田園調布学園大学 教授 村井 祐一さん
双方向を意識した情報発信―相手にどのような行動を促したいか?~地域と連携していく視点から~
掲載日:2018年3月29日
2018年2月号 連載

田園調布学園大学 教授 村井 祐一さん

 

あらまし

  • 1月号の連載では、「新卒学生の確保に重点を置いた採用ツール」というターゲットを明確にした情報発信について事業所の事例を取り上げました。今号では、双方向を意識した情報発信について考えていきます。

 

 

情報発信からパブリックリレーションズ(PR)に向けて

企業や行政などでは、安定した事業の運営を図るうえで、事業の対象となる利害関係者から長期的な信頼関係を構築・維持するために、パブリックリレーションズ(PR)という経営手法を通じて、情報発信、情報開示ならびに意見聴取などを行っています。

 

かつての情報発信は、こちら側の都合の良い情報を一方的に対象に送り、都合の悪い情報は隠蔽するという「一方的な情報発信による対象の説得を目的」としていました。しかしながら、このような手法は時に誇張表現や虚偽情報の提供にもつながり、直感的で科学的な根拠を持たない情報発信の場合も多く、それが対象(パブリック)に見抜かれたときには大きな不信感につながってしまいます。例えば、誇大広告やねつ造報道などがそれに該当します。

 

これに対して、自組織の利害にとらわれず中立的、客観的な立場で情報発信を行う考え方があります。例えば事故やトラブルを隠さずにきちんと情報公開する行為であり、隠蔽主義ではなく情報公開主義によって組織に対する社会的理解や信頼を獲得する手法です。

 

しかしながらこの手法にも課題があります。発信される情報の取捨選択権はいまだ組織側に残されているため、結果的には組織側の恣意性による情報発信となるためです。

 

 

受け手のニーズに即した情報発信

これらの課題を解決する手法として「マーケティング」と呼ばれる双方向性を意識した情報発信方法があります。対象者の求めている情報をあらかじめ調査して、最も興味を持つ情報を優先的に発信していく手法です。これにより、一方的な情報発信ではなく、受け手側のニーズに即した情報提供体制となるのです。具体的には、アンケートやヒアリング、さまざまな交流機会による意見聴取などを用いて対象者が知りたい情報に関する調査・集計を行い、その結果に基づいて情報発信をしていく取組みです。

 

そして、現在最も理想的なモデルとして位置づけられているのが完全双方向性による情報発信です。情報発信者と情報受信者の対話や協働を通じて、相互に学習、成長、調整、改善を行いながら情報発信を行う取組みです。具体的には、事業(活動やサービス)を企画・実施する最初の段階から利用者や地域と積極的な意見交換を行い、具体的な内容を協動で組み立てていく行為などが該当します。

 

一般企業の取組みで例えると、消費者が持つ企業に対するイメージを調査し、調査結果に基づいて企業理念や経営方針・内容を修正することや、消費者団体のメンバーに企業内での商品の安全評価や開発過程に参加してもらい、消費者側の視点を持った対象の意見に基づいた情報を地域社会に発信していく手法です。

 

余談ですが、地域福祉計画などに代表される福祉計画も住民アンケートやワークショップ、策定・推進メンバーへの住民参加などを重視して策定・推進されていますが、その情報発信においては、その力を活用しきれていない感じがします。

 

筆者が参画している横浜市緑区の地域福祉保健計画「みどりのわ・ささえ愛プラン」などは、連携する福祉団体や地域住民に積極的に協力して頂きながらPR活動を行っています。以上のことから、情報発信は一方通行ではなく、双方向を意識したパブリックリレーションズ(PR)型で考えていく必要があります。

 

 

地域との「協働」「連携」に向けて

「協働」「連携」とは、複数の主体が、何らかの目標を共有し、ともに力を合わせて活動することをいいます。コラボレーション(collaboration)や、パートナーシップ(partnership)などという言い方もあります。

 

福祉業界における優れた連携に注目して共通点を整理してみると「関係者間において明確かつ共通の目標・目的・課題設定が行われている」、「積極的な情報共有体制が存在する」、「互いの活動内容や機能・役割を理解し合っている(頼み、頼まれる関係)」という3つの柱が見えてきます。(表1)。

 

また現在、社会福祉法人に強く求められている「地域公益活動」の先進事例にも、これら3つの柱に基づく地域との連携・協働関係の存在が数多く見受けられます(表2)。

 

これらの連携による地域公益活動は、一方的に「やってあげる」「引き受ける」だけでは十分に機能せず、地域活動を誕生させたり、成長させるエンパワメントにつなげる必要があります。

 

この課題に取組むには、地域が皆さんと共に課題を共有し、連携したいと思うための積極的な情報発信が必要となります。具体的には皆さんと連携することでの「ベネフィット(恩恵)」を感じでもらうことが重要となります。このベネフィットは単なるメリットではなく、連携した結果として得られる、より本質的な成果や価値そして信頼関係のことを指します。

 

これまで皆さんの組織は、どのようなベネフィットを地域に伝えていたのか、もう一度検討してみて下さい。

 

 

 

情報発信の成果目標とは

自組織の広報誌やホームページ(SNS含む)の他にも、他のメディア(新聞、雑誌、ミニコミ誌、テレビ局、ケーブルテレビなど)への記事の投げ込みなども情報発信として効果的です。このマスメディアの持つ広報効果は良い意味でも悪い意味でも絶大です。

 

そして、これらの広報活動を通して提供する情報によって、対象に何らかの意識変化を促すのが目的なのか、それとも対象からの意見やコミュニケーションを得たいのか、対象の行動変化を促したいのかなど、具体的な成果を得るための戦略を持つ必要があります。

 

近年の情報発信は単なる広報(情報伝達)から、双方向での情報交換を支援するコミュニケーションへと進化が求められているため、広報を超えたパブリックリレーションズ(PR)を意識する必要があるのです。

 

プロフィール

  • 田園調布学園大学 教授 村井 祐一さん
  • ・田園調布学園大学 人間福祉学部 社会福祉学科 社会福祉専攻 教授
    ・日本福祉介護情報学会(JISSI)副代表理事
    ・東京都社会福祉協議会 東京都高齢者福祉施設協議会 情報・広報室 広報戦略推進委員会アドバイサー等
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田園調布学園大学 教授 村井 祐一さん
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