NPO 法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク
子育て家庭が主体となった防災ハンドブックの作成
掲載日:2017年12月18日
ブックレット番号:4 事例番号:42
宮城県仙台市/平成27年3月現在

 

東日本大震災発生時、特定非営利活動法人せんだいファミリーサポートネットワーク(以下、「せんだいファミサポ」)が運営する「仙台市子育てふれあいプラザ のびすく仙台」では、20 組ほどの親子が思い思いに過ごしていました。震度6強の大きな揺れに襲われ、8名いたスタッフは必死に声かけを行いました。遊具や本棚などが倒れ、施設内はめちゃくちゃになりましたが、建物自体は奇跡的に倒壊を免れました。

 

震災時の子育て家庭への支援

せんだいファミサポの代表理事を務める伊藤仟佐子さんは、震災発生から2日後、仙台市からすぐにのびすく仙台を開けてほしいと依頼を受けました。物が散乱した施設内の片づけを行い、震災の4日後には2名のスタッフとともに施設の運営を再開することができました。再開してすぐは、保育所が開所していないこともあり、100組近い親子が来所する日々が続きました。

 

のびすく仙台には、全国からさまざまな支援物資等が届き、多くのボランティアも支援に訪れました。伊藤さんは「その支援に大いに助けられた」と話す一方、震災時の子育て家庭への支援は非常に限られていたと指摘します。特に避難所については、「子連れの親子は避難所では暮らせない」と伊藤さんは話します。まず、子育て家庭が必要とする小さい子ども向けの洋服や、食べ物、おむつなどを揃えることができません。また、個人の空間が確保されていない状態では、乳児の夜泣きや幼児の騒ぐ声への周囲の視線が気になり、避難所を自ら出ていく親子も多かったと言います。

しかし、避難所を出て自宅等に戻った場合、物資は自分で調達しなければなりません。混乱した物流状況の中で、子育て家庭が必要な物資を得るのは非常に困難なことでした。伊藤さんは、「避難所を出た顔見知りの母親に、個別に紙おむつや粉ミルク等を届けたこともあった」と振り返り、震災時の子育て家庭への配慮が浸透していない現状を指摘しました。

 

特定非営利活動法人

せんだいファミリーサポートネットワーク

代表理事 伊藤仟佐子さん

 

「自分たちの防災ハンドブックがほしい」

せんだいファミサポでは、東日本大震災が起こる2年前に、既に子育て家庭向けの防災ハンドブックを作成していました。のびすく仙台のスタッフが中心となって関係機関をまわり、阪神大震災と平成16 年の新潟県中越地震の取材も行って、防災の心構えについてまとめたのです。『地震に強いママになる!』というタイトルで、5,000部を作成し、のびすく仙台で配布をしていました。

 

東日本大震災後、このハンドブックを持っていた利用者から、「震災時にとても役に立った」という意見が伊藤さんのもとに届きました。利用者たちからも「自分たちの経験や記憶を共有し、活用してほしい」という声が多くあげられ、ボランティアの母親を中心に、防災ハンドブックの改訂版を作ることになったのです。

ハンドブック作成への協力を呼びかけると、子育ての支援団体、助産師、管理栄養士、産業カウンセラーなど、震災前から交流のあった個人や団体が二つ返事で協力を快諾してくれました。伊藤さんは、「以前から顔を知っている関係であったからこそ、大変な時期でも協力が得られたのだと思う」と振り返ります。

仙台市消防局などの防災機関をまわるとともに、平成23 年6 月から8月にかけて、のびすく仙台の利用者とボランティアを主な対象として、記述式のアンケートを行いました。震災の直後ということもあり、少しでも答えてくれる人がいれば良いと考えていましたが、200 名以上から回答を得ることができました。「多くの母親が、自分たちの経験をより多くの人に知ってもらい、活用してほしいという強い思いを持っていると感じた」と伊藤さんは話します。

 

アンケートの結果をまとめていく過程で、『地震に強いママになる!』というタイトルを変更しようという意見が出されました。実際に震災を経験した母親たちは、「地震には強くなれない、なる必要もない」と感じたからです。アンケートで多く記述があった、「大切な人を守る」という言葉をとって、『大切な人を守るために今できること』というタイトルをつけました。

 

それぞれの地域で、自分たちのハンドブックを作ってほしい

そして震災から半年後には、『子育てファミリーのための地震防災ハンドブック 大切な人を守るために今できること』が完成しました。24ページにわたるA5 判の小さな冊子には、震災当日の子育て家庭の体験談や、地震発生時の行動指針、備蓄品や震災後のメンタルケアまで、必要な情報がぎっしりと詰め込まれています。

仙台市は転勤の多い地域ということもあり、震災から時間が経つにつれて、住民の中には震災を身近に体験していない子育て家庭も増えてきています。新しく仙台市に来た人や、以前から住んでいても震災後に子どもが生まれた人たちとって、小さい子どもを抱えながらの震災は、想像の世界のことでしかありません。その人たちの不安に対して、このハンドブックが「大丈夫だよ」と安心させられるような「お守り」になればいいと伊藤さんは話しました。

 

ハンドブックの発行直後から、保育所や幼稚園、学童等から冊子を送ってほしいという要望がありました。人づてに情報が伝わり、仙台市にとどまらず、市外や宮城県外からも問い合わせがくるほど、その反響は大きいものでした。また、せんだいファミサポでは冊子の配布だけでなく、各地で冊子を活用した防災講座等も行っています。伊藤さんは、「これはあくまで、『わたしたちの』防災ハンドブックだと思っている。他の地域の方々には、これを参考にして、それぞれ自分たちのハンドブックを作成してほしい」と、地域の特色やニーズに合わせた防災の取組みが、全国に広がることへの期待を示しました。

また、伊藤さんはハンドブックの作成に携わる中で、震災前のつながりが何より大事だと感じたと言います。「震災後のボランティア活動でも、ハンドブックの製作でも、以前からつながりのある個人や団体からたくさんの支援をいただいた。ちょっとしたことでも相談したり、連携できるような関係づくりが、緊急時には大きな助けになる」と、日ごろからのネットワークづくりの大切さを強調しました。

 

『子育てファミリーのための地震防災ハンドブック大切な人を守るために今できること』

 

取材先
名称
NPO 法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク
概要
NPO 法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク
http://sefami.sakura.ne.jp/sefami/
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