あらまし
- 東京で将来発生することが懸念されている、地震等の大規模災害。
被災地において、災害時要配慮者の支援のためにさまざまな団体・機関がネットワークを組み支援体制の強化をすすめています。
今号では、東京都災害福祉広域支援ネットワークの紹介と29年度の活動から見えてきた課題と今後の取組みについてご紹介します。
東京での大規模災害と災害時要配慮者
近年は、東日本大震災や熊本地震等の大規模災害だけでなく、大雨等風水害による被害が毎年のように発生し、東京においても、大島の土石流災害(平成25年10月)、西多摩地域の大雪(26年2月)、台風による局地的浸水被害(28年8月)が起こりました。また、東京周辺地域を震源とする直下型地震等も、近い将来に発生する可能性が指摘されています。
東京の特徴として、「福祉サービスを利用することで在宅生活が成り立っている人が多い」「福祉サービスを担う人材が近隣に居住していない」「保育所があることで就業が成り立っている世帯が多い」ことが挙げられます。このような状況下でひとたび災害が起こると、多くの要配慮者が発生する一方で、福祉サービスの供給は止まり、サービス提供のためのマンパワーの確保が大きな課題となります。*
*平成28年に本会が都内区市町村行政に対して実施した「災害時における要配慮者のニーズと支援対策に関するアンケート」による
災害福祉広域支援ネットワークの活動
東社協では、東日本大震災等の状況もふまえ、東京都からの受託事業として、災害時の要配慮者の支援体制について、東社協施設部会(高齢・障害)、都内の福祉専門職の職能団体、区市町村行政、区市町村社協等で構成される委員会においてネットワークのしくみを検討してきました。そして、29年4月から「東京都災害福祉広域支援ネットワーク(以下、広域支援ネットワーク)」が立ち上がりました。
広域支援ネットワークは、大規模災害の発生を想定し、平時から、東京都福祉保健局、区市町村、東社協、区市町村社協、東社協施設部会、職能団体が連携して、区市町村における要配慮者支援の取組みを補完し、災害対策の強化を図ることをめざして活動しています。
発災後は、(1)情報集約と情報共有、(2)福祉専門職の応援派遣、(3)東京都災害福祉広域調整センターの設置による広域調整を実施します。
(1)情報集約と情報共有(緊急期・応急期)
ア 主に発災後の緊急期・応急期に、東京都及び広域支援ネットワーク本部(東社協)が災害時要配慮者への支援体制の不足や支援ニーズ等の情報収集を行い、それを団体間で情報共有します。
イ 被災地の行政や社協により区域内の被害状況の確認ができない場合には、東社協職員が区市町村行政や社協、東社協施設部会関係者が社会福祉施設にそれぞれ状況把握のために向かいます(=災害福祉先遣チーム)
(2)福祉専門職の応援派遣(復旧期)
ア 被災地域が限定的であるものの、地域内の災害対策や相互応援だけでは支援が行き届かないことが懸念される場合には、東社協施設部会や職能団体等からの福祉専門職の応援派遣が実施されます。
イ 東京都内の応援派遣だけでは支援が行き届かないことが懸念される場合や、被災地域が広範囲に及び支援の漏れや重複の恐れがある場合には、東京都災害福祉広域調整センター(以下、調整センター)を設置し、被災地域や応援派遣団体との必要な調整やマッチングを行います。
(3)東京都災害福祉広域調整センターの設置による広域調整
大規模災害が発生した際は、他道府県をはじめ被災地外から多くの福祉専門職が支援に入るとともに、東社協施設部会による部会内の相互支援応援体制等も想定されます。これらの限られたマンパワーによる支援に漏れや重複がないよう的確に被災地域に送りこむためには、コーディネートを行う機関が必要となってきます。
調整センター(東京都が設置、東社協が運営)は、大規模災害が発生した際に立ち上げられ、「広域支援ニーズの継続した把握」や、マンパワーの派遣に際して必要な情報の共有や各種調整を行うための「(仮称)応援派遣団体共有会議(東京都福祉保健局、東社協施設部会、全国組織などの参加を想定)」の開催や、「他道府県からの応援専門職と被災地行政・施設等とのマッチング業務」を担います。
29年度の活動と見えてきた課題
29年度は、広域支援ネットワーク構成団体からなる推進委員会を設置し、広域支援ネットワークの周知や先進他県の取組み状況の把握、広域訓練を実施しました。
広域訓練では、熊本地震時の介護職員等の応援派遣や、福祉避難所における応援派遣職員の受入れの事例を学び、その後、各団体の発災時の初動体制・情報収集についてグループで共有しました。また、東京都内における福祉専門職の応援派遣の流れを確認するとともに、そこから見えてきた課題を話し合いました。
広域支援ネットワークのしくみが災害時にも機能し、要配慮者支援が的確に行われるための課題として、情報収集・発信のしくみの構築や、人員体制の整備、連携方法の検討等が挙げられました。
これまでの活動や今後の課題等をふまえ、ネットワーク推進委員である、平出肇さん(東社協東京都高齢者福祉施設協議会)は、「引き続き広域支援ネットワークで訓練を実施し、そこから出された課題も含め高齢協の組織内で広く共有し、高齢協として構築してきている情報ツールや法人同士のネットワークとうまく連携できる体制になっていければ」と話します。また、同じくネットワーク推進委員の岩田雅利さん(東社協知的発達障害部会)からは、「知的部会として災害の委員会を立ち上げて2年目であり、400以上ある会員施設の災害時の情報収集や発信のフロー、ブロック活動の機能等について、広域ネットワークのしくみとうまく連動する形で作成していきたい」とコメントがありました。
東社協としても、BCP(事業継続計画)を基に調整センターのマニュアルや人員体制の具体化、東社協施設部会事務局や東京都災害ボランティアセンターとの連携等を検討するとともに、広域支援ネットワークの事務局体制を災害時に的確に果たすため、東京都等との連絡体制の確保が求められています。
平成30年度も、推進委員会を引き続き設置し、
●「広域支援ネットワーク構成団体間の情報収集・共有訓練の実施」、「外部応援職員の受入れや先遣隊の派遣や受入れ」等の取組みの具体化
●先遣隊及び受入れ施設に必要な知識・視点・スキル等に関する研修の検討・実施
●広域支援ネットワーク本部機能の具体化や人員体制の整備
に取組んでいきます。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/index.html