フローラ石神井公園 施設長 兒玉 強さん
あらまし
- 練馬区にある(社福)練馬豊成会特別養護老人ホーム「フローラ石神井公園」施設長の兒玉強さんは、お客様から言われた「あんたのところに来て良かったよ」という言葉を大切にしながら施設を運営しています。
今年7月、フローラ石神井公園では、特別支援学校に通う知的障害を持つ生徒を実習生として受入れました。これははじめての試みでした。兒玉さんは「話を聞いたとき、ぜひ実習生を受入れてみたいと思った」と言います。
実習生の受入れに対する想い
実習生が光るまで磨いた車いす
5日間の実習内容は、洗濯物を各部屋へ配布、食事の配膳、車いす磨き、ペーパー類補充でした。「介護職員の人手不足で車いすの掃除まで手が回らず、汚れた車いすは買い替えようと思っていたところだった。しかし、今回実習生が1台20分くらいかけて丁寧に磨いてくれたので、買い替えずに再利用できる」と磨かれた車いすを見せてくれました。
総務部主任の齋藤竜大さんは「ひとつのことに集中して丁寧に取組む実習生の姿を見て、施設にとって非常に大きな力になると思った。実習期間中だけでここまで覚えられる生徒なので、今後はもっとできることが増えると思う」と受入れた実習生の可能性について話します。
齋藤さんは実習中の印象的なエピソードとして、「たんすの前に車いすが置いてあったとき、洗濯物が入れられなくてどうしたら良いか困っていた。それは、他人の物を勝手に動かして良いのか迷っていたのだと思う。また、部屋に入るときも必ず丁寧に挨拶をしていたり、ニコニコしながら自分の気持ちを正直に話す姿は、真面目な印象を受けた」と振り返ります。兒玉さんも「実習生と話すお客様の表情も和んでいた」と話します。
フローラ石神井公園 総務部主任 齋藤竜大さん
義父の誘いで施設長へ
フローラ石神井公園は、長年、町会長を務めていた兒玉さんの義父の本橋成夫さんが「下石神井には高齢者施設がないから特別養護老人ホームを立ち上げたい」という想いから、平成15年に設立されました。その際、理事長となった本橋さんから「施設長が必要だからやってくれないか」と声をかけられたことがきっかけで、現在に至ります。
兒玉さんははじめて福祉の業界に入りましたが、以前もサービス業界で働いていたこともあり、入居者を「利用者」と呼ぶことに違和感がありました。そこで、職員には入居者を「お客様」と呼ぶよう徹底しました。
人手不足の介護職員を少しでも手伝ってあげたいという想いもあり、兒玉さんは毎朝6時半に出勤し、館内の窓を開閉し、9時頃まで食事の配膳・下膳、食堂清掃などを行っています。兒玉さんは、「毎日同じ時間に同じお客様を見ているので職員以上にお客様の体調や様子の変化が分かるようになった」と言います。そんな施設長の姿を見て、今は一部の地域包括支援センター職員と居宅介護支援事業所の職員も手伝ってくれています。
また、夕方には施設職員が30分ほど地域の防犯パトロールに取組んでいます。兒玉さんはこうした日々の仕事を通じて、福祉の仕事は人の想いで成り立つ仕事だと感じています。
特別養護老人ホームで運動会を開催
兒玉さんは「ここに入居しているお客様の多くが要介護度4以上だが、介護職員は日常の生活介護以外にもお客様を楽しませることができるはず」と考えています。
6年ほど前のこと。介護職員から「運動会をやりたい」という提案があり、「じゃあ、企画書をつくって」と伝えました。基本的に競技内容は介護職員のみで考えます。この運動会は毎年楽しみにしているお客様や家族もいるので、万国旗を飾ったり、景品を工夫しながらこれからも続けていくつもりです。兒玉さんは「職員には介護以外にも幅広く興味を持って、いろんなことをできるようになってほしい」と職員への想いを話します。
また厨房の機能を活用し、近隣の住民等に声をかけて食事イベントを企画しています。これは施設に招待して雰囲気を知ってもらう機会を設けたいという想いからです。
写真家故 管洋志さんとの出会い
当時の写真を見返す兒玉さん
福祉広報表紙写真の撮影者で、写真家の故 管洋志さん。管さんとの出会いは、管さんの教える日本大学芸術学部写真学科の学生が、撮影実習で高齢者施設を使用したいと相談があったことがきっかけでした。兒玉さんは「これは何かのご縁」と思い、フローラ石神井公園の高齢者の暮らしの場を撮影会場として提供しました。「洋志さんの写真の中で特に印象に残っているのは、入れ歯のケースやコップだけが映っているもの。まるで生き物みたいに歩き出しそうなものばかり。お客様の写真もしわの深さが一本一本キレイに映っていて、一人ひとり歩んできた人生が物語っている」と兒玉さんは当時の写真を見ながら話します。
兒玉さんは「管さんが写真を撮るときは、カメラは構えずにお客様と他愛のない話をしていることが多かった。その姿を見て、こういう愛情が理想だといつも思っていた」と振り返ります。
これからの施設運営について、兒玉さんは「いくつものご縁を活かしながらさまざまな垣根を越えて、外部の人とつながりを持つことを大切にしたい。それが共に生きることへの第一歩」と話します。
→関連記事 「人情が好きで生きた父」(2018年9月号 くらし今ひと)
http://flora.or.jp/wordpress/