精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)平間 安喜子さん 
精神疾患のある親をもつ同じ立場の子どもたちがつながり、語り、気づく場をつくりたい。
掲載日:2018年8月13日
2018年8月号 明日の福祉を切り拓く

 

(中央)平間 安喜子さん 
 「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」こどもぴあ事務局メンバー

  認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ) 非常勤職員
(右)こどもぴあ副代表 長谷川 麻依さん
(左)こどもぴあ事務局メンバー 関村 友一さん

 

あらまし

  • 同じ立場の子ども時代を過ごした人が、お互いの経験を語ることで、理解と共感を得られ、支え合おうと「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」を発足しました。こうした人たちへの社会的支援はまだ十分とは言えず、普及活動にも取組んでいます。

 

 

当たり前のことだと思っていた

私の母は、病院で治療を受けたことがなく、心の病の自覚症状がありませんでした。気づいた時には、母は心を病んでいて、子ども時代は、その家庭環境が「当たり前」のことだと思っていました。
その後、私は結婚し、初めての子育てに悩んだ時も、母には相談できませんでした。被害妄想を必死に語り聞かされる状態だったからです。

 

子どもが小学校に入った頃、離れて暮らす母が骨折し、救急車で近隣の病院へ搬送されました。母は受診を拒否し、病院側は対応できず、私もどうしたらいいかわかりませんでした。

 

ずっと行政相談、保健所等へ相談していましたが、誰にも母への対応方法を教えてもらえず、周囲には理解し、手を差し伸べてくれるサービス等もなく、ひとりで考えるしかありませんでした。幸い、参加していた精神障害者の家族会の方へ相談し、精神科のある総合病院を受診しました。はじめて、母の心の病に「診断」がつき、3か月間入院しました。やっと母が心の病気だと認めてもらえ、安堵しました。

 

違和感を抱いていた

これまで精神疾患のある親をもつ子どもへの福祉サービス等の支援は十分ではありませんでした。そのため、親の病状に対する知識を得る機会もなく、不安や戸惑い等を感じた幼い頃の体験から、家族のことを誰にも話せず、大人になっても、生きづらさを抱えている人が多くいます。統合失調症の母をもつ副代表の長谷川麻依さんは、「気にかけてくれる方や友人はいた。でも、私のおかれた状況を理解することは難しく、孤独を感じていた」と話していました。

 

また、親が病気ゆえに、親は親、私は私と思えず、自分の人生を生きることに罪悪感を抱いている仲間もいます。

 

全国にある精神障害者の家族会の多くは、精神疾患のある子どもをもつ親が多く、年齢も高齢の方が中心です。私のように親が精神疾患のある子どもが集う家族会や出会う場は、ほとんどありませんでした。やむを得ず、違和感を抱きながら、既存の家族会に参加していましたが、同世代の同じ子どもの立場の方と同じような悩みを分かち合う場がどうしてないのかと思っていました。

 

ひとりでないことを実感する

コンボの「家族による家族学習会」という小グループで行われる体系的なピアサポート・プログラムがあり、参加者として体験を振り返りました。

 

この学習会をきっかけに、支援者の埼玉県立大学教授の横山惠子さんと大阪大学大学院准教授の蔭山正子さんに出会いました。平成27年、蔭山さんから「家族学習会を手伝ってみないか」と声がかかり、はじめて精神疾患のある親をもつ子どもの立場の家族学習会を開きました。私は、はじめて多くの人の前で自分の体験を語りました。語るうちに涙を堪えられず、嗚咽しながら語った発表体験は忘れられないものでした。

 

他の当事者の発表を聞くなかで、同じ立場の者同士が出会い、語り、共感し合った時「自分だけではなかった」と気づきました。これまで悩みながら過ごすのが当たり前と思って育った私にとって、学習会での体験は気持ちに大きな変化をもたらしました。

 

大人になった私たちにできること

27年から、支援者の横山さんを中心に〝子どもの立場〟の家族学習会を始め、学習や交流を重ねてきました。子どもの立場の方が自らの苦労や悩みを語れる「きっかけの場」になればという想いから、30年「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」を仲間たちと発足させました。

 

「こどもぴあ」では、年1回の家族学習会、年3〜4回のイベント「つどい」を行います。勇気を出して来てくれた同じ立場の参加者が安心して体験を語り過ごせるようルールを決めて、開催しています。

 

これまで誰にも相談できずにひとりで頑張ってきた参加者は、はじめは表情が硬く緊張していますが、回を重ねるごとに表情が柔らかくなり、笑顔が見られます。「話せてよかった」「同じ立場の方に共感してもらい、つながれて嬉しい」という言葉を聞くと、『私たちの活動の存在意義』を感じられます。

 

出会いつながる場を全国に

精神疾患のある親をもつ子どもの立場の方は少なくないと思います。周りに相談できず、そのまま大人になった方、現在、その状態に置かれている未成年の子どもたちのために、身近に仲間とつながれ、共感しあう場をより多くつくりたいです。

 

現在、「こどもぴあ大阪」と活動していますが、今年7月に「こどもぴあ福岡」「こどもぴあ札幌」も発足しました。東京で開催する学習会へ遠方から参加する方もいます。全国にこどもぴあのサテライトがあれば、参加しやすくなります。

 

「こどもぴあ」のメンバーには仕事や家庭があります。息の長い活動にするため、各人が「無理なく」活動することを心がけて取組んでいます。

 

(左)理解を広げようとまとめた手記「精神障がいのある親に育てられた子どもの語り 困難の理解とリカバリーへの支援」(明石書店)
(右)コンボ出版月刊紙「こころの元気+」

 

プロフィール

  • 平間 安喜子(Akiko Hirama)さん
  • 証券会社で5年間勤務し退職。大阪府池田子ども家庭センターで非常勤として勤務。その後、(社団)関西シルバーサービス協会へ入職、結婚に伴い退職し、関東に転居。精神疾患の家族学習会の手伝いを始め、これをきっかけに、コンボへ非常勤として勤務。精神疾患の親をもつ子どもの立場の家族学習会活動に参加する中で、「こどもぴあ」の立ち上げに関わり、コンボ内に事務局を設置。事務局のメンバーとして活動し、現在に至る。
取材先
名称
精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)平間 安喜子さん 
概要
精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)
https://kodomoftf.amebaownd.com/
タグ
関連特設ページ