コラボたま ワークセンターつくし,小茂根福祉園,アプローズ南青山
“おしゃれ!かわいい!おいしい!”を生み出す ~障害分野のものづくりのいま~
掲載日:2018年3月26日
2018年1月号 NOW

 

 

あらまし

  • 近年、障害者施設でおこなわれるものづくりは、これまでの「作業所等での“製品”」という枠を超え、おしゃれでかわいい「商品」や、「芸術作品」を生み出す場へ変わってきています。今号では、福祉の心を大切にしながらも、社会に“おしゃれでかわいい”と認知されはじめてきた障害分野のものづくりの視点と取組みをご紹介します。

 

 

支える側の意識を変える_東社協知的発達障害部会

 

(社福)正夢の会「コラボたまワークセンターつくし」施設長 大浦孝啓さん

 

東社協知的発達障害部会では、平成29年度に「文化・芸術活動支援特別委員会」を新たに設置しています。委員長である(社福)正夢の会「コラボたまワークセンターつくし」施設長の大浦孝啓さんは、「障害者のアート展示や施設でつくった商品の物販などはさまざまな場所で行われているが、職員はそれらの見せ方や売り方がわからないと感じていた。また、それを学べる場もなかった。障害のある方がいきいきと活躍するために、利用者の作品や商品を発表・販売する場をつくるとともに、支援する側が利用者のつくったものをどう見せていくかを学ぶ場や、ネットワークをつくりたかった」と語ります。

 

平成29年12月9日(土)、飯田橋セントラルプラザで本委員会が主催するイベント「Session! TOKYO50(以下、セッション)」が開催されました。都内にある福祉施設が出店し、ハンドメイドの雑貨やお菓子などを販売するブースと、障害のあるメンバーの作品展示が行われ、28施設が参加しました。当日、会場はたくさんのお客さんで賑わいました。店頭に並ぶ商品はどれも利用者がつくった自信作です。包装やディスプレイにも各施設の個性とこだわりが感じられました。

 

Session! TOKYO50 当日の様子

 

セッションの開催に向け、委員会ではアートやものづくりのセミナーやディスプレイ講座を開催しました。それは先進的な取組みを学んだり、意識改革につながる気づきを得る機会となりました。大浦さんは、「利用者のつくったものは丁寧につくられている。きちんとした売り方をすれば一般のものと同じだけのクオリティがある。まずは支援する側の意識をそこに持っていくことが必要だった」とふり返ります。

 

そして、「アート活動や物販は利用者と社会をつなぐきっかけであり、障害のある方のものづくりは共生社会の入り口になれるということに気づけた。だからこそ、私たち職員がしっかりと学ぶ必要性を実感している。『利用者が手をかけることができ、売れるものをつくる』。そういう視点でものづくりを考えることは楽しい。職員や利用者のモチベーションにもつながっていってほしい」と話します。

 

 

コンセプトを明確にして変った_障害者福祉施設「小茂根福祉園」

生活支援員の上田トシ江さん

 

(社福)恩賜財団東京都同胞援護会「板橋区立小茂根福祉園」は、知的に障害のある人の通所施設です。現在、「KOMONEST」のブランド名で、自家焙煎の珈琲やTシャツ等の商品を企画・製造、販売しています。

 

8年前、外部のコーディネーターとともに「Yes!I’m here (※1)」というコンセプトを考案し、就労継続支援B型の自主製品の一部をコモネストとして立ち上げました。KOMONE(小茂根)とNEST(鳥の巣)を合わせた造語で、障害者の巣立ち(自立)への願いが込められています。

 

(※1)
私らしく・・・
住みなれたこの町で私らしく暮らしていきたい。
いろいろなことにチャレンジしてみたい。
自分のことは自分で決めたい。
夢をかなえたい。

 

コンセプトが明確になったことで、職員からも次々にアイディアが提案されました。以前から珈琲は取扱っていましたが、他店で焙煎した珈琲豆を購入し、簡易な袋への封入を中心とした作業でした。今は、年間を通じて一定の味を保てるよう自家焙煎し、鮮度と味にこだわっています。
そして、利用者が描いたロゴマークとマスコットを採用して、プロのデザイナーの協力も得ることで心惹かれるレトロなデザインのパッケージに仕上げました。

 

ターゲットを「アウトドアが趣味の30代男性」と具体化し、ブランディングすることで、「おしゃれ!」と品質デザイン両面で、多くの人に手にとってもらえるオリジナルブレンド「フクロウ珈琲(296COFFEE)」が生まれました。

296COFFEE

 

現在は、焙煎は職員が担当し、利用者は珈琲粉の封入作業、専用袋へのスタンプ押し等を担当しています。「将来カフェの仕事がやりたいから、ここの(珈琲の)お仕事をしっかりやるの」と珈琲担当の女性利用者は今後の希望を語ります。生活支援員の上田トシ江さんは「自信を持って美味しさを伝え、販売する利用者の姿に『よし!自分たちでやっていける。珈琲をやってよかった』と思った」と話します。

 

職員が焙煎した珈琲の粉末を計量し、ドリップ用に一つひとつ丁寧に詰めていきます。

 

福祉施設においても、外部の専門家と連携しものづくりにコンセプトをもつことで、職員の発想が徐々に変わり、ブランディングのノウハウや意欲が向上しました。さらに、仕事の捉え方や取組み方にも変化があります。それは、職員がともに楽しみながらも、利用者が将来の夢を思い描ける自立へむけた取組みへとつながっています。

 

 

魅力的なブランドとして発信する_(一社)アプローズ「アプローズ南青山」

 

アトリエでの制作風景

 

一般社団法人アプローズ「アプローズ南青山」は、平成26年開所の就労継続支援B型事業所です。フラワーショップ「BISTARAI BISTARAI」のブランドで、企業の受付などに飾られるディスプレイ用のフラワーアレンジメントやブーケ等を制作し、ネットショップ等で販売しています。

 

利用者(障害者スタッフ)の多くは精神や知的障害のある方々です。ほとんどがお花を扱うのは未経験ですが、専門職スタッフである有名店出身のフローリストに教わりながら、一つひとつアレンジメント技術を身につけています。「こんなイメージで」という抽象的な注文も、お客さんの思いを丁寧に汲み取り、個性を活かした色合いや花材でアレンジを加えて商品に仕上げます。「花屋さんのセオリーを乗り越えるアレンジをする方もいて、潜在的な発想力や感受性に驚かされる」と、代表理事の光枝茉莉子さんは話します。一方、花を通じて社会貢献をしたいと入職したフローリストも、福祉の仕事は初めてという人ばかりでした。障害者スタッフへの説明の仕方等は、福祉現場で経験を積んだ福祉スタッフがサポートしています。

 

「アプローズ南青山」が重視するのは、「居場所」ではなく「就労」の場であること。障害者スタッフは「ブランドの担い手」という意識の下、やりがいを持って安定した通所を続け、一般企業の障害者雇用などにすすんでいる人もいます。ホームページの制作はプロのデザイナーに依頼し、見せ方にも気を配ります。そこには、事業を立ち上げる前の都庁在職時に、障害者施策に携わり事業所を訪問する中で、「利用者にはもっと働けるチャンスがあるのでは?」「こんなに美味しいお菓子をつくっているのに、知られていないなんて勿体ない」と感じた光枝さんの思いがあります。「フラワーショップとして発信し、福祉事業所であることは後から知るという順番が大事。『障害者が制作しているから』ではなく、商品に魅力を感じて買ってもらえるよう、フラワーショップとしての努力が必要」と光枝さんは話します。

 

アプローズがめざすのは、花を通じたウェルフェアトレード(※2)の自然な流れをつくりだすことです。その先にあるものは、障害者事業所の変革だけではありません。「今、生花業界には売上減少や人手不足の課題がある。私たちなりの“花の仕事”ができれば、福祉分野の力で生花業界の役に立てることもあるはず」と光枝さんは言います。商品の質に力を入れ、ブランドとして発信するという企業の発想を取り入れた福祉の取組みは、両分野を盛り上げる相乗効果をもたらし始めています。

 

(※2)ウェルフェアトレード
“Welfare=社会貢献”と“Fair trade=公正な取引”を掛け合わせた造語で、社会的弱者と言われている人たちの作る製品などを適正価格で購入することによる社会的支援活動のこと。(「BISTARAI BISTARAI」HPより)

これらの事例から見えてくるのは、社会に向かって意識を開き、発信したいコンセプトを持ち、利用者のさまざまな魅力を引出して表現していく姿です。「ものづくり」を通じてこれまでのイメージではなく、いまの福祉の姿を伝えていく、共生社会に向けての大きな力になっています。

 

 関連記事→ 想いをデザインする 言葉にすることで描けるものがある

取材先
名称
コラボたま ワークセンターつくし,小茂根福祉園,アプローズ南青山
概要
(社福)正夢の会 コラボたま ワークセンターつくし
http://www.inagi-masayume.com/web/facility/collabo_tsukushi.html

(社福)恩賜財団東京都同胞援護会 小茂根福祉園
http://www.komone-f.net/

一般社団法人アプローズ「アプローズ南青山」
http://applause-aoyama.com/
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