(社福)大三島育徳会、(社福)よしの保育園、(社福)東京都手をつなぐ育成会
私たちが職場体験にくる中学生に伝えたい福祉の魅力
掲載日:2019年2月15日
2019年2月号 NOW

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あらまし

  • 東社協が実施した調査では、毎年多くの福祉施設が中学生の職場体験を受入れており、初任者職員が福祉に関心を持ったきっかけにも、職場体験やボランティア活動が上位にあがっています。そこで、より積極的な情報発信をすすめるため、平成29年度から「福祉の魅力可視化プロジェクト」(座長:田園調布学園大学人間福祉学部学部長 社会福祉学科教授 村井祐一さん)を設置しています。プロジェクトには高齢・保育・知的障害の部会を通じて選出された委員がメンバーとして参加しています。同委員を通じて、各部会でモニター施設を選び、中学生の職場体験時の取組みや受入れへの想いをヒアリングしました。本号では、それぞれの施設で実施している体験内容や中学生に伝えている福祉の魅力を紹介します。

 

福祉の専門性や高齢者の生活 ―特別養護老人ホーム博水の郷

(社福)大三島育徳会の特別養護老人ホーム博水の郷では、受入れ人数の上限を設けずに職場体験を実施しています。

 

まずは職場体験に来る中学生から施設に連絡があり、事前オリエンテーションの日時を決めます。当日は、中学生へ博水の郷で決めた体験内容や目的、利用者のことを話します。守秘義務のことを話した後には、個人情報保護に関する誓約書を記入してもらいます。中学生の参加理由は「ボランティアで来たことがある」「高齢者が好き」などでした。さらに職場体験初日までの事前課題として、福祉のイメージなどを問う質問シートを渡して職場体験初日に持って来てもらいました。

 

職場体験受入れ担当の山本伸秀さんは、「中学生にとって、最初は半日利用者の話し相手することで精一杯。中学生が困ってしまう場面で職員が効率良く対応している姿を見ると中学生は驚き、職員のプロの姿が伝わり感動してくれる」と話します。また、1日約1時間体験の時間を設けて、さまざまなタイプの車いすに乗ってもらったり、とろみのついた紅茶を飲む体験をしてもらいます。中学生が「美味しくない」と反応をすると、山本さんは「そうだよね。だけど水分をとらないと身体に良くないから一生懸命飲むんだよ。もし飲まないとどうなっちゃうと思う?」と、シリアスな話も盛り込みながら説明します。最終日のふり返りの時間には、職場体験を終えて感じた福祉のイメージをあらためて質問してみました。「どのような仕事が福祉だと思いますか?」という質問で、職場体験前には「社会のために尽くしてきた方への恩返し」と答えた中学生が、体験後には「利用者さんと新しい思い出をつくる仕事」と答えていて、中学生らしい視野の広がりがみられました。

 

一方、中学生を受入れることで職員にも変化がありました。それは、中学生だからこそ見つけられる視点に気づいたこと、自分たちのケアを見られている意識を持つようになったことです。山本さんは「中学生が来ることで利用者に笑顔が増え、職員にも活気が出た」と感じています。

 

(社福)大三島育徳会
特別養護老人ホーム博水の郷 山本 伸秀さん

 

遊ぶだけではない仕事の奥深さ ―よしの保育園

(社福)よしの保育園では、職場体験を10年前から毎年約5名受入れています。卒園児が職場体験に来ることもあります。

 

主任の落合ますみさんは「職場体験初日、緊張している中学生は、子どもたちから『お兄さん、お姉さん遊ぼう!』と誘われるなど嬉しい出来事がきっかけで慣れてくる」と言います。続けて「男子生徒はサッカーや鉄棒などダイナミックなことを見せてくれる。普段保育士には限界があるので、子どもたちへの良い刺激になっている」と印象的なエピソードを話します。職場体験の内容は、子どもと遊ぶ時間を多くするため、ハイキングや焼き芋会など園の行事を取り入れて中学生に手伝ってもらうようにしています。

 

保育士の仕事は子どもとうまく遊ぶだけではありません。それを知ってもらうため、子どもたちがお昼寝している時間には園舎の掃除やおもちゃ拭きなど環境整備にも携わってもらっています。園長の増澤正見さんは「『保育士の仕事は子どもと遊んでいるだけだと思っていた』『お昼寝の時間は保育士も寝ているのかと思っていたが、子どもの安全を見守る責任のある仕事』と中学生に気づいてもらうことが多い」と言います。職場体験の時間が終わると、学校に戻って部活動に励む中学生もいます。落合さんは「なかなかゆっくりとふり返りの時間が確保できないのが残念。『大変だったけど楽しかったね』と感じてもらえるような、実りある職場体験になるように心がけている」と話します。

 

職場体験後には「職場体験新聞」が受入れ中学生ひとりずつから送られてきました。学校から仕事のやりがいや必要な資格などを職場体験期間中に職員へインタビューするという宿題を持ってきており、新聞には職員が答えた内容が書かれています。一人ひとりの個性があって面白く、受入れて良かったと思う瞬間です。

 

増澤さんは「最初は職員の負担が大きく職場体験に否定的な時期もあった。しかし前任の主任が『私たちも地域に見守られて育ったのだから、中学生の受入れは恩返しだと思う』と、地域で見守る意義を伝えてなだめたこともある」と言います。そして次世代育成にとっても職場体験は必要だと考え、受入れを継続しているよしの保育園では、職場体験を経験した卒園児が31年春に新規採用になり、一緒に働く予定です。

 

 左から  (社福)よしの保育園
園長 増澤 正見さん
主任 落合 ますみさん

 

障害との関わりを通じて得られる人としての成長 ―大田区立くすのき園

大田区立くすのき園では、毎年近隣の2つの学校から中学生が3名ずつ職場体験に来ます。体験先の選定理由や職場体験で学びたいことは事前に情報提供がないため、事前オリエンテーションの会話の中で把握していきます。中学生からは、「人と関わる仕事をしてみたい」「親が福祉のしごとをしている」などが出てきます。中には、幼い頃にお祭りでくすのき園に来たことがある中学生もいました。

 

朝礼のときに、中学生は利用者に温かく迎えられます。支援係長の紀伊良彦さんは「もともと子どもが好きな利用者が多い。利用者にあらかじめ『きっと中学生は緊張しているから頼むよ〜』と声をかけておくと、『どこから来たの?』『いま何年生?』と積極的に質問してくれるので、自然と緊張がほぐれていく」と話します。中学生は徐々に利用者の輪に溶け込みながら、「縫製」「木工」「軽作業」の作業に分かれます。紀伊さんは、「初日から分かれて入ってもらうのは、中学生同士で固まってしまわず、利用者の中に入って利用者と一緒に作業してもらいたいから」と話します。その分、昼休みの時間は利用者も職員もいないスペースを用意し、中学生だけで息抜きができるよう工夫しています。期間中は毎日約10分、最終日には30分ほどふり返りを行います。実際に体験した具体的な場面があることで、「あの場面にはこういう意味があるんだよ」と伝えることができます。紀伊さんは「まずは作業を楽しいと感じてもらいたい。そうした中で感じる『心の動き』を中学生が言葉にできると、きちんと伝わったと嬉しくなる」と話します。

 

職場体験は障害のある人との関わりを通じて得られる人としての成長も大きな学びになっています。紀伊さんは「中学生は利用者と一緒に作業することで、利用者が自分たちよりも上手に作業ができることに驚く。そうした場面で『みんなより得意なことがあるよね』と話しかけると、中学生から『偏見がなくなった。障害を持っているからできないのではなく、得意・不得意があるだけだから』とコメントがある」と言います。弱い人を助けるのではなく、共に支え合い成長できる仕事であるということを具体的に理解できる職場体験になっています。

 

大田区立くすのき園
支援係長 紀伊 良彦さん

 

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「福祉の魅力可視化プロジェクト」座長の村井祐一さんは「福祉の仕事は多くの人と出会い、その人生と触れ合い、その中で自分の人生も磨かれ、こんなにも豊かな考えやふれあいがあり、成長できる仕事であること。福祉施設での職場体験を通じて、そのような職員の生の想いを、少しでも多くのメッセージにかえて『人と関われて魅力ある仕事』であることを伝え続けていきたい」と話します。

 

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取材先
名称
(社福)大三島育徳会、(社福)よしの保育園、(社福)東京都手をつなぐ育成会
概要
(社福)大三島育徳会
http://www.oomishima.jp/
(社福)よしの保育園
http://www.yoshinohoikuen.com/index_top.htm
(社福)東京都手をつなぐ育成会
大田区立くすのき園
http://www.ikuseikai-tky.or.jp/~iku-kusunokien/index.html
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