(社福)賛育会
絵本で伝える福祉のやりがいや魅力
掲載日:2018年6月6日
2018年5月号 連載

 

社会福祉法人賛育会  法人事務局 総務課長
小林 正和さん(右)
加藤 玉樹さん(左)

 

 

あらまし

  • (社福)賛育会は、平成30年3月16日に創立100周年を迎えました。これを記念して、職員が体験したエピソードを基に仕事のやりがいや魅力を伝える絵本を作成しました。
    採用活動に活かすだけでなく、職員や地域の方、利用者家族の方にも手に取っていただいています。

 

 

きっかけは研修のレポート課題

平成28年度に実施した、法人内のリーダー層を対象にした昇格時研修の際に、これまでを振り返り、自分の職種のすばらしさや賛育会での仕事のやりがいをレポートにする課題を出しました。当時、研修を担当した法人事務局の加藤玉樹さんは、「初めて扱った課題であり、採用につながるツールとして活用できればという思いがあった」と言います。

 

福祉の仕事のイメージは、マスコミを中心に〝きつい〟〝きたない〟等と表現されがちですが、加藤さんは、「『人に接するしごと』は、職員が『人として成長できるしごと』である」と表現し、そのことを採用の場面でも伝えたかったと話します。

 

やりがいを伝えるツールとは

介護員、生活相談員、看護師、助産師、薬剤師、保育士、管理栄養士、機能回復訓練員、事務員等、さまざまな職種が書いたレポートは、「私の賛育会物語」と題名をつけて製本しました。職員に配布するとともに、採用活動の場面でも活用しています。

 

目次には、職種を表記するだけでなく、「新卒・福祉系大卒・特別養護老人ホーム勤務(施設名・名前)」のように、その人の背景を書いた表現にし、読み手が記事を選択しやすい工夫をしました。職員の実体験に基づくエピソードは、共感につながりやすい内容ですが、一方で、文字量が多いと読んでもらうハードルが上がってしまうという課題がありました。

 

そこで、広報誌で関わりがあるデザイナーに相談した結果、「賛育会物語」として絵本にするアイデアが出てきました。「絵本にすることで、読み手が主人公になり、その人の想像力の中で自分の話のように感じてもらえる。リアル過ぎないツールとして絵本はよかった」と加藤さんは振り返ります。また、採用ツールとして活用していく上でも、職業選択前の高校生や中学生、小学生にも働きかけたいという思いもありました。

 

絵本を発行するにあたっては、71人のレポートから4つの話を選びました。選択した視点としては、今回は利用者と関わる職種とし、エピソードがはっきりしていて情景が浮かぶ、複数人に共通していたやりがいが表現されている、チームや仲間が登場する、生や死に立ち会うことや利用者の生活に関わるという内容が含まれているものとしました。全員のレポートに目を通した加藤さんは、「こうしてあげようという一方向の思いではなく、利用者の想いや考えに委ねてみるといった姿が多くの職員に共通していたのが印象的」と話します。

 

一般の方にも届くように

法人事務局では、法人内研修を担当している他、広報や採用も担当しています。そのため、今回のような研修と、広報や採用活動を融合する取組みが実現しました。

 

イラストレーターは、広報誌で関わりのあるデザイナーに相談し、賛育会のイメージにあう作風の人を紹介してもらいました。プロのイラストレーターに依頼することに「そんなにお金をかけてまで……」という声もありました。しかし、プロに書いてもらうことで、一般の方にも絵をきっかけに絵本を手に取ってもらえる機会にもつながっています。

 

絵本の内容は、ほぼ職員が書いた文章ですが、ライターにも関わってもらい、一般の人の目線で、わかりにくい専門用語や略語は直していきました。事業所名と職員の名前を絵本の作者として表記し、作者である職員にも確認しながら、譲りたくない表現を残すことにはこだわりました。

 

全力で遊ぶ!「保育士の私」

さんいく保育園清澄白河
保育士 今野久美子さん

 

「保育士の私」として、3歳児クラス21名とのエピソードが絵本に採用された、江東区にある「さんいく保育園清澄白河」保育主任の今野久美子さんは、「課題として書いたレポートが絵本になると聞いてとても驚いた」と話します。

 

また、もう一つ驚いたこととしてイラストレーターの名前を挙げます。レポートが絵本になる前の年、クラスの子どもたちに、下のきょうだいが生まれて戸惑う女の子の絵本「みつけてくれる?」(著:松田 奈那子)を読み聞かせていました。下にきょうだいが生まれる子が多く、頑張ってお兄ちゃんやお姉ちゃんをしている姿が見受けられる子どもたちにぴったりだと選んだ本でした。

 

その子どもたちを受けもって2年目、法人事務局から連絡をもらい、イラストレーターの名前を聞くと、偶然にも子どもに読み聞かせていた絵本の著者である松田奈那子さんでした。「この子どもたちにぴったりだと選んだ絵本の作者が、この子どもたちと自分のエピソードのイラストも描いてくれると聞き、驚きとともに運命を感じた」と今野さんは話します。

 

今野さんが、文章の中で大事にしたいとライターに伝えたのは、「自己肯定感」と「仕事をする中での悩み」も記載することです。「仕事には、大変な面もあるが、喜びもたくさんあることを伝えたかった」と今野さんは言います。

 

また、当初、公園の水たまりで遊んでいるシーンのイラストには担任2人しか描かれていませんでした。しかし、「担任だけでなく保育補助1人を含めて3人での1年間の活動だった。この部分はこだわって大人を3人描いてもらった」と今野さんは言います。

 

そして、「私自身4人の子どもがいるが、保育士をめざして学んでいる娘に見てもらったら『とてもよかった』と言ってもらえた。他の思春期の子どもたちにも私の仕事がどんな仕事か知ってもらう機会にもなった」と話します。絵本になったことで小学生の子どもも読むことができました。

 

今野さんが伝えたい保育の仕事の魅力は、「大人が教えてあげられることもたくさんあるが、子ども自身が学び取ることも多い。私自身、子どもに思っている姿になってもらおうとするよりも、子どもに相談し、一緒に考えるようにしてみたら保育が本当に楽しくなった。子どもは一緒に生活する仲間。子どもたちと眼差しや興味、関心を共有できる本当に素敵な仕事」だと話します。

 

保育園のエントランスにも飾られている絵本

 

「保育士の私」公園の水たまりで遊ぶシーンより

 

小学生や中学生にも読んでもらいたい

賛育会では、絵本を地域の方等にも伝えていくため、毎年実施しているチャリティコンサートでイラスト原画を額に入れて飾ったり、お祭りではパネルにして飾ったりしています。子ども連れのお母さんや、絵のタッチにひかれた方などが立ち止まり、絵本も手に取ってくれました。

 

また、絵本発行後、介護や保育の養成校、同業である社会福祉法人の方だけでなく、今後、福祉業界と一緒に働きたいと考えている企業からも問い合わせがありました。「私の職種の絵本も書いてほしい」という声や「利用者の方の物語を絵本にしたいね」という声も聞かれます。

 

加藤さんは、この取組みを通じて、「職員は、いろんなエピソードを持っている。業務上の報告や記録では残らないことでも、職員の印象に残っていることを表現する機会になった」と言います。

今後は、近隣の小学校、中学校への寄贈や、法人が地域公益活動として行っている、小学校での「命の授業」や子ども食堂の場で子どもたちにも読んでもらいたいと考えています。

 

取材先
名称
(社福)賛育会
概要
(社福)賛育会
https://www.san-ikukai.or.jp/
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