津久井やまゆり園事件を考え続ける会
やまゆり園のこれからと私達の未来
掲載日:2018年10月9日
2018年10月号 TOPICS

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あらまし

  • 平成28年7月26日、神奈川県相模原市にある県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」で、元職員の男により19人の尊い命が奪われ、27人が負傷するという事件が発生してから2年が経過しました。神奈川県は、29年10月に「津久井やまゆり園再生基本構想」を策定し、それに従い、33年度には2か所に新施設が再建する予定としています。当時の利用者は、現在、横浜市港南区の「津久井やまゆり園芹が谷園舎」を中心に生活をしていますが、基本構想に従い、意思決定支援の取組みを強化する中で、グループホーム(以下、GH)など地域での生活をめざす方も出てきています。
    今年7月29日、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」が主催するシンポジウム「やまゆり園のこれからと私達の未来」が、かながわ県民センターにて開催されました。

 

 

世間、社会に問い続ける

開会挨拶では、津久井やまゆり園の利用者家族の立場である平野泰史さんが「事件から2年が経過し、関心の薄れも感じている。世間、社会に問い続けたい」と話し、参加者全員で1分間の黙とうを捧げました。

 

続いて、2人が登壇する講演が行われました。まず、初めにRKB毎日放送の東京報道部長であり、自閉症児の親でもある神戸金史さんが登壇しました。神戸さんは事件当時の心境について「障害者を狙ったということが、自分や自分の家族に向けて刃を向けてきたと感じ、心がやすりで削られる想いだった」と表現します。そして、「被害者が匿名を希望したことにより、被告の言葉だけが報道された」と指摘しました。取材を申込み、これまでに4回被告と対面したと説明し、「被告が行ったことは、他人との間にある一線を引いて、その線の向こうにいる人やその存在を認めない行為。今の世の中に少しずつ広まっているのかもしれない」と懸念を示しました。

 

次に、川崎市の障害者支援施設、(社福)川崎聖風福祉会「桜の風」で3月まで施設長を務めた中山満さんが「重度障害者の地域移行への取り組みを通して伝えたいこと」をテーマに登壇しました。

 

中山さんは「事件当時、被告にそう思わせてしまう何かがあったのではないか、自分の施設ではどうかと考えた」と話し、「今の障害者入所施設がどうなっているのかを考えていく必要がある」と指摘しました。また、津久井やまゆり園再建については、「同じ場所に同規模の施設」が多くの家族の願いだったと説明し、「川崎市では入所施設が少なく、1人募集すると毎回150〜200人の応募がある。親の平均年齢は70〜80代。入所希望理由は、親の認知症や疾病の場合が多い。しかし、利用者本人に『本当はどこで暮らしたかったの?』と聞くと、大半が『お父さんお母さんとお家で暮したい』と答える」と言います。
中山さんは、「桜の風では、地域と同じ環境と生活を保障し、できるだけ早く地域で生活できるように通過型の施設を意識してきた」と説明します。具体的には、「5年間で30人、精神では40人、計70人の地域移行をしてきた。地域移行に失敗したら施設に戻ることを保障し、何度でもチャレンジできるようにしている」と話します。また、「施設入所にあたっても、本人同席のもと意思を確認しサインしてもらう。両親にだけ説明し、本人の気持ちが取り残されたままでは、地域で生きていくことを決意して生活していくステップにはならない」と指摘します。そして、「入所施設は社会から切り離された隔離された場所にしてはいけない。地域と同じ生活を確保していければ」と話しました。

 

シンポジウムの様子

 

 

 

被害者の年齢と性別が書かれた献花台

 

 

本人中心の意思決定支援とは

後半は、東洋英和女学院大学教授の石渡和実さんを司会に、4人の方が登壇しました。

 

本人の会サンフラワーの奈良𥔎真弓さんは、当事者の立場から「自分にも自分の兄弟にも障害がある。やっと自分の障害を理解したところだったので、自分がここにいていいのかわからなくなった。心が割れた」と当時の心境について話しました。

 

(社福)県央福祉会の岸茂子さんは、「一番ショックだったのは保護者の疲れ切った表情。私たちの子どもは社会のお荷物なのか、生きててはいけない子どもなのかと保護者から言われた」と言います。そして、「入所施設じゃないと重い障害のある人は暮せないのか。GHを運営する立場で、何か行動を起こしたいと思った」と話しました。

 

神奈川県福祉子どもみらい局 福祉部共生社会推進課で、津久井やまゆり園再生に務める後藤浩一郎さんは、津久井やまゆり園再建にむけた現在の取組み状況について説明しました。再生基本構想は、主に、①意思決定支援、②施設整備、③地域生活移行の3つが柱となっています。特に①意思決定支援では、一人ひとりに尊重されるべき意思があり、それを適正な手続きを通じて支援していくとしてます。肝となっているのは、本人を中心に、保護者、サービス管理責任者、市のワーカー、県職員など、それぞれに権限を持った立場の10数人のステークホルダーが一堂に会し、大きな決定がその場でできるしくみです。津久井やまゆり園利用者への意思決定支援においては、33年度の暮らしの場を決めるためだけではなく、仕事、家庭、仲間、社会参加、生活のありようなど、一生涯にわたることについて支援をしていくことが意識されています。利用者126人に対して行われる予定で、実際に約90人の方については、既にこの意思決定支援がスタートしています。課題は、会議体が大きいことにより、本人・家族が驚いたり不安に思ってしまうことや、関係者間の情報共有の難しさ、そして、本人不在の議論にならないように会議を進行することです。後藤さんは、「相談支援専門員にファシリテートしてもらっているが、そのような力をさらに高めていく必要もある」と指摘します。

 

平野さんは、28歳の息子が意思決定支援を経て、6月に芹が谷園からGHに移りました。「息子の会議には17人が集まったが、スムーズにすすんだ。会議の前に、GHで2回体験したので、本人も家族も施設での生活と比較できた。本人の意思を引き出すためにも、どこかで体験の機会があると良い」と話します。

 

岸さんも、「新たにGHをつくる際、利用を希望する方には、半年くらいかけて建物をつくるところを一緒に見に行ったり、どの部屋が良いか、カーテンや家具はどうしようかとやり取りをする。時間をかけてでも体験は不可欠」と指摘します。

 

最後に、石渡さんから「当事者は、これからどんな役割を果たしていくべきか」と問われました。奈良𥔎さんは、「事件後変わったことは、テレビや新聞に出るようになったこと。これまでは、親や先生、職員が代弁してしまうことが多かったが、自分の言葉で話そうという気持ちになってきている」と話しました。

 

石渡さんは「当事者の体験や意思決定をどう生かすかも今後重要な視点」と締めくくりました。

 

 

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津久井やまゆり園事件を考え続ける会
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津久井やまゆり園事件を考え続ける会
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