(社福)ベテスダ奉仕女母の家 婦人保護施設 いずみ寮 支援員 髙橋 美帆さん
さまざまな生きにくさを抱えた女性に「伴走」し支援することを大切にしたい
掲載日:2019年2月21日
2019年2月号 福祉のお仕事通信

福祉広報目次へ

 

髙橋 美帆さん

 

あらまし

  • 児童養護施設からの転職を経て、婦人保護施設で働く髙橋美帆さんにおしごとの魅力を伺いました。

 

児童養護施設からの転職

私は5年前まで児童養護施設で働いていました。施設から社会的自立をする子どもたちは、頼れる家族や経済的基盤のない中で若くして社会に出ることから、困難に直面することが少なくありません。そのため、退所後の支援に何らかの形で関わりたいと思ったことが転職のきっかけです。また、私が学生の頃、施設を出た女性にお話を伺う機会がありました。私と同年代の方もいました。「厳しい生活から脱するために風俗で働くしかなかった」「寂しさから男性に拠り所を求めたけれど、性被害や予期せぬ妊娠、中絶を経験することになり、辛かった」というお話は、同じ女性としてショックで憤りを覚えるものでした。その気持ちがずっと心の奥底にあり、今の仕事につながっています。

 

先導ではなく、伴走する

婦人保護施設には、さまざまな事情を抱えた女性が生活しています。虐待やDVなどの暴力や、貧困の中にあった方、10代の若い方の利用もあります。安心できる環境で心身を休め、社会生活に必要なものを整え、自立に向けてすすんでいけるようサポートをしています。自立に必要な時間は人それぞれです。婦人保護施設には入所期間がなく、その方に必要な時間をかけて支援を行うことができます。「支援」とひとことで言っても、日常生活や就労の支援、家族関係の調整、必要な支援の手続きなど、内容は広範囲です。社会制度は複雑で、困難を抱えた方が必要な制度につながることの難しさも痛感します。支援をする中で私自身も学んでいます。

 

利用者の方の中には、過去の経験から自己肯定感がもてず、人との関わりが苦手な方も多いため、信頼関係を築くことは簡単ではありません。いずみ寮は女性たちが暮らす家であり、そこに私が入らせていただいているという感覚で働いています。支援員という立場ではありますが、利用者の方を先導するのではなく、一緒に過ごして少しずつ関係を築いていくこと、その人に合ったペースで支援をすすめていくことを大切にしています。「伴走者」というイメージです。

 

相手を理解することの大切さに気づいた

転職して気づいたこともあります。児童養護施設で働いていた頃、子どもとの面会に毎回遅刻をしたり来られなくなる親御さんがいました。そのときは一体なぜなのかと疑問でした。しかし、いずみ寮で働くようになり、子どもとの面会や就職面接などの大切な日に、緊張から体調を崩したり、不安のあまり予定通りに行動できない方たちの姿を知り「あのときの親御さんもこんな風に困っていたのかもしれない」と反省する思いでした。「親だから、大人だから当たり前」ではないのです。支援は相手を理解しようとしなければはじまりません。社会から見落とされがちなその方の生きにくさや背景に目を向けることの大切さに気づくことができました。

 

婦人保護施設は社会福祉の中でもあまり知られていない分野です。さまざまな生きにくさを抱えた女性の自立を支援する施設でありながら、丁寧な支援を行うための充分な体制は保障されていません。また、利用者の方が抱える困難は、個人の問題ではなく社会的な問題です。職員として、問題を社会化していくことが求められていると感じます。

 

「がんばろう」と思える出来事の積み重ねがある

この仕事は感情労働の側面が大きく、自分の気持ちや弱さに向き合うことばかりです。「あのときの声掛けや関わりは大丈夫だったかな」と自問自答の繰り返しです。私はこれまで何気なく生活を送ってきましたが、過去の出来事に苦しみ続ける方を目の前にしたとき「辛い経験をした人にとって、生きることがこんなにも苦しいことだなんて…」とその深刻さを突き付けられることもあります。どんな言葉をかけたら良いのかわからず、無力感を感じることさえあります。一方で、自立に向けて前向きに歩みをすすめていく姿を目にすると「人の生きる力はすごい」と胸が熱くなり、私が勇気づけられます。利用者の方と笑って過ごすひとときや、かけていただく「ありがとう」の言葉に励まされることも多く「明日もがんばろう」と思える大きなエネルギーになっています。

 

落ち込むことがあれば周りの職員に相談し、聞いてもらえることでホッとできます。また、外部研修などで他施設の職員と顔を合わせると「共にがんばっているんだな」と心強く感じます。そうした職場環境や機会をありがたく感じますし、大事にしていきたいです。一つ一つの出来事の積み重ねを大切に、これからも仕事に励みたいと思います。

 

プロフィール

  • 髙橋 美帆 Miho Takahashi
  •  
  • 社会福祉法人ベテスダ奉仕女母の家
    婦人保護施設 いずみ寮 支援員 社会福祉士

 

福祉広報目次へ

取材先
名称
(社福)ベテスダ奉仕女母の家 婦人保護施設 いずみ寮 支援員 髙橋 美帆さん
概要
(社福)ベテスダ奉仕女母の家
https://www.bethesda-dmh.org/
タグ
関連特設ページ