東京都大島町/平成26年3月現在
社会福祉法人藤倉学園 大島藤倉学園は、東京ドーム3個分の広大な敷地で、知的障害者の入所支援と生活介護を行っています。また、生活介護の一環で大島町の中心地の一角に「フジカフェ」がありカフェと製菓工房を運営しています。
藤倉学園は、台風26 号による直接的な被害はありませんでした。しかし、フジカフェからわずか500メートルほど離れた場所には、家々が流された地区が広がります。学園の職員3 人も家や車を失いました。
「今こそ、自分たちのできることをしたい」。日頃から地域との関係を大切にしてきた学園では、各所から必要な物資を送ってもらってそれを必要とする所に届けたり、避難者や支援者に差し入れを行ったりしました。また、地域の方々のためにパンや菓子、コーヒーを無料で振る舞いました。
台風26号接近当日の状況
藤倉学園理事・学園長の岩下よし子さんは、台風26 号が接近した10 月16 日の朝、「停電していたので、朝ご飯は非常食を出さないといけないだろう」と思いながら、明るくなるのを待って家を出ました。いたるところが冠水していたり、木の枝が折れていたりしたため、あちこち回り道をしながら、学園の近くまでたどり着きました。しかし、学園の入り口の前に水がたまっており、その中に車が2台乗り捨ててあり、その先は行けそうになかったので、そこから徒歩で学園にたどり着きました。
厨房へ入り、「非常食は何を出そうか」と相談すると、調理員が「この間、停電の時を想定して発電機でご飯を炊く訓練をしたので、今日は献立を変えずにできる」ということでした。実は、大島藤倉学園では、昨年、800 万円以上のお金をかけて大型災害に備えた物資の調達とその道具の使い方の訓練をしていたのです。
その後、岩下さんは、早番の職員が出勤できない可能性があると思い、夜勤が1名体制である女子部に向かいました。しかし、次第に、各部署に早番者がやってきました。幸いなことに、当日の早番者は全員が被害のほとんどなかった北部の地域に住んでいました。被害の大きかった南部から出勤してくる日勤者から、「通行止めになっていて、出勤できない」と次々連絡が入りました。そのため、急きょ勤務変更を行い、その日の全活動を中止しました。
災害時のために用意しておいた乾電池式の充電器が、ひっきりなしにかかってくる携帯電話にとても役立ちました。
被害の大まかなことがわかったのは、停電が解消された朝9時半過ぎのことでした。同じ頃、職員の安否確認をしていた職員から、ある職員が家ごと流されたようで連絡がつかないということが伝えられました。その職員は助け出され、家族と一緒に島外の医療センターに運ばれていたことがわかりましたが、けがの状況はわかりませんでした。結局、「歩ける、動ける、しゃべれる」ということで、トリアージュにより特に手当ての必要はないとのことでした。しかし、後日、肋骨にひびがはいっていることがわかり、復職後も直接処遇の勤務から外れました。同じ頃、関係者などについて「あの人、この人の家が流された・行方不明」との情報が押し寄せました。岩下さんは、「次の日の午後、元町に行ってみて、その惨状に体が震えた」と話します。
藤倉学園は、今回直接的な被害は受けませんでした。利用者からは「夜中に停電になったので、怖かった」という声もありましたが、特に混乱はせずに落ち着いて過ごしました。
当日の朝食から、断水により、備蓄のプラスチック容器やお弁当箱に詰めた食事だったので、利用者はイベントの「お弁当」感覚で、むしろ、喜んで食事をしました。学園は、台風27 号が通過するまでは、非常態勢に入ることとし、日中活動を制限し、利用者は室内で過ごすことになりました。普段は学園内外の歩行などもよくしている利用者たちですが、学園は裏に山を背負っていることもあり、学園内での生活に協力してもらいました。
今こそ地域に恩返しを
「地域のために、何かできることはないか」、翌17 日から避難所に避難している方や炊き出しをしている婦人会に、フジカフェからコーヒーと焼き菓子を届け始めました。その後、同じく避難所で炊き出し等をしている役場の職員にも広げました。岩下さんは、「支援者は大変な状況に疲れており、差入れは、“えっ、私たちにまで?”と、大変喜ばれた」と語ります。20 日からは、災害ボランティアセンターや消防団に焼き菓子や要望のあった水や飴などを届けました。また、泥かき用シャベルやカップラーメンなど、東社協知的発達障害部会をはじめ、各所から送ってもらい支援物資を必要とするところに届けました。翌週21 日からは、地域住民のためにフジカフェにて無料のコーヒーとパンの提供を始めました(25 日からは台風27 号に備え閉店)。
岩下さんは、「藤倉学園は地域の方々に支えられて成り立っている。今こそ少しでも恩返しができるかもしれないという想いがあった」と話します。
また、学園には多くの方々からお見舞金が寄せられました。保護者と本人の会である「椿会」が、地域のためにフジカフェが差し入れるなら、そのための費用は出そうと支援を約束してくれました。
ボランティアの宿泊拠点として
台風26 号が大きな被害をもたらしたため、翌週に来た台風27号、28 号の接近に際しては、25 日に元町全体に避難指示、島全体に避難勧告が出されました。そのため、学園に避難したいと希望する職員家族を受け入れました。また、避難勧告は報道されたため、保護者から「島外避難もあるのか」「引き取らないといけないのか」というような問合わせも多くありました。役場からは藤倉学園は避難対象外と言われても、保健所からは避難勧告が出たらどこに行くのかという問合せが度々ありました。万が一避難勧告が出たら、南部にある知的更生入所施設「大島 恵の園」にお世話になる内諾をいただいていました。しかし、すぐ斜め前の「大島高校」が避難場所になっていることや、安全確保のために駐屯していた自衛隊の様子から、ここはかなり安全で、避難勧告は出なさそうだと考えていました。その後、夕方暗くなってから、避難勧告が解除されました。
台風27 号が去った後、40 年来関わりのあるキリスト教団体から、泥出し等のボランティアをするための宿泊場所とさせてもらえないかという要請があり、学園の建物を提供しました。また、大島町社会福祉協議会を通じて、大学や企業の社員にも園舎を利用していただき、そこからボランティアに通っていただきました。
藤倉学園理事・学園長の岩下よし子さん
元町の中心地にあるフジカフェ
フジカフェの店内
大島全体地図
http://fujikuragakuen.or.jp/