笠野 直樹さん
『地域の商店からいただいた牛乳パックで利用者と作った作品「あおぞら犬 あお太郎」』
あらまし
- 障害者福祉施設で利用者との関わりをやりがいに生活支援員として働いている笠野直樹さんに、おしごとの魅力を伺いました。
飛び込んだ福祉の世界
この仕事に就く前は建築現場で働いていました。福祉の仕事経験はデイサービスでアルバイトをしたことがあるくらいで、福祉の知識があったわけではありませんでした。ハローワークで求職活動をしていた際に、ホームヘルパー2級を取得したことがきっかけで福祉の仕事に就きました。福祉ホーム「ひまわりホーム」で5年間勤務した後、「新宿区立あゆみの家」に異動して7年目になります。
新宿区立あゆみの家は、新宿区内に居住する心身に障害のある方やその家族の福祉の向上を図ることを目的とした施設です。生活介護、短期入所、日中ショートステイ、土曜ケアサポートの事業を行っています。新宿区内の施設の中でも、特に重度の障害のある方が利用しています。4名の看護師を配置しているため、痰吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な方も通所しています。
施設は社会参加の場でもあり、さまざまな活動に取組んでいます。例えば、手刷り暦などの作品づくりや身体機能の維持増進をするための運動、お祭りや合宿などの大きな行事もあります。音楽活動やお楽しみ会では、私自身が学生時代にロックバンドをやっていた経験から、ギターを弾いて活動の前座や盛り上げ役を務めるなどしています。これまでのあらゆる経験が仕事をする上で無駄にはなっていないと感じます。
気持ちの変化が生まれた
利用者は、楽しいなら楽しい、嫌なら嫌とはっきりしていてとても純粋だと感じます。そんな利用者と関わることがとにかく楽しく、それが仕事の原動力になっています。この仕事を始めてから3年間くらいは、利用者に対して「やってあげないといけない」という気持ちで仕事をしていたため、限界を感じて疲れてしまったりすることもありました。また、「福祉とはこういうもの」とそれまで思っていたこととのギャップがあり、思いと現実との折り合いが難しいこともありました。それでも仕事を続けていると「やってあげないといけない」という気持ちから「利用者と一緒にやる、一緒に決める」という気持ちに変化していきました。それからは楽しいことも増え、あれもこれもやってみたいという思いが湧いてきました。今、施設の利用者も重度化・高齢化してきています。そのような中でも、「どんな支援ができるか」「どんな楽しいことができるか」と、いつも貪欲に考えています。
答えは一つではない
この仕事に就いてから「物事をすすめるときの答えは一つではない」ということに気づき、それが自分自身の強みになったと思います。施設は利用者、保護者、医療関係者、生活支援員など、さまざまな立場の人が関わっています。立場ごとの意見やビジョンがあり、良いと考えることが異なることもあります。意見を完璧に一つにまとめることは難しいですが、それぞれの意見をふまえ、取り入れながら活動していくことができます。例えば、医療関係者が活動に際して安全第一に考えた意見を出したとします。その意見を受け、生活支援員は安全の範囲を少しでも広げ、活動の工夫を考え、それをまた専門職の方々と検討し、さまざまな支援を行っていくといった具合です。また、利用者の中にははっきりと自分の意見を言うことができない方もいます。そのような方にどうやって支援をしていくか、何がその方にとっていいことなのかを考えていくことも重要です。それぞれの意見を尊重しながら、〝Me〟ではなく〝We〟の精神で仕事をしていくことを大切にしたいと考えています。
まずは自分のできることを
何事にも言えることですが、「何かをやらなければ」と難しく考えるのではなく、まずはできることをやってみることが大切ではないでしょうか。特に、福祉の道をめざそうと考えている方には「ボランティアでもいいので、怖がらず思い切って飛び込んでみてほしい」と伝えたいです。
福祉の現場は、かならずしも教科書やポスターに載っているような和やかな世界とは限りません。ですが、だからこそ、この仕事にはやりがいや面白みがあるのだと感じています。続けていればきっと「この仕事が楽しい」と感じる瞬間がくるのではないかと思います。
プロフィール
- 笠野 直樹(Naoki Kasano)さん
- 新宿区あゆみの家(運営:社会福祉法人新宿区障害者福祉協会)
係長・生活支援員
http://www.shinsyoukyou.org/