茨城県つくば市、つくばみらい市
「平成27年9月関東・東北豪雨」災害から周辺自治体への広域避難について考える
掲載日:2018年12月7日
2018年12月号 TOPICS

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あらまし

  • 平成27年9月9日に上陸した台風18号の影響により、関東や東北地方で記録的な大雨となり、広範囲で浸水被害や土砂崩れが起こりました。甚大な被害を受けた茨城県常総市では市役所も浸水被害を受けました。隣接するつくば市とつくばみらい市は常総市からの要請を受けて、常総市の避難者の受入れを行いました。

 

つくば市での取組み

発災当時、つくば市内にいる常総市民から「常総市に戻れない」と電話で連絡を受け、状況確認後、避難所を市内に開設することにしました。夏場ということを考慮して、エアコン設備があり、各10名を受入れできる施設を選びました。最終的には、7か所の一般避難所と5か所の福祉避難所を開設しました。

 

福祉避難所は26年に協定を結んだ民間の福祉施設に開設しました。つくば市保健福祉部社会福祉課係長の木本昌昭さんは「この協定は、他市の住民を受入れることは想定していなかった」と話します。当時開設した福祉避難所には2つの経緯があります。1つは常総市にある福祉施設の要配慮者をつくば市内の同系列福祉施設で受入れたケース。もう1つは、つくば市内の一般避難所にてつくば市の保健師が常総市民の状況を確認し、ハイリスクだと判断したときには、つくば市役所社会福祉課が窓口となって調整し、福祉避難所にて受入れたケースです。後者の経緯から福祉避難所の利用に至ったのは、高齢者が30人、身体障害者1人です。移送は主に福祉避難所の職員や要配慮者の家族が担いました。避難所では相談受付のチラシを掲示するなどして、不安なことは常駐している保健師に相談できるしくみをつくりました。

 

同市市長公室危機管理課課長補佐の鬼塚宏一さんは、「他市の住民を受入れるにあたってかかる経費は災害救助法の適用になることを事前に内閣府へ確認し、県の指示が出る前から準備をしていた」と振り返ります。当時、被災前に常総市の要配慮者がどのような福祉サービスを利用していたかについて把握できていませんでした。災害救助法との兼ね合いを考慮して、介護保険の「緊急短期入所」に切り替えることを常総市に提案し、対応しました。

 

「今回の災害は、逃げ遅れて布団の上で亡くなった人がいない。これはしっかり地域の中でコミュニティが築かれていたからこそ」と鬼塚さんは顔が見える関係の重要性を強調します。

 

(右から)

つくば市市長公室危機管理課 主任   鈴木 誉幸さん

                                 課長補佐   鬼塚 宏一さん
        保健福祉部社会福祉課 係長   木本 昌昭さん
                                                    國府田 悠葵さん

 

つくばみらい市での取組み

つくばみらい市は、人的被害はなかったものの、建物等被害は57件にのぼりました。つくばみらい市も、常総市から「避難所が不足しているから避難者を受入れてほしい」と要請を受けました。そこで、つくばみらい市民の受入れ避難所とは別に、常総市民の受入れを想定して「つくばみらい市総合運動公園」と「きらくやまふれあいの丘すこやか福祉館」の2か所で避難所を開設しました。DMAT(災害派遣医療チーム)の医師や保健師のアドバイスからサポートが必要だと判断した避難者は、各避難所で必要な対応をとりました。

 

つくば市同様、避難者の状況は受入れるまでわかりませんでした。医療体制の確保はDMATなどの医療支援チームが、ほぼ毎日避難所を訪問し、医療的なケアが必要な人へ対応を行っていました。精神的なケアを要する避難者については、保健師がサポートする体制がありましたが、なかには本人の意思により車内で過ごす人もいました。子どもたちへは市内のサッカークラブチームが、サッカーを通じて交流してもらったことが子どもたちの精神的ケアにつながりました。なかには、つくばみらい市社協が呼びかけて集まったボランティアが、避難者の話に対し傾聴してくれる場面もありました。

 

避難所運営にかかわる職員は昼間に多く配置していました。つくばみらい市総務部安心安全課係長の大久保正道さんは「夜間に体調を崩す人や車上荒らし防止のために見回りを行っていたため、夜間に配置する職員の人数を増やした方が良いという意見もあった」と振り返ります。また、手配した段ボールが届かなかったため、すぐに仕切りを作ることができませんでした。数日経って、仕切り用の段ボールが届き、「きらくやまふれあいの丘すこやか福祉館」でも、避難者に仕切りを作るようにすすめました。しかし、避難者から「避難者同士で仲良くなったので仕切りは必要ない」という声がありました。「仕切りがない分、避難者同士が会話をする機会となり、お互い支えあっていたのだと思う」と同市社協ボランティア市民活動センター長の松尾好明さんは指摘します。家族と離れて避難所生活を送っている避難者もいましたが、「『家族の安否がわかれば良い。一緒の避難所へ移動せずここにいたい』と話す人がいた。それは、ここの避難所の居心地が良いという理由ではなく、別の避難所でのルールや新たな付き合いなどコミュニティが変わることが不安だったのではないかと思う」と同市市民経済部市民サポート課課長の豊嶋千恵子さんは言います。また、同市保健福祉部社会福祉課課長補佐の成嶋均さんは「避難者同士が声をかけ合う雰囲気だったので、職員が気付けない避難者の変化を、避難者に教えてもらうことがあった」と話します。

 

「きらくやまふれあいの丘すこやか福祉館」には、0歳から92歳まで幅広い世代が避難していました。松尾さんは「避難してきた高齢者は80代が多かった。洗濯機が届く前は洗濯板と桶を使って各自自分で洗濯できるくらいADLがしっかりしていた」と振り返ります。続けて「職員が全て手を差し伸べることが良いわけではない。今後の日常生活を考慮し、避難所でもこれまで通り普段の生活ができるように工夫することが大切」と強調します。

 

 (右から)
つくばみらい市保健福祉部社会福祉課 課長補佐     成嶋 均さん

                    市民経済部市民サポート課 課長        豊嶋 千恵子さん
                                総務部安心安全課 係長       大久保 正道さん
       つくばみらい市社会福祉協議会  事務局長      浅川 昭一さん
     ボランティア市民活動センター センター長      松尾 好明さん
                                         総務係兼事業係      坂本 清貴さん

 

経験をふまえて「減災対策協議会」を発足

被害が広域にわたる災害では、市内の避難所だけでは避難者を収容できず、市外への避難を行う必要があります。しかし、当時は市町村間で決めごとがなく、初動対応に時間がかかりました。そこで、28年2月に鬼怒川とその隣接する小貝川の下流域の10市町(つくば市、常総市、つくばみらい市、筑西市、八千代町、下妻市、龍ヶ崎市、守谷市、取手市、結城市)と茨城県、国土交通省等で構成する「鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」を発足し、減災に取組んでいく方針を決めました。協議会では、市町村間の広域避難について検討しています。これにより事前に避難予定者数の把握や受入れる避難所の開設準備ができるようになります。

 

※事例のさらに詳しい内容は「災害に強い福祉」実践ポータルサイトでご覧になれます。

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取材先
名称
茨城県つくば市、つくばみらい市
概要
茨城県つくば市
http://www.city.tsukuba.lg.jp/

つくばみらい市
https://www.city.tsukubamirai.lg.jp/
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