「車いす工房輪」代表 浅見 一志さん
この仕事は ユーザーの人生を変える可能性がある
掲載日:2018年5月15日
2018年4月号 くらし今ひと

 

「車いす工房輪」代表 浅見一志さん

あらまし

  • 一人ひとりに合わせた車いすをカスタムし、世界にひとつだけの車いすを提供する「車いす工房輪」代表の浅見一志さんにお話を伺いました。

 

ユーザーに合わせた電動車いすを提供すること。それがユーザーの生活をより豊かにできることを知っていますか?

私は、まだまだ認知度が低く、知られていないのではないかと思っています。「車いす工房輪」では、メーカーがつくる既製品の電動車いす等をユーザーのニーズに合うようカスタムしたり、メンテナンスや販売等を行っています。

 

契機はヘルパーのアルバイト

私はもともと機械やものづくりが好きでした。専門学校では機械工学を専攻し、卒業後は機械を設計する会社に就職しました。

 

3年務めた会社を退職後、「今まで自分が出会ったことのないような、いろいろな人に会ってみたい」と思い、保育園やフリースクールを手伝ったり、海外を旅しました。

 

その中のひとつとして、自立生活センターでヘルパーのアルバイトをはじめました。私の担当する利用者が電動車いすを使っており、「電動車いすってどんな人がつくっているんだろう」と思ったことからはじまり、車いすをつくることに自然に惹かれていきました。

 

たまたま利用者の付き添いとして電動車いす等の改造やメンテナンスなどを行っている「さいとう工房」へ行く機会があり、ヘルパーのアルバイトをはじめて1年たたないうちに、私はさいとう工房で働くようになっていました。そして平成19年に独立し、東村山市で「車いす工房輪」を立ち上げました。

 

可能性を引き出す車いすづくり

とことん向き合って話を聞き、オンリーワンのものづくりでユーザーのできることを増やしていけるのはこの仕事の一番の魅力です。 障害や生活スタイルは人それぞれ違います。私が仕事で大切にしているのは、ユーザーの可能性を信じ、一緒に見つけ、一緒に考えること。決まった答えはなく、二度同じものをつくることはありません。一つひとつの事例に丁寧に向き合って答えを探していきます。

 

車いすに長時間座ることで足がむくむ方は、レッグサポート(足置き)の角度を電動で調整できるようにします。座面に電動昇降機能をつければ、高所にも手が届きますし、健常者と同じ視界が広がります。肘置きを電動可動式にすることで、好きなタイミングでベッドと車いすの行き来が可能になった方もいます。

 

電動車いすに座っているときに受けるわずかな振動でも骨が折れてしまう方には、さまざまな材料を組み合わせて体に合うクッションをつくります。力が弱くなり、操作が難しくなった方には、ジョイスティックを軽量化することで希望に沿うことができました。このように、ユーザーの悩みや希望は一人ひとり異なり、私たちが行う工夫や提案もさまざまです。

 

工夫されたツールがあれば、生活はより快適に、可能性は広がります。自宅の周辺しか外出できなかった方が、今では県をまたぎ、電車に乗って出かけています。また、体が仰向けに倒れるリクライニング機能だけでは胸郭がつぶれて呼吸が苦しくなってしまう方に対し、回旋・側屈ができるよう背もたれを改造したところ、苦しくなく休めると喜んでいただけました。この回旋・側屈の機能はおそらく輪でしか例がないと思います。

 

世の中で一番大切な仕事

もちろんうれしいことばかりではありません。車いすの改造には早くて3か月、長いときには3年近くかかることもあります。完成品を待つまでの間にユーザーが亡くなってしまったこと、完成後に「乗り心地がよくない」と使ってもらえなかった経験など、苦しかったことは今まで何度もあります。

 

それでもこの仕事を続けられるのは、以前とある障害のある子どものお父さんがかけてくれた、「この仕事は世の中で一番大切な仕事です」という言葉。そう思ってくれている人がいることが、私が仕事を続ける原動力になっています。

 

私たちのこの仕事は誰かの生活を変える可能性があるということをもっと発信していくとともに、これがユーザーにとってどれくらい必要なことなのか、理解を広げていきたいと思っています。私は、ユーザーのできることや行ける場所が広がり、生活を変えることができるこの仕事を誇りに思います。

取材先
名称
「車いす工房輪」代表 浅見 一志さん
概要
「車いす工房輪」
http://koborin.com/
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