(社福)荒川区社会福祉協議会
福祉避難所開設訓練と区内の福祉施設との意見交換会
掲載日:2017年12月19日
ブックレット番号:4 事例番号:41
東京都荒川区/平成27年3月現在

 

荒川区社協は7つの福祉避難所を運営することに

荒川区社協は福祉避難所となる28 の区内福祉施設のうち、7つを運営しています。在宅高齢者通所サービスセンターを2つ、老人福祉センター、障害者福祉会館、福祉作業所と障害者の生活実習所を2つです。

荒川区社協では「防災計画に福祉避難所は位置付けられたが、運営するために必要な条件、必要な備蓄品、対象者をどのように迎え入れるか、実際の運営がはたしてうまくできるかどうかが次なる課題」と考えました。そこで、平成26 年6月に東社協の高齢者福祉施設協議会がモデル事業として募集した「福祉避難所開設訓練」に手を挙げて、実際の運営に向けた準備をすすめることにしました。

 

訓練は同年11月9日に荒川一丁目の同じ建物にある社協の運営する2つの施設(荒川東部サービスセンターと荒川老人福祉センター)で実施することにしました。結果的には何よりも、訓練に向けた準備のプロセスが貴重な経験となりました。訓練に先立ち、内部では10 回以上の打合せを重ねて「荒川一丁目高齢者福祉避難所設置・運営指針」をまとめました。福祉避難所そのものの運営をめぐるさまざまな事項を一つひとつ整理していく必要がありました。同指針は、①緊急時職員参集、②建物内外の被災状況の把握、③施設内部の安全及び利用可能な状況の確保、④福祉避難所開設準備、⑤避難者の受付、誘導、階段移送、⑥災害時におけるトイレの使用、⑦避難所の運営、⑧地域に残された要援護者の安否確認と福祉避難所への誘導、と、その内容は多岐にわたっています。

 

両施設の通常の利用者は軽度の高齢者です。一方、福祉避難所として受入れなければならないのは重度の高齢者です。日々センターに通ってきているデイサービス利用者は福祉避難所の対象ではないものの、支援を必要とする方が多いので、福祉避難所を運営しながら、利用者の自宅を訪問して安否確認と必要な支援を行うことも必要となってきます。

 

やってみて初めてわかることも…

荒川一丁目高齢者福祉避難所に受入れを想定する在宅高齢者は133 人(付添人を合わせて266 人)です。一方、2つの施設の職員は常勤職員・非常勤職員合わせて36 人。施設が閉まっている時間帯に震度5強以上の地震が発生した場合に参集して避難所開設の業務に当たることのできる人数を具体的に調べてみると、家族に要介護者がいる職員、乳幼児がいる職員を除くと、その日のうちに徒歩で参集できるのは21人。そのうち実際に来られるのが半分とすると、10 人程度かもしれません。こうした人的な体制を考えて、緊急参集は、常勤職員だけでなく、非常勤職員も対象としました。実際にたどりつくのに要する時間を考えると、非常勤職員の方が施設の近くに住んでいることが多く、むしろ非常勤職員の力が大きく頼りになります。

参集は徒歩で幹線道路等の安全性の高い経路を選択することとし、一人ひとりの到着所要時間を一覧にまとめました。津曲さんは「時間をかけて周りの被災状況も確認しながら来てもらいたい」と話します。また、荒川区社協では「本人や家族がケガしたり、被災した場合には参集を求めない。そして、地域とともにあるのが社協。緊急参集にあたって、例えば、隣の家の人を助ける必要があれば、職員には当然にそちらを優先してもらいたい。それを押しての参集はありえない」と考えています。

 

津曲さんは「到着した際、例えば、建物に入る方法。停電した状態でシャッターをどう開けるのか。やってみて初めてわかった。やはり準備しておかないと、わからないことがたくさんある」と話しました。訓練に向けた指針を具体的に作っていき、職員全体でも議論しました。都市部の福祉施設は多くが平屋ではありません。荒川一丁目の福祉避難所も4階建ての2~4階の3フロアを避難スペースとして活用します。では、このスペースに133 人がどう入るか。区が想定する1区画2m×2mで計算してみると、70 ~ 80 人しか入りません。そこで、1.8 m× 1.5 mの型紙を作り、実際のフロアに一つずつあてはめていきました。そして、133 人のスペースを図面に落とし込みます。受入れの流れとしては、早く到着する人は「歩ける人」と想定し、最上階の4階から、一つおきに入っていただこうということもみんなで話し合って決めました。

 

福祉避難所の運営に必要となる備品や機材も検討を重ねる中で明らかになりました。これらも電気機器関係、緊急時物品、移動関係物品、生活使用物品、食料品関係と多岐にわたります。それぞれ施設の指定管理を受ける経費で必要な備蓄品の整備をすすめています。

 

訓練には日頃からつながりのある町会からも参加

平成26 年11 月9日(日)に訓練を区内外から100 人の見学者を得て実施しました。訓練は1人目の非常勤職員が施設に到着することから始まり、外観をチェックしているところで2人目の非常勤職員が到着します。シナリオで役を決めてすすめていくので、参加した職員がイメージしやすく、他の人の動きを見て、実際のときにその役をこなせることも期待できます。

外観の被害状況をチェックし、防犯シャッターを手動で開けて中に入ります。そして、施設内の被害状況を確認して第1回対策本部を開き、参集した10 人のスタッフで福祉避難所の開設準備をすすめました。避難者の受付を開始すると、福祉避難所の対象者であったり、対象でない方であったりと、7人が来所する想定です。それぞれに応対し、運営を開始するところまでを訓練しました。以下のようなシナリオの流れで行いました。

訓練1 1人目の職員が到着して外観を確認してから、シャッターを開けて入り4人目の職員が到着するまで

訓練2 5人目の職員が到着し参集経路の被害状況と施設内部を確認してから、10人目の職員が到着して第1 回対策本部会議開催まで

訓練3 福祉避難所の開設準備:発電機の設置、掲示など

訓練4 避難者の受付開始:7人の避難者が来所

訓練5 階段移送訓練

訓練6 福祉避難所の開設準備:避難スペースづくり

訓練7 災害用トイレの設置・使用

訓練8 避難所運営

 

 

福祉避難所開設訓練

 

2人以上参集したら、中に入る。シャッターを手動で上げる。

 

参集した職員が道路や周辺の被災状況について情報を共有

 

要介護5 の高齢者がリヤカーで福祉避難所に到着。

 

付添人、職員によりレスキューマットで階上の避難場所に上げる。

 

区内外から100 人が訓練の見学に参加。

 

ご本人と付添人1 人に1.8 m× 1.5mのスペース。

 

訓練には3つの町会に声をかけて、実際に訓練の様子を見学してもらいました。荒川区社協管理課長の内山順夫さんは「地域の人たちと一緒に担っていかなければならないと考えている。一人で福祉避難所まで来られない人がいるかもしれない。介助者がいたとしても、連れてこられないかもしれない。町会と一緒になって支えていく必要がある」と話します。津曲さんは「町会の人にも、『災害時には気になるあの人はあそこに連れて行けばよいのだ』とわかってもらうことで、日常生活でもその町に暮らす安心が高まる」と指摘します。

災害ボランティアセンターとの連携も想定し、地域のNPOやボランティア団体にも参加してもらいました。

荒川区社協は日常的に積極的な地域福祉活動を展開し、町会や民生児童委員、地域のボランティアとの関係をこれまでに築いてきています。災害時だけ無理やりな協力をお願いするのではなく、日頃からのつながりの延長で地域との関わりを考えていくことが大切になります。

 

取材先
名称
(社福)荒川区社会福祉協議会
概要
(社福)荒川区社会福祉協議会
http://www.arakawa-shakyo.or.jp/
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