品川介護福祉専門学校、練馬障害福祉人材育成・研修センター、調布市福祉人材育成センター
身近な地域における福祉人材の育成・確保(下)〜区市町村域の人材研修センターの取組み〜
掲載日:2018年9月21日
2018年9月号 NOW

 

あらまし

  • 身近な地域における福祉人材の育成・確保(上)では、東京都内で設置がすすんでいる区市町村域で福祉人材を育成するためのセンターのうち、千代田区、世田谷区、町田市の各センターの取組みを紹介しました。そこでは、「身近な地域だからこそ」の福祉人材の育成・確保の意義も見えてきました。今回は、引き続き、品川区、練馬区、調布市の取組みを紹介し、地域における拠点としての意義を考えます。

 

 

現場のニーズに即した研修を通じ、ネットワークをつくる~品川介護福祉専門学校  品川福祉カレッジ

右  品川介護福祉専門学 事務係長 松谷浩さん
左 品川介護福祉専門学校 事務長 荒井俊子さん

 

品川介護福祉専門学校は、地域で活躍する福祉人材の養成や育成を目的として、平成7年に品川区社協が設立し、運営している専門学校です。全日制の介護福祉士養成課程のほか、通信制の社会福祉士養成コースや介護福祉士実務者研修コースをそろえ、27年度からは地域の担い手を育成する「すけっと品川養成講座」も開始しています。

 

同校が企画・運営する「品川福祉カレッジ」は、区内の福祉サービス従事者の専門性と実践力の向上を継続的に支援し、関係職種の連携を推進する研修機関として14年に開設され、現在は、「認知症ケア専門コース」、歯科医師会と連携した口腔機能向上・ケア講座をはじめとする課題別の「オプション講座」、そして「障害者ケアマネジメント講座」で構成されています。

 

受講者層や研修ニーズについて、事務係長の松谷浩さんは「かつてはベテランが多かったが、次第に中堅となり、今は初任者中心になっている。しかし、現場の課題をどう解決していくかというベーシックなニーズは変わらない」と説明します。そして「制度の変わり目など、背景動向をつかめる内容も関心が高い。今年度は地域包括ケアを重点にしているが、ニーズを先取りしてしかけていくことも重要」と指摘します。また、「地元でつながりをつくりたいという従事者が多く、現状への危機意識や学びへのモチベーションが高い」と話します。

 

17年に開講した認知症ケア専門コースは、本人本位の視点を大切にする「センター方式」をベースにして、地域型基礎研修と施設ケア研修を行っています。両研修ともグループワークのファシリテーターは、研修の受講経験者約20名が務めます。研修終了後には振り返りの機会をもち、そこから次の研修企画につなげることもあります。ファシリテーターを数年間務めた受講経験者は、研修のインストラクターとして、また施設や事業所におけるスーパーバイザーとして後輩を引っ張っていく存在となります。こうした人材を地域に増やしていくことが、ケアの質のベースアップにつながっていきます。また、研修を通してケアマネジャーや民間事業者など多職種・多機関のつながりが生まれ、そのネットワークが区内20か所の在宅介護支援センターを拠点に推進する地域包括ケアの取組みに活かされています。

 

事務長の荒井俊子さんは「地域内の社会資源の配置状況をふまえ、現場の問題意識に直結した研修を実施しながら、ネットワークをつくることができるのが地域密着型の利点。これまで同様、品川の地域をよくしたい、ケアの質を上げたいという思いで取組みをすすめていきたい」と展望を話します。

 

「目指すべき人物像」・・・地域で育てたい人材とは?~練馬障害福祉人材育成・研修センター

右  練馬障害福祉人材育成・研修センター
所長 益子憲明さん
左  練馬障害福祉人材育成・研修センター
主任主事 山口美重さん

 

練馬障害福祉人材育成・研修センターは、平成25年度から練馬区社協が区からの委託を受け障害分野に特化した研修を行っています。同センターでは、運営協議会を年3回開催。委員は、障害当事者、家族、行政、障害福祉サービス事業所職員、学識経験者等です。同センター所長の益子憲明さんは、「各委員から事業運営について、さまざまなご意見や協議をいただきながら一緒に創りあげている」と話します。

 

運営協議会では28年度に「目指すべき人物像」を定め、それに沿って新たな研修体系、カリキュラムで研修を実施しています。目指すべき人物像の基礎的な部分に「価値・倫理」「障害者権利条約」を位置づけ、そこを積み上げたうえでの「知識」「技術」の習得を目指しています。「事業所の職員である前に人。地域でどういう人材を育てていきたいかの議論を重ねたと聞いている」と、同センター主任主事の山口美重さんは話します。目指すべき人物像を定める前に区内でどのような研修が行われているか全体像を把握する作業を行ったところ、区民向けの研修や従事者向けの専門的な研修は一定程度あることが分かりました。そこでセンターとしては包括的に、かつ練馬区全体の底上げを目指せるよう基礎研修を充実するとともに、次世代を担う中堅以上の職員の学びや横のつながりを深めるきっかけとなるよう階層別研修を行っています。

 

 

受講者アンケートでは、「自分の支援を振り返る機会になった」「学んだことを職場に持ち帰りたい」という意見が多く挙がります。この結果について益子さんは「障害分野は今、子どもから高齢期まで幅広い視点の中での『今』と向き合う大切さを実感しています。それぞれの立場で日々活躍されている従事者のみなさまが、横のつながりを築きながら、障害者の豊かな生活を目指すうえで、是非センターの研修を活用してもらえたらと考えている」、そして、「支える側・支えられる側という関係ではなく、地域でともに支え合い、学び合うというのが社協らしさ」と話します。

 

さらに、高齢分野を対象に練馬区社会福祉事業団が運営している「練馬介護人材育成・研修センター」との共催研修や両センターで行っている研修に分野を超えて参加できる相互受講研修も行っています。この取組みはそれぞれの分野の事業所が高齢・障害という枠を超えてともに学び、交流する場になっています。

 

身近な『動く事務局』として調布の福祉で活躍する人を育てる~ 調布市福祉人材育成センター

 

                右 調布市福祉人材育成センター福祉人材育成係

                係長 田村敦史さん

                左 調布市福祉人材育成センター

                主任 大光加奈子さん

 

調布市福祉人材育成センター」は、市の補助を受け、平成27年度から調布市社協が設置・運営しています。「調布の福祉で活躍する人を育てる」ことを目的に、(1)福祉人材の養成(資格研修・就労支援)、(2)専門性の向上、(3)市民参入に向けた普及啓発、(4)ネットワークの形成に取組んでいます。その成り立ちは、市が設置する調布市障害者地域自立支援協議会で障害特性に応じた支援、障害当事者が参画する人材育成の必要性が打ち出されたことに始まります。

 

同センターの運営にあたって、社協がこれまでに培ってきた障害当事者や事業所との関係と経験は強みとなっています。また、「さまざまな人材を育てる器」となりうる他部署の取組みと連携をとることもできます。そして、受講者や講師との距離の近さも特徴のひとつです。

 

これから福祉の仕事をめざす受講者に対しては受講者の意欲や関心の『動機づけ』、仕事を選択する際の自己決定を『支援する』ことを大切にしています。同センター係長の田村敦史さんは、「私たちは『動く事務局』として、受講者や講師等とまずは話す。また、フォローアップとして、研修後の近況確認なども行う。例えば、地域での活躍を希望する障害当事者が受講し、障害に応じた適性をともに模索して活動へとつなげた事例もあった。丁寧に対応し支援できるのは、受講者や事業所との距離が近い地域のセンターならでは」と話します。

 

市内福祉事業所ですでに従事している職員を対象にした研修では、「階層別研修」の参加条件を緩やかにしています。また、テーマを広く設定することで多職種が参加できる研修にし、参加者同士が顔見知りになる機会をつくり、学びを通じた事業所同士のネットワークの構築をめざしています。さらに、研修の他にも、年に一回、市内の福祉事業所職員による実践報告会「ちょうふ福祉実践フォーラム」を実施しています。

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身近な地域で地域のことを担う人材が育つ。専門職、地域住民、当事者といった枠組みにとらわれず顔の見える関係で人と人とが垣根を超えてつながることができるのが身近な地域ならでは。地域の人材育成の拠点としての大きな意義となっています。

取材先
名称
品川介護福祉専門学校、練馬障害福祉人材育成・研修センター、調布市福祉人材育成センター
概要
品川介護福祉専門学校
http://www.shinasha-yoiku.or.jp/kaigo/
練馬障害福祉人材育成・研修センター
https://kensyu.neri-shakyo.com/
調布市福祉人材育成センター
http://jinzai.chofu-city.jp/
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