http://fukushi-portal.tokyo/saigai/
あらまし
- 東社協では、東日本大震災以降、大島土石流災害、関東・東北豪雨、熊本地震など全国各地の被災地における要配慮者支援の実践事例や災害に備えた地域づくりの取組みのヒアリングを重ねてきました。
福祉施設等によるそれらの事例は、平成30年3月に新たに開設した「災害に強い福祉 実践事例ポータルサイト」に掲載しています。
本号では、これらの69の実践事例を分析のうえ、「災害に強い福祉」とは何かを改めて考えます。
―「目の前にあることに向き合いながら、先行きを見据えた支援に取組み続ける」。―
被災地の福祉施設等で要配慮者を支えた方々は、「想定していなかった」事態の中で起こっていることへの対応に全力を尽くしつつ、要配慮者一人ひとりにそれまでの暮らしがあったことに想いを馳せ、それをその先にある暮らしへつなげようと取組む姿が数多くみられました。その姿は、まさに福祉職ならではの実践です。
災害時要配慮者のリスク
69の実践事例を通じて、災害時に高齢者、障害者、子ども等にみられるリスクの傾向がわかってきました。それは、避難行動に限らず、避難生活以降の場面に数多くみられ、福祉職ならではの観察力がなければ見逃されがちなリスクも少なくありません。困っていてもそれを表に出さず、あきらめてしまうといった要配慮者の心理の特性も垣間見られます。事例からは、主に次のようなリスクが明らかになりました。
《高齢者におけるリスク》
「在宅生活を成り立たせていた介護サービスが途切れる」、「過酷な避難や環境の変化で状態が悪化した高齢者が多くいた」、「先行きが見えない中でこれからのことを決めなければならない。高齢者には大きな負担になる」
《障害者におけるリスク》
「避難所になじめず、自宅で過ごす障害者が多くいた」、「電源の確保が命にかかわる重度障害者がいる」、「障害者がいつもと異なる環境に戸惑い、不安定になった」、「日中活動を失い、機能低下やストレスを抱える障害者が増え、無理にでも事業所を早期再開した」
《子ども等におけるリスク》
「外出中の子どもの安否を確認するのが大変だった」、「児童養護施設の子どもたちが、表面的には大丈夫そうでも非常時に我慢して自分の気持ちを訴えなかった」、「激しい揺れを経験した子どもが浴室を怖がった」、「活動が制限された保育園では、子どものストレスが高まったり、発達への影響が懸念された」、「母子生活支援施設を退所し地域で暮らしていた外国人の母親が災害時に情報がわからなかった」
これらのリスクに対応するために必要となる視点の一つは、「アウトリーチの視点」です。例えば、事業所が電話で安否を確認したときには「大丈夫だ」と言っていたものの、訪問してみると心身の状態が悪化していたという事例もありました。また、表面化しにくい影響を観察や会話の中から見つけ出す力量も問われます。
災害時供給体制の課題と対応
要配慮者のニーズが増大する一方、それに対応する福祉施設等では供給力の低減も予測されます。事例からは、12の課題(図)の存在が明らかになりました。これらの多くは、個々の施設・事業所だけでは解決することが難しく、「地域の課題」として捉えることが重要といえます。
図 災害時における要配慮者支援の供給体制の課題
⑴情報集約・共有
福祉施設等の被災状況を迅速かつ継続的に把握し、適切な支援につなげることが必要です。「災害時に施設から把握する情報は必要最低限に絞った」、「施設が必要としている物資をとりまとめ、県社協ホームページで広く発信した」、「物資を届けることを通じて具体的な情報を継続的に把握した」などの取組みがみられました。
⑵備蓄品の不足
福祉サービスの継続に必要となる物資は初動期を乗り越えるためにも確保することが必要です。施設固有に必要な物資もあります。事例では、あらかじめ優先的に確保する協定を結んだり、種別間の支援が有効となっています。
⑶被災施設等における人員体制
限られた体制で目の前にある支援を懸命に乗り越えなければならない場面も生じます。そうした中でも職員を疲弊させないよう負担を軽減する体制づくり、必要な休養、短期の目標を設定したり、目標への取組み状況を可視化するなど数多くの工夫が事例にみられました。
⑷応援職員
支援ニーズと応援職員を結びつけるコーディネートが重要です。また、応援職員だけで福祉避難所を運営した事例もみられました。
⑸都道府県単位の種別協議会の機能
情報の把握と集約・発信、物資の提供、利用者の他の施設への受入れの調整など、多岐にわたる機能がこれまでに発揮されています。
⑹事業所の継続と早期再開
ニーズを拡大させないためには、事業の継続、また、休止した事業所の早期再開が重要です。「備蓄していたコンロと水を持参し、訪問介護を休止せずに継続した」、「複数の作業所が協働で新しい仕事を興し、日中活動を確保した」などの事例もありました。
⑺福祉避難所
福祉避難所の指定にあたり、対象者・人的体制・運営内容を明確にしたり、福祉施設等が福祉避難所を安心して積極的に運営できるためのバックアップ体制が必要です。また、「被災市町村では福祉避難所に指定した施設も被災するため、近隣市町村の福祉避難所での受入れも必要になる」という指摘もみられました。
⑻一般避難所における要配慮者支援
増大するニーズを緊急入所や福祉避難所だけでは対応できず、一般避難所で要配慮者が安心して過ごせる環境づくりが大切になります。
⑼BCPと相互応援協定
初動期に自施設の機能を最低限守るべく、BCPを各施設・事業所が策定することへの支援が必要です。また、協定を実効性あるものとするには、訓練を重ねることが必要です。
⑽福祉施設における利用者避難
入所施設が被災等により所在地にとどまれない事例が近年増えました。利用者の分散、長距離移動、環境の激変などのリスクを伴います。持ち出せる備品や利用者情報にも限りがあり、受入れ先の確保など多くの課題があります。
⑾個別支援の強化
生命に関わる重度の要配慮者をはじめ、平時から介護支援専門員等が災害時の対応を本人とともに確認するなど、支援の継続性の視点も重要になります。
⑿地域の課題解決力
災害を乗り越える力は専門職だけでつくり上げることができません。「地域住民の要配慮者への理解を日ごろから高める」、「要配慮者自身も災害を乗り越える力を高めていく」などの必要性が事例では指摘されています。
● ● ●
プロジェクトで69事例を分析した京都女子大学教授の太田貞司さんは、「手を貸しすぎず、その後の暮らしを見据え、その人がその人らしく生きることを支える。そういった『自立を支える視点』が大切。災害時に要配慮者へのきめ細やかな支援に取組む、そんな福祉職の姿は、多くの人の目に『本当の専門職』として映るであろう」と指摘します。また、「避難生活後に帰る地域。その地域の力を耕すのは、地域のみんなで。そこでは、要配慮者自身も復興の支え手や主役になり得るだろう」と話します。
京都女子大学教授
太田 貞司さん
災害時に顕在化する要配慮者の多くは、もともと地域とつながっていなかったといわれています。だからこそ、「日ごろから『災害に強い福祉』をつくることがやはり大事だ」と、太田さんは話します。6月18日に発生した「平成30年大阪府北部地震」も一部損壊の家屋が多く、「被災者が見えにくい災害」と言われています。
東社協では、本稿で紹介した事例の詳細とその分析を「災害に強い福祉実践事例ポータルサイト」に掲載しています。30年6月末現在で75の事例を同サイトでは紹介しています。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/index.html