腹に彼ら彼女らの中にある表現できない苦しみや生きづらさ、自己肯定感の低さからくる「死にたい」という気持ちを徐々に話してくれるようになりました。特に、援助交際をする10代の女の子たちがなぜ街に彷徨っているかが気になり、声をかけて話を聞いていきました。そこで見えてきたことは、彼女たちは家族から虐待を受けた経験があるなど、家に戻れない事情があり、心身ともに居場所がない状況にあるということでした。

 

ある日、望まない妊娠をした女の子の話を聞き、友人の婦人相談員につなげて対応してもらうことにしました。しかし、相談の日に彼女はあらわれませんでした。その時、困っていても困っていると言えなく、傷ついている彼女たちの状況を目の当たりにしました。そこで彼女たちの目線にたち、支援できる大人につなげるサポートが必要だと痛感しました。

 

生きようと思う気持ちを支える

2009年12月に「特定非営利活動法人BONDプロジェクト」を設立しました。10代20代の生きづらさを抱える女の子のための女性による支援です。メールや電話、面談での相談事業を中心に、夜の繁華街パトロールや街頭アンケート、講演会の開催等、様々な形での支援を展開しています。

 

6月はメールが月1230件、電話が月600件。面談が21件で、45分の相談時間を設けています。それだけでは終わらず、事務所の緊急保護スペースに泊まる相談者もいます。全国各地から相談があります。地域の行政や民間の窓口につなげることもあります。

 

彼女たちが相談してきてくれることは、「生きたい」という気持ちがあるからだと思っています。せっかく相談にきても、約束した日に姿をあらわしてもらえないことも多いです。しかし、実はどこかで見ているかもしれないし、そういう時こそ私たちの方が試されていると感じます。だから、どんなときでも、相談にきた女の子と本音で関わり続けることがBONDプロジェクトの姿だと思っています。

 

「あなたの責任」ではなく

今年3月に性暴力被害について、渋谷の繁華街にいる女性、都内・神奈川県内の大学に通う女性、BONDとやりとりのある女性、計369人にアンケート調査を行いました。痴漢や無理やり身体を触られる、避妊に協力してもらえない等の性暴力被害を受けた人もいました。また、「死にたい」「消えたい」等、自殺念慮がある人もいました。インターネットを使った性暴力トラブルの増加や、若年世代の貧困も影響していることが分かりました。このよう状況のなか、追い詰められている若年世代に対し、社会の「あなた自身の責任でしょ」という見方が依然として強いと感じます。

 

一方で、BONDの活動を通して、長年女性の暴力や母子保護に携わってきた施設関係者や、行政、病院、弁護士や民間団体との連携も生まれています。今年5月から荒川区に新たな相談室を開所し、自殺予防の連絡会に参加して関係機関と連携しています。こうした活動を通して、頼れる大人たちがいることを若い世代に伝えていきたいです。

 

10代20代は希望がいっぱい

かつて街角で悩みを抱えていた女の子たちが現在、BONDで電話相談員をしています。彼女たちの活躍する姿は、私自身の活動の励みになります。10代、20代は様々な可能性があり、希望がいっぱいです。その希望をつぶさないためにも、BONDの活動を続けていきます。

 

そして、私自身が60、70歳になっても、彼女たちの背中を押してあげられる面白い人でいることを目指したいと思います。

 

プロフィール

  • 橘 ジュン(たちばな じゅん)さん
  • ライター。「VOICES MAGAZINE」編集長。NPO法人「BONDプロジェクト」代表。10代の終わりに知り合いの編集者にすすめられ、アウトロー的な生き方をする10代の少女たちの取材、ビデオ、レポーターやルポ執筆の活動を始める。結婚・出産を経て、フリーマガジンVOICES創刊。少女たちを中心に3,000人以上に声をかけ、聞いて、伝えつづけてきた。2009年NPO法人BONDプロジェクトを設立。渋谷を拠点に「聴く、伝える、繋げる」の活動をさらに広げている。『VOICES ~キミの声を伝える~』(グラフ社)『漂流少女 ~夜の街に居場所を求めて~』(太郎次郎社エディタス)。
取材先
名称
NPO法人「BONDプロジェクト」代表 橘ジュンさん
概要
NPO法人BONDプロジェクト
http://www.bondproject.jp/
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