(社福)荒川区社会福祉協議会
福祉避難所開設訓練と区内の福祉施設との意見交換会
掲載日:2017年12月19日
ブックレット番号:4 事例番号:41
東京都荒川区/平成27年3月現在

 

東京都荒川区では、東日本大震災後に改定した「地域防災計画」において、区内の28 か所の高齢者福祉施設と障害者福祉施設を「福祉避難所」に指定しています。このうちの7つの施設を運営している荒川区社会福祉協議会(以下、「荒川区社協」)では、実際に福祉避難所を設置・運営することに備えた指針づくりとそれに基づく訓練を実施しました。さらに、社協の主催で「災害時における福祉施設の運営等に関する情報交換会」を開催し、福祉避難所に指定されている施設と26年度は4回の意見交換を重ねてきました。

 

東日本大震災における要援護者支援を応援

東日本大震災の際、荒川区社協では3月下旬に友好都市である岩手県釜石市の避難所で救援物資を求めているとの情報が入り、区民から募集した物資を送りました。

釜石市社協では、震災に伴い社協が運営していた訪問介護事業を休止。老人福祉センターを福祉避難所として運営し、高齢者10数人を受入れました。釜石市社協は、3月14 日に郷土資料館に開設した災害支援ボランティアセンターを運営するとともに、一般避難所運営の補助等にも取組んでいました。そのため、老人福祉センターの福祉避難所はわずか3人のスタッフで運営していました。

 

荒川区社協がこの福祉避難所と接点を持ったのは4月中旬。厳しい実情を目の当たりにして5月から荒川区社協の運営する施設職員がボランティアで福祉避難所の応援に入りました。「我々が応援に入るまでは、布団を一回も干せていなかった。高齢者を散歩に連れ出すことができたのもそのときが初めてという厳しい状況だった」と、荒川区社協事務局長の藤田満幸さんは当時を振り返ります。

藤田さんは「要援護者はどうなっているのだろうと気になっていた。できれば、支援しながら少しでも実態をつかんでおこうと思ったが、正直なところ、要援護者の実情はよくつかめなかった」と話します。また、当時、5月に釜石市の福祉避難所へ応援に入った荒川区社協施設課長の津曲孝行さんは「荒川区社協から応援に入った後に、施設の協議会からの応援が入るようになって、ようやく運営が落ち着いてきたが、それには2か月の期間を要していた。テレビで見るのとは違う実際に見ないとわからないことがいっぱいあった」と、厳しかった要援護者支援の現地の実情を話します。

 

被災地に足を運んだ職員だけでなく荒川区社協では、職員たちが区民から物資を集めるなどの取組みを行いました。現地での支援は行った職員からの報告会で共有し、一丸となって支援に取組んできました。

 

荒川区社協による釜石市等への職員派遣

  派遣先 派遣時期 派遣人員
釜石市の支援活動 釜石市災害支援ボランティアセンター、福祉避難所、釜石市役所 4月18日~10月29日

12回

36人
おもちゃ図書館の復旧支援 南三陸町、仙台市、石巻市のおもちゃ図書館南三陸町の福興市 4月6日~10月30日

4回

29人

 

荒川区では福祉避難所を発災当初から開設

東日本大震災での支援の経験をふまえて、荒川区社協では区に「福祉避難所のことをきちんと考えていく必要がある」と訴え、区は、震災後に改定した地域防災計画で福祉避難所として28 か所の高齢者福祉施設、障害者福祉施設を位置付けました。

荒川区の福祉避難所は、在宅にいる重度の高齢者、障害者を対象とした福祉避難所を〝発災当初から″開設するようにしたのが大きな特徴です。緊急時要援護者名簿であらかじめ把握した重度の方は最初から福祉施設が開設する福祉避難所へ、軽度の方はいったん一次避難所へ行き、そこから二次避難所へという考え方です。

そのため、避難所を以下のような3つに整理しています。

 

荒川区地域防災計画における避難所の種類

  一次避難所 福祉避難所 二次避難所
開設時期 発災当初 発災当初 一次避難所開設後
対 象 災害により住居等が使用できなくなった被災者 災害により住居等が使用できなくなった高齢者、障害者のうち、要介護度や障害の程度が高い被災者

・要介護4~5の在宅高齢者

・障害者(身体障害者手帳1・2級)

・上記の支援者(家族等)

一次避難所に避難した高齢者、障害者のうち、一時避難所での避難生活が困難な被災者

・要介護1~3の在宅高齢者

・障害者(身体障害者手帳3~6級の障害者等)

・妊産婦と乳児

・上記の支援者(家族等)

使用施設 小中学校、生涯学習センター、都立学校

37か所

高齢者福祉施設(入所・通所)、障害者施設(入所・通所)等

28か所

ひろば館、ふれあい館

13か所

 

都市部は在宅で暮らす高齢者と障害者が多い

荒川区の人口は20 万8千人。地域防災計画では、首都圏直下地震(M 7.3)により住居を使用できずに避難者となる数を9~11 万人と想定しています。つまり、人口の半分は自宅に帰ることができないという計算です。

地域防災計画では、区は避難対象となる要介護4~5に認定されている在宅高齢者についてあらかじめ避難する福祉避難所を指定した上で対象者名簿を作成し、その名簿を福祉避難所となる福祉施設に保管します。要介護4~5に相当する在宅高齢者は荒川区には1,200 人。そのうちの半数は自宅で過ごすことができると想定し、各福祉避難所には受入れ可能な人数の2倍を登録するしくみになっています。

都市部は、非常に多くの高齢者、障害者が在宅で暮らしています。しかも、その多くが高齢者のみ世帯やひとり暮らしです。社協の周りにもシルバーカー、杖で歩く姿が日常的に多くみられます。地域福祉をすすめればすすめるほど、災害時に地域の要援護者を福祉施設の機能を使ってどう支えるかが重要になってきます。藤田さんは「首都圏直下地震と東日本大震災ではおそらく様相が大きく異なると思われる。むしろ、阪神・淡路大震災をイメージすべきかもしれない。災害ボランティアセンターの支援内容もガレキの片づけよりも地域の要援護者を支える福祉避難所や福祉施設へのサポートの比重が高くなるのではないだろうか。社協が運営することになる災害ボランティアセンターもそこに意識をもって運営する必要がある」と指摘します。

 

取材先
名称
(社福)荒川区社会福祉協議会
概要
(社福)荒川区社会福祉協議会
http://www.arakawa-shakyo.or.jp/
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