アリの街実行委員会
生まれ育った地域の知らなかったことを次の世代に伝えたい
掲載日:2018年8月13日
2018年8月号 くらし・今・ひと

    

アリの街実行委員会のみなさん

中:委員長 北畠啓行さん
左:副委員長 陶山孝一さん(あらかわモデル創造プロジェクト)
右:広報担当 岩浦さちさん(エンターテイメントユニット自由の翼主宰)

 

あらまし

  • 自分たちの住む身近な地域にあった「アリの街」の記憶を伝え続ける活動をしている「アリの街実行委員会」のみなさんにお話を伺いました。

 

 

身近な地域に、知らなかった事実

北畠さん)戦後まもない頃、台東区の現・隅田公園の一角に、廃品回収業で生計を立てる人たちの生活共同体である「アリの街」がありました。私は同じ台東区の東上野で生まれ育ちましたが、「アリの街」の存在は耳にしたことがある程度でした。また、ポーランド人修道士のゼノ・ゼブロフスキーさんが全国各地で戦災孤児の救済に尽力し「アリの街」でも支援活動をしたことも、「アリの街のマリア」と呼ばれた北原怜子さんが、この街で暮らし献身的に貧しい人のために支援をしたことについても数年前まで知りませんでした。

 

きっかけは1冊の本だった

北畠さん)「アリの街」について詳しく知ったのは、1冊の本との出会いがあったからでした。実行委員会副委員長の陶山さんに紹介してもらった、石飛仁さんの著書である「風の使者ゼノ」という本です。ゼノさんと北原さんの支援活動を知り感激しました。

 

陶山さん)著者の石飛仁さんと私は同郷の生まれで以前から付き合いがあり、北畠さんに本を紹介しました。この縁がきっかけとなり「アリの街」のことを伝えていく活動が始まりました。

 

北畠さん)石飛さんと陶山さんと3人で、かつて「アリの街」があった場所に行ったことがあります。公園として整備され、東京スカイツリーの撮影スポットとなり、「アリの街」の面影はまったくありませんでした。忘れ去られてしまうという危機感を覚え、風化してほしくないという思いが生まれました。

 

広がる活動の輪

北畠さん)地域の有志で実行委員会をつくり、石飛さんが取材で集めた資料をお借りし、写真資料展を計画しました。活動を始めたころは右も左もわからない状況でしたが、写真資料展を2回開催することができました。写真資料展にはポーランド大使やローマ法王庁大使が来場し、メディアの取材も受けました。まさかこんなに反響があるとは思ってもみませんでした。その後、「アリの街」の写真を持っているという方も新たに見つかったり、当時北原さんとともに住んでいた方の講演会が実現したりと、活動の輪が広がっていきました。さらに、今年の6月には当会が企画した北原さんを主人公とした演劇が上演されました。

 

岩浦さん)この演劇が若い人に興味を持ってもらえるように、エンターテイメント性を盛り込み、プロジェクションマッピングの活用や、ダンス、歌、衣装も工夫しました。ほぼ満席の約370名の方にご来場いただきました。今度はゼノさんを主人公にした演劇をやってみたいと考えています。

 

「アリの街」を通して見る「今」

陶山さん)「アリの街」に住む人は偏見の目を向けられることもあったと聞きます。そんな状況でもゼノさんや北原さんは特に子どもたちを支え続けたのです。これが戦後のボランティアの原点だという方もいます。また、「アリの街」の人たちは戦後、自立して共同生活を営んでいました。年月が経っているのに今メディアに取り上げられるなど反響があるのは、いじめや自立など現代社会の課題と重ね合わせて見ることができるからではないかと感じています。

 

岩浦さん)現代の若い人たちは、「何をしたらいいかわからない」という方が多いように思います。「アリの街」の人たちの自立した自発的な姿は、若い人たちが何か物事を始めるにあたってのきっかけにもなるかもしれないと感じました。

 

陶山さん)私たちは、次の世代に「アリの街」について伝えていくために、本や映画、講演会、演劇、写真資料などの手段を用意しています。それらを活用してさまざまな人に知ってもらえるような活動を広げていきたいです。来年は日本とポーランドの国交樹立100周年の年なので、特別なことができないかと考えています。また、貴重な写真や資料を保管するための資料保存館の設置をめざしています。

北畠さん)「アリの街」の人たち、ゼノさんと北原さんと同じ時代、同じ身近な地域で生活していた者として、この事実を次の世代に伝え、1人でも多くの方に知っていただきたいと思っています。

 

  • アリの街実行委員会
    委員長 北畠啓行さん
    副委員長 陶山孝一さん(あらかわモデル創造プロジェクト)
    広報担当 岩浦さちさん(エンターテイメントユニット自由の翼主宰)
    Twitter @arimachiphoto
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名称
アリの街実行委員会
概要
アリの街実行委員会
事務局TEL 03-3831-2030(北畠さん)

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